能力テスト ~CHIAKI UZUKI~

 生徒会を悪く言うつもりはない。だって好奇心とはいえ禁断に手を出してしまったから。そんな私を快く生徒会は受け入れてくれたから。

 私の名前は卯月千晶だ。都立中学に通う平凡な中学生。始まりは私が中学三年生の秋口だった。巷である音楽が流行した。だがその音楽はクラシックだったためかニュースなどは表立って特に取り上げる事はなかった。それを逆手に所謂ネット社会で爆発的に流行した。その音楽は“非能力が聴くと眠っている能力を呼び覚ましてくれる”というのも。事の大きさを知った誰かが“願いの叶う音楽”だと言い換えたのだ。そのため“非能力が聴くと眠っている能力を呼び覚ましてくれる”という本当の事は噂の一人歩きになってしまったらしい。

 しかしその音楽を演奏していたのは小学校からの仲良くしている木梨舞姫のお姉さんだった。舞姫のお姉さんは幼いころからピアノを習っていた。だからとても上手で舞姫の家に遊びに行く度に演奏をしてくれた。生徒会に入って分かったことだが舞姫のお姉さんは潜在能力の持ち主。能力もどんなものか知っている。だから今まで私が演奏を強請っていたい事に申し訳なさが込み上がった。

 ある日の事。音楽を聴いたことで何かしらの潜在能力に目覚めているのではという理由で中学校から緊急の三者面談を行うことになった。もちろん音楽を聴いた全員が対象だ。先生から怒られるかと思ったが予想は外れた。先生から告げられたのは”進学先の変更”だった。本来、私は舞姫と同じ学校を受験し進学する予定だった。そんな先生が提案した進学先は東ヶ崎学園高等部だった。もちろん入試は受けなければならないが特別枠推薦とやらで、落ちることは無いらしい。他校ではあるが私の他にも似たように進学先の変更を余儀なくされた生徒が大勢いた。私は嫌だったが有無は問わないらしい。仕方なく私は進路変更を受け入れた。

 その日からは特に張り合いの無い日々を過ごしていた。だってそうでしょ、他にも音楽を聴いた子はいるのに特別推薦枠を貰ったのは私だけ。しかも合格同然の推薦枠。緊張で張り詰めた教室はとても居心地が悪かった。卒業式も目前となった二月最後の土曜日。私はある方の自宅に招待されていた。真殿邸。これが雅さんとの出会い。庶民の私では滅多に目にすることの無い大豪邸。その建物に入れるのだからすごい事だと思ってしまった。

「あの、お約束をさせて頂いています、卯月千晶です」

 呼び鈴を鳴らすと名前を訊かれた。緊張してしまい声が飛び跳ねる。私の様子に応対してくれた人が小さく笑っている。恥かしい。暫くすると大きな門が自動で開いた。“中に入れ”ということなのだろう。私は一度、深呼吸をした。そして敷地内に足を踏み入れた。正面玄関まではそれなり距離があった。さらにその周りには大きな庭。あまりの美しさに目を奪われてしまった。こんな所に住んでいるのだからきっと本に出てくるようなお姫様が住んでいるだろう。と私は妄想を膨らました。

 正面玄関に着くとタイミングよく扉が開いた。これだけのお屋敷監視カメラかなにかで見ていたのだろう。宅内に入ると豪華な玄関ホールに再び目を奪われる。そしてホール中央にある階段から一人の女性が降りてきた。本当に“本の中のお姫様”みたいだった。

「真殿雅よ、こんな遠いところまで来てもらって悪いわね」

雅さんの言葉に私は圧巻されて声が出せなかった。雅さんの言葉に首を横に振ると優しく微笑んだ。そして雅さんに案内されたのは敷地内にある大きくて白い部屋。二階建てで吹き抜けになっているのか天井が非常に高い。しかも防音などの対策済みだと説明された。

「ここで何をするんですか?」

「今から千晶さんの潜在能力の確認と能力値を図ろうと思うの」

「能力値…。ですか?」

「雅、相手は初心者なんだから手加減しろよ」

 何をするのか分からない私に雅さんが優しく教えてくれた。そして同時に雅さんの右手には大きな氷の塊があった。開いた口が塞がらないというのはこういうことなのだろうか。唖然としていると放送が聞こえた。壁の一部が磨りガラスになっている事に気づいた。奥に誰かいるのだろう。しかしマジックミラーの類で私からは人影を見ることが出来なかった。磨りガラス越しの人物に忠告を受けると雅さんは「とりあえずこの氷を何とかしてもらいましょうか」というのだ。いきなりの注文に『何とかって、どうすれば…。大体自分の能力も知らないのに出来るわけがないじゃない』と心の中で思う。すると雅さんは心を読んだ様に答える

「難しく考えなくて良いのよ。そうね、今度の春から一緒に活動するメンバーだと今のように“この氷を何とかして”と言うと溶かしたり叩き割ったり切り裂いたりするかしら」

「とりあえずやってみます」

 だが雅さんのアドバイスはかなり難易度が高かった。何が出来るか分からないが取り敢えず氷を無くす事だけを考えた。考えることに夢中になっていると雅さんの「卯月千晶さん、合格よ」という声が聞こえた。硬く瞑っていた目を開けると先ほどあった氷がなくなっている事に気づく。そして雅さんの“合格”に安心をすると気が抜けてしまいその場に倒れた。

■■■

「緊張と疲れが出たのね、怖い思いをさせてごめんなさい」

 目を覚ますと私はベッドの上だった。そして雅さんが顔を覗き込ませている。かなり心配をさせてしまったのだろう、そういう顔をしている。雅さんは続けて「外も暗いから今日は泊まっていくといいわ」と言った。雅さんの言葉が今一つ理解できなかった私はベッドを抜け出しカーテンを開ける。窓の外は日が落ちていて真っ暗だった。『どれだけ寝てしまったのだろう』と後悔する。同時に雅さんの言葉に甘えることにした。

 その日は雅さんと生徒会の話を聞かせてもらった。どんな所でどんな人が居るのか。聞けば聞くほど、進学先を変更してよかったと心から思った一日だった。

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