恋の始まり ~KAKERU SAKAKI~
「暖かな春の訪れとともに、私たちは東ケ崎学園高等部の一年生として入学式を迎えることが―――」
―――桜が舞い散る、春。
東ケ崎学園高等部の入学式が始まった。新入生代表が紙を見ながら言葉を述べる。
「最後になりましたが、これからお世話になる先生方、先輩方、私たち新入生を温かい目で見守り、ご指導くださいますよう、よろしくお願いいたします。新入生代表、柚河喜結。」
一分半程だろうか言葉を詰まらせる事なく話せば締めに自分の名前を言って終わる。俺はその新入生代表に一目惚れをした―――――。
東ヶ崎学園高等部。勉強重視のわりに女子の制服が可愛いと有名らしい。俺は今日から東ヶ崎学園高等部に通う。中学の時から友人は多いほうだった。人間観察が好きで詮索とかも大好きだ。だから来る者拒まずをモットーに生きてきた。成績もそんなに悪くない。薦められた高校は何処も難易度が高め。正直高校に言ってまでガッツリ勉強をしたいとは思わなかった。大体、潜在能力が使えるやつが優位に立つご時勢。努力がどれ程無駄なことか俺は知っている。
「ねぇ、翔、東ヶ崎学園なんてどうよ」
母親の一言で父親も賛成する。潜在能力を使えない、所謂一般庶民は高学歴で大企業に就職するか、そこそこの学校を出て中小企業に就職するかの二つに一つ。正直な話、どちらも興味が無い。なのになぜか東ヶ崎学園の学校説明会には行こうと思った。
潜在能力がたくさんいる。潜在能力で殺人を犯した奴がいるって聞いたことある。ガセネタかもしれないがネットが東ヶ崎学園に関するスレッドは常に話題が絶えなかった。そういうのもあったからだろう。学歴なんてどうだっていい。三年を過ごす学校を選べるのなら、危険でも楽しそうなところがいい。
「美音!待ってよ」
「夏美、早くしないと、あんたが見たいって言ったところ見れないよ」
俺は東ヶ崎学園の学校説明会に来た。両親や友人たちと来ている奴が大半だった。一人で来るのは珍しいのだろうか。俺たちはいくつかのグループに分けられ学校案内に参加した。古さを感じさせない校舎はさすがだと感心する。ついでに言うと案内してくれている人は超美人。真殿雅って言ってたかな、ネクタイの色からして二年生か。
「生徒会らしいぜ」
「なにがだよ」
「ネットの殺人鬼」
「え?あの潜在能力を使った奴だろう」
「そうそう、長い髪ですらっとしてる女」
同じグループのいた男子生徒が小声で話しているのが聞こえる。そういう詮索好きじゃない。だけどネットの噂は本当なのか、もし、本当なら今、案内をしてくれている真殿雅が犯人なのだろうか。案内が終わると昼食の時間だった。今日は三種類の学食がタダで食えるらしい。グループ参加が多いのはこれもあるからなのか。俺はA定食を頼んだ。ヘルシー思考で女子に人気がありそうだ。料理を受け取ると席を探す。何処もいっぱいだ。ふとひとつの席を見つける四人がけの席に一人で座っている。もし他に友人がいるなら他を探すしかないのだが…。
「すみません、相席とかしてもいいっすか?」
「…どうぞ」
「俺、榊翔って言うんだ、***中学な、君は」
「…柚河、東ヶ崎学園の中等部よ」
女子生徒は一言だけ発する。『無口なんだな』そう思いながらも俺は女子生徒の言葉に甘えることにした。淡々と喋る子だなと、思った。髪が長くてスラッとしていて…、ん?そういえばさっき似たようなことを聞いたな。
「ごちそうさま」
「あのさ!」
考え事をしているうちに柚河という少女は食事を終え、席を立ってしまった。思ったよりも大きな声が出てしまった。周りが注目している。恥ずかしい。無言が続く。すると柚河が「用が無いなら失礼したいのだけど」と目で訴えてくる。どうすることも出来ず、とりあえずこの位置からだとまた声が大きくなってしまう。そう思った俺は柚河に駆け寄る。
「あのさ、午後のプログラム一緒に行動しないか」
いやいやいや、なに言ってんの、俺!
「興味ないわね、大体中等部も高等部も大して変わらない」
そう、なりますよね、うん、分かってた、分かってたよ。俺がため息をつくと柚河が近づいてきた。驚いて軽く後ずさりをする。
「あなた東ヶ崎学園にはこない事をお勧めすわ」
そういって柚河はその場を後にする。俺は意外すぎる助言に思考停止した。その後、俺がとった行動と言うのは東ヶ崎学園の受験だった。勧められて行った見学会でまさかの回答。何者か分からないが妙に興味が湧いたのだ。そして俺は東ヶ崎学園には無事合格した。
■■■
入学式。新入生代表で挨拶をしている女子生徒に目を奪われる。スラッとした長身に肩上までのショートヘア。挨拶が終わると女子生徒は名前を名乗った柚河喜結と周りが拍手をする中、俺は唖然とする。初めて会ったのは半年前。たった半年で彼女になにがあったかは知らない。唯、この気持ちを言葉で表すのであれば恋をした。だ。しかも立ちの悪い一目惚れ。俺は表に出さないようにため息をつく。そしてあて振られたクラスに入ると柚河喜結がいた。これはもしや運命なのではないのか。この時の俺はお気楽にそう考えるしかなかった。
この後、喜結がいるという理由で生徒会に絡んだことで苦難が押し寄せるなんて思いもしなかった。
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