Xintiandi~日常~

 天野夏美にとって悲劇としか言いようもない細田美音の能力暴走事件。半ば美音のお陰で潜在能力を目覚めさせることが出来た夏美だが、事件後しばらく学校に登校することはなかった。

「ねぇ、知っている?」

「あぁ、A組の」

「そうそう、A組の細田さん」

「こんな時期に変だよね」

「事件に巻き込まれたとか?」

「ニュースにはなっていないからそれはないでしょ」

 事件の規模が大きい割に大々的なニュースにもならず細田美音という女生徒が退学した事への噂だけが学校中に広まった。

 事件から二週間が過ぎた。小声が響く中、夏美が登校してきた。顔に出さないもののかなり心配している喜結。声をかけるため自席に鞄を置く夏美に近づく。

『一年G組、天野。一年G組、天野。至急、学園長室まで来ること』

 しかしその声は突如流れた校内放送にかき消されてしまった。マイクテストを兼ねていたのか、所々雑音が混ざる。放送が流れたことで教室中の視線を一気に浴びる夏美。放送を聞いた喜結もまた嫌な予感がしていた。視線を浴び、周りから質問攻めになっている夏美。声を掛けられる状態ではなかった。しかし危機感のない呑気な声色と笑みを浮かべ挨拶をする。それを聞いた喜結はその呑気さに呆れてしまう。

「もう大丈夫だから。あ!でも」

 不安そうな顔をしている喜結を安心させるために阿呆面な笑みを浮かべた。同時に先程まで笑っていた夏美の表情が真剣になり、喜結の名前を呼ぶ。夏美の真剣な表情に喜結も緊張をする。音を立てて唾を飲む。そして教室中の空気までもが重圧感のある緊張へと変わり沈黙した。

「学園長室ってどこにあるの?一度も行ったことなくて」

「まったく…。案内してあげるから」

 夏美の一言で新喜劇のようにこける音が教室に鳴り響いた。喜結は盛大なため息とともに呆れる。逆に夏美は頬を膨らませ拗ねる。呆れながらもそんな夏美に微笑みかけ学園長室へ行くため教室を後にした。

■■■

「学園長ってどんな人だろう」

 学園長室までの道のりを歩いていると楽しそうに夏美が呟く。イベント事があまり好きではないのか表だって姿を現さない学園長。入学式でさえ顔を見せることはなく学園長からのあいさつでは各教育現場に赴任している校長が代弁する。そのため教員も含め一部の人間だけが学園長の顔を知っている。故に一部の生徒の間では名前だけの存在とさえも噂されている始末。だが、喜結はこのあと何が起こるのか大体の予想できているため学園長室に着くまでの間、夏美との会話は一切しなかった。

 高等部の校舎からしばらく歩く。職員室とは別に教職員らが寝泊りをする教員寮が見えてくる。その教員寮を過ぎた先に高等部の校舎とは大きさも趣(おもむき)もまるで違う、洋館のような建物が目の前に姿を現した。驚きを隠せない夏美に当たり前かと納得する喜結。「ついたよ」 と喜結が一言発し、建物の中に入る。

 学園長室と表札の掲げられた重圧感のある扉の前に立ち、二回ノックをする。ノックに答えるように「どうぞ」と中から声が聞こえる。喜結はゆっくりと扉を開ける。

「失礼します」

 喜結が部屋の中へと入ると続いて夏美も一言発して部屋へ入る。アンティーク調の部屋の内装に、クラシックの音楽が少量で流れている。何より重圧感のある扉と平行に設計された大きな窓が高級さを感じさせる。部屋の雰囲気に合わせた大きな机と対の椅子。その椅子にどこか憎むことのできない雰囲気を漂わせる青年が座っていた。

「連れて参りました」

「君が天野夏美さんだね。あぁ緊張することないよ。私は東ヶ崎学園ここで学園長をしている東ヶ﨑司とうがざきつかさっていうのだ。よろしくね」

 青年は机に腰を預け、夏美に話しかける。先程まで緊張をして上手く呼吸をすることが出来なかった夏美が一瞬にして唖然としてしまう。司の雰囲気にのまれた証拠だ。微笑みを浮かべる司。その笑みに夏美もまた笑みを溢す。二人の雰囲気を断ち切るように喜結が夏美を学園長室に呼び出した理由を問いかける。すると司は真剣な眼差しで夏美を今日付けで生徒会に入るようを命じたのだ。予想はしていたものの「納得のできる理由を教えてください」と喜結は反抗的に理由を問う。喜結の質問に小さく笑みを溢し「細田美音」と小さな声で夏美の親友の名を口にした。司の発言に確信と疑いを持つ喜結。

「学園長の指示だから従ってね」

「ふざけないでください!」

 対して何の話をしているのか理解できずに困惑する夏美に司は憎めない笑みを浮かべ優しい口調で言う。優しい口調でも喜結が納得することは出来ず、反発するように怒鳴る。喜結の優しさを感じた夏美は「柚河さん、ありがとう」と喜結を制止させる

「学園長、畏まりました。生徒会の入部の命、謹んで承らせていただきます」

 揺らぐ事の無い瞳で司を見つめ、生徒会入りの命を承諾し、「失礼しました」と一礼をして夏美は学園長室を後にした。夏美が学園長室から出ていくと続いて外に出ようと扉に手をかける喜結を阻止するためか「喜結もあれくらい素直ならなぁ」と聞こえる声で司が言葉を発した。司のもう一つの顔だ。性は違うが司は喜結の実の父親。聞こえてきた言葉に呆れ溜息をつく喜結。

「言葉ですか?態度ですか?どちらにしても、あなたの素直にはお答えできないかと思うのですが」

「そうだなぁ…。パパって呼んでくれたら」

 父親といえ相手は学園長。しかも喜結がいるこの場所は学園長室。自然と丁重な言葉遣いになってしまう。そんな喜結に司は真剣に悩み、思いついたかのようにポンと手を叩き答えを出す。司の発言があまりにもふざけていると感じた喜結は全て言い切る前に「謹んで、お断りします」笑顔で言い放つ。失礼過ぎたのではないかと感じながらも司の態度に苛立ってしまい、音を立てる様に思いっきり学園長室の扉を閉めた。

「あ、喜結ちゃん。天野さんをちゃんと生徒会室まで案内するんだよ」

「わかりましたから、そんな大声でちゃん付けで呼ばないでください」

 扉の外にいる喜結に聞こえる大声で言い放つ司。その言葉が聞こえ恥ずかしさがこみ上げたのか、閉めた扉を少し開け真っ赤にした顔を覗かせ、今度は静かに扉を閉める喜結。喜結が扉を閉めたのを確認すると学園長室で一人怪しい笑みを浮かべ小さく呟く。

「本当に可愛いなぁ僕の娘は…。姿も中身もまるで君の写見だよ」

■■■

 先に学園長室を出た夏美はすぐそばの庭で野良猫と会話をしながら喜結が来るのを待っていた。暫くして喜結が建物の外に出てくるとすぐさま駆け寄る。そんな夏美に犬っぽいと思い微笑をこぼし、授業に戻るため高等部のある校舎棟に戻る。放課後、二人は生徒会室を訪れた。生徒会室と書かれた部屋の扉を喜結が開けると夏美が室内を覗く。室内は夏美たちが授業を受けている教室の三分の二らいの大きさ。夏美はこじんまりしているイメージを持っていたのか部屋の広さに驚きを隠せないでいた。

「あなたが天野夏美さんね、私は東ヶ崎学園高等部生徒会会長をしています、真殿雅(まどのみやび)、三年生よ」

 唖然と立ち尽くす夏美に声をかけたのは三年の学年色のである青色のネクタイをつけ、夏美や喜結と異なる制服を見事に着こなし、ウェーブのかかったロングヘアーの女性だ。雅の美しさに目を奪われていた夏美に喜結が一度咳払いをする。その咳払いに我に返った夏美は喜結に一言、礼を言う。 二人のやり取りが珍しいと思ったのか雅は悪戯な笑みを浮かべた。雅の笑みに気づいた喜結は恥ずかしくなり顔を赤く染めて俯く。

「ごめんなさいね、人付き合いの苦手な喜結が友達を作って仲良くお話ししているのがとても珍しくて」

「会長、誤解を招くようなことを言わないでください」

「誤解ではないでしょう。わざわざ一般生徒用の制服を着ているのだから」

「誤解って何が誤解なの」

 雅と喜結の会話に小首を傾げる夏美。それを助言する雅に喜結は反抗するも到底かなう筈もなく敗北の意を称して無言となった。だが夏美の中で誤解と言う言葉が引っ掛かってしまい喜結に尋ねる。その返しに友達と言う言葉が誤解であることを伝えたかったが親友を失ったばかりの夏美には酷なことだと喜結は分かっているため声を殺して唇を噛む。

「会長、柚河で遊ばないで、僕らにも自己紹介させてください」

 そんな喜結たちの様子を見ていた一人の少年が丁寧な口調で助言した。少年の助言に「楽しかったのに」と頬を膨らます雅。そんな雅に呆れて溜息をつく少年。返答に困り果てていた喜結は「ありがとう」と少年に耳打ちをして隣部屋に移動する。

「えーと、天野さん、これからあなたと一緒に部活動をする仲間を紹介するわ。さっきも紹介したけど私は生徒会長の真殿雅よ」

「副会長の舘宮たちみや雅也まさや、二年だ」

「俺は九条拓哉くじょうたくやだ、まぁなんだ、今は庶務会計なんてもんをやっているが次期会長―」

 小さく咳払いをして会長である雅から順に始まった自己紹介。雅の自己紹介が終わると自然と流れのようにすらりとした少年が着席していた場から立ち上がる。淡々と雅也が言う。着席を確認すると次に立ち上がったのはやや意地悪げな笑みを零す。俗にいう俺様系の少年。どんなもんだと偉そうに言う拓哉に周りは呆れ、全て言い切る前に隣に座っている銀縁の眼鏡をかけた少年が机の下で思いっきり拓哉の足を踏む。その衝撃で表情を歪ませ席に座ると銀縁の眼鏡をかけた少年が立ち上がる。先程、会長に遊ばれ困っていた喜結を助けた少年だ。

「僕は紫享珪しきょうけい。同じ一年です。隣にいる馬鹿とほぼ同職の会計なのでわからないことがあったら馬鹿カレではなく僕に聞いてください」

「んで、さっき天野さんを生徒会室に連れて着た彼女が副会長の柚河喜結よ。ちなみに朝、お会いした東ヶ崎学園長の愛娘で令嬢なのよ」

 優しくもどこか黒い笑みを浮かべながら珪が自己紹介を終える。珪が自己紹介を終えると同時に隣部屋から生徒会メンバーと同じ制服に身を包んだ喜結が姿を現す。立ったままの喜結の隣に素早く雅が立ち、肩に優しく手を乗せて誇らしげに自己紹介をする。喜結の紹介を聞いて始めは頷くも副会長と令嬢という言葉を聞いて夏美は仰天した。

 震えながら喜結に指を指す夏美。顔に合わず人をからかうのが大好きな生徒会長、真殿雅は夏美の反応を見て楽しげに微笑む。一方で夏美の今後を心配しているのか、それとも雅のおふざけに呆れたのか小さく溜息をつく喜結。その後は夏美の歓迎パーティだと会長の一言で始まったお茶会。こうして夏美の生徒会初日は終わりを告げる

■■■

 帰宅した夏美は台所で夕飯の支度をしている母親に役職の発表はなかったものの、生徒会に入部したことを伝える。美音の死後、笑顔を見せなくなってしまった夏美から聞こえた明るい声音に安心して母親は笑みを浮かべながら応援する。自分の部屋につくなりベッドに飛び込みベッドヘッドに飾ってある一つの写真立てを手にとった。高校の入学式後に美音と二人で撮った写真が収まった写真立てだ。その写真立てを強く抱きしめ、夏美は不安を抱えながらも生徒会で頑張っていくと決意を固める。親友の死と引き換えに手に入れた潜在能力をきっかけに主人公、天野夏美の波乱万丈な高校生活の幕があがった。

 悲劇から一転、新たなスタートとなった夏美の生徒会入部。入部から一ヶ月が経ち、役職も庶務に決まった。一ヶ月も経てば細田美音という女生徒退学の噂も少なくなる。

 平凡かつ平和な日常に戻ったある日の放課後、夏美はいつも通り鼻歌を歌い、元気よく生徒会室の扉を開ける。しかし生徒会室はいつもと雰囲気が違った。窓を全開にしてカーテンをなびかせ、袖を捲り、大工作業をする一年メンバーの拓也と珪と喜結の三人。その光景に唖然とする夏美。そんな夏美に後ろから雅也が声をかける。後ろから呼ばれた事にびっくりするも「天野はこっち」と言われるがまま生徒会室の隣の部屋に行く。そこには雅が生徒会専用の制服を掲げていた。

「これ、天野さんの新しい制服よ」

「新しい制服?」

 校則などを覚えきれていない夏美ははてなマークを浮かべて首を傾げる。喜結から夏美の学力などある程度聞いていた雅だったが予想以上だった。「よ、よく東ヶ崎学園ここに入学できたわね」と思ってしまうほどだ。

「まぁ、簡単に言えば私は生徒会役員ですって見分けてもらうのが目的なの。もちろん他にも理由もあるけど、後々、自分自身で経験することだから今、言うのはやめておくわ。それにその方が覚えると思うの」

「なるほど」

「ってことで早速これに着替えてね!」

 雅の丁重な説明を理解したのか感心する夏美。そんな夏美に微笑みながら制服を持った雅が近づく。条件反射なのか後ずさりをする夏美。雅の悪い癖が出た証拠だ。真殿雅、優しくておしとやかな性格の持ち主だが怒るととても怖い。有名事業家のお嬢様である一方で顔に似合わず人をからかうのが大好き。場は心得ているが、度が過ぎてしまうことが多々。これが雅の悪癖なのだ。別室から夏美の叫び声がするとその叫び声を聞いた生徒会メンバー全員が『またか』と声を揃えて呆れる。暫くすると隣部屋の扉がゆっくりと開くと一般生徒用のセーラー服姿から生徒会専用のブレザー姿に着替えさせられた夏美が姿を現した。

「さすが、会長!見立てどおりです」

 夏美の制服姿を見た一同。珪が第一声で雅を持ち上げる。珪の言葉にうれしく思ったのか「似合っているでしょ!」と自分の事のように感想を聞く雅。珪と喜結以外のメンバーが各々に『似合う』と言えば満面の笑みを溢す夏美。一方で喜結が先ほどの似合うコールに参加していないのに雅が気付くと雅は喜結に近づき肩に手を置く。

「天野さん。実はその制服の色は喜結がコーディネートしたのよ」

 雅が一言そういうと夏美は首を傾げて「そうなの?」と喜結に聞く。すると恥ずかしさからか、喜結は進めていた仕事の手が止まり、顔を赤くした。喜結の反応が嬉しかったのか夏美は再び満面の笑みを浮かべる。だが一つ疑問が浮かび上がった。それは喜結と自分のタイの種類と色が違うこと。

「はい!雅会長、質問。同じ一年生なのに私はピンクのリボンなのに柚河さんは赤色のネクタイ。どうして種類と色が違うんですか?」

「一年生の学年色は赤色なのはわかっていると思うけど、実はね、特例があるの」

「特例じゃなくて選択制、個性を養うのが目的で学年色の同系色、つまり一年生なら赤色のネクタイかピンク色のスカーフリボンから選べるってこと、入学説明会の時に説明があったはずだけど」

 真っ直ぐ上に腕を伸ばし、夏美が雅に問いかけると 待っていましたと言わんばかりに答える。雅の特例の言葉に違和感があり、メンバーは雅の口元が緩んでいるのに気が付く。冗談を言って夏美で遊んでいる事に確信した。雅の冗談に呆れた喜結が夏美に真実を伝えると雅は「何で言っちゃうの?」などと子どものように拗ねたのだ。二人のやり取りついていけず阿呆面を浮かべる。そして喜結の言葉にあった入学説明会の時の記憶が曖昧で美音に注意されていたことを思い出す。だが、雅と喜結、どちらの言葉を信じていいのか分からない夏美は今にもキスが出来てしまうのではないかという位、顔を近づけ必死な表情で喜結に問う。

「特例とかじゃないんだね、ね?」

「特例じゃない、特例じゃいないから」

 「顔が近い」と半分焦りながら夏美から顔を離そうとする喜結。喜結の特例ではないの言葉に安心をし「ごめん」と一言お詫びをして安堵の息をつきながら顔を離す。

「喜結がこんなにも表情を見せるなんて珍しいですね」

「確かに、クラスが違うとはいえ同じ生徒会で過ごしていてもあんなに人間らしい柚河は初めてだ」

「二人とも、喜結をなんだと思ってるの」

「生徒会の中で一番喜結をおもちゃにしている雅が言う言葉ではないきがするんだが」

「喜結だって普通の女の子なの。ただ育った環境上、不器用な性格ってだけ、ちゃんと恋もしているのよ!」

 夏美と喜結のやり取りを微笑みながら眺めている雅に珪が話しかけるとそれに続いて拓哉も会話に混ざる。珪と拓哉、二人の会話に呆れたように言う雅だが、雅の警告を聞いた雅也が割り込む。雅也の発言が事実なだけあって雅は反論できず話を逸らしたのだ。雅の恋という言葉にびっくりしたのか異常なまでに反応する三人の男子。その反応が予想外だったのか雅は多分と付け足して逃げるようにその場を離れた。逃げるようにその場を離れた雅に雅也・珪・拓哉は『逃げた』と心の声を揃えて呆れ各々の持ち場に戻る。

 その場を上手に逃げ出した雅は手際のいい喜結のことだから仕事の話をしているのだろうと察し喜結のもとへと近づく。予想は見事的中、喜結が現在の仕事である学園祭の準備について話す夏美と喜結の二人に文化祭で使用する不足品の買い出しを頼んだのだ。文化祭準備の買い出しを頼まれた喜結と夏美は雅から買い物リストなるものをもらい下駄箱でそのリストの内容を確かめる。

「このリストを見る限り何かの衣装とかを作るのかな?」

「当日の楽しみにしておいた方がいいんじゃない?」

 そのリストを見た夏美が一言。確かにリストには何に使うのか不明とも思えるスプレー缶や布・糸の文字。喜結は頭の中で嫌な予感が過ったのか、青ざめた顔をで「考えたくない」と呟く。喜結の顔色を見ることなく、その言葉に純粋かつ単細胞な夏美は「確かに」と嬉しそうに微笑む。そんな夏美に何も言葉が出ない喜結はひとり悶々と何かと葛藤する。そんな二人に一人の男子生徒が近づく。そして夏美が持っていた買い物リストを取り上げる。

「このリスト、明らかに文化祭の衣装の材料ぽいけど」

「文化祭の衣装ってことは生徒会が着るってことですか?」

「榊、余計なことを言うな」

「えーと、榊さんは柚河さんの知り合いかなにかですか?」

 男子生徒の言葉に夏美は猛スピードで反応し男子生徒に食いつく。夏美の反応に溜息をつきながら、夏美ではなく割り込んできた榊と呼んだ男子生徒を注意する。夏美の一言に榊と呼ばれた男子生徒は夏美が新顔だと気づく。

「俺は榊翔(さかきかける)。そこにいる柚河喜結とは、まぁちょっとした仲で、ちなみにクラスは天野さんと同じG組。だから敬語とかいらないよ」

 翔が自己紹介すると夏美は驚きを隠せずにいた。美音の一件で慌しくしていたとはいえ、クラスメイトを覚えてないのは論外。その場で落ち込む。

「気にしない、気にしない、それに俺が覚えてるだけで実際話しをしたのは今日が初めてだし」

 翔は陽気に発言し、夏美を慰める。そして手にしたままの買い物リストをひらひらと靡かせて買い出しの荷物持ちを手伝うと言い出す。翔の提案に生徒会の仕事だから断るもクラスメイトである翔を受け入れ夏美は喜結の言葉を無視して提案を許可する。

「天野さん、どこの誰とも知らない榊を安易に受け入れのはよくないと思うのだけど」

「どこの誰とも知らないっていう割には名指ししている時点で正体不明ってことはないと思うんですけど」

「すんげー言われようだけど、リストの内容を見て明らかに重たいものが入ってると分かった以上女子二人に行かせるには男としてプライドが許せないんですけど」

 どこの誰とも知らないと言いつつも榊と名指ししている喜結の違和感に夏美は珍しく頭が回り夏美の指摘に図星を隠せない喜結。そんな喜結に後押しするかのように翔が一言いうとナイスと意味を込めて翔に向けてGood Jobの合図を送る。夏美と翔、双方からの提案と攻撃で半分諦めたのか翔の同行を許可した。

■■■

「翔君って柚河さんの事、好きだったりするのかな」

「なんで、そう思うの」

 雅に頼まれた買い出しを終えて学校に戻り、翔とも別れた。帰宅の準備を終えた夏美と喜結は女子二人で学校の近くのオープンテラスカフェで小休憩をする。下駄箱での会話や買い出し中まで、翔の行動が気になったのか喜結に問いかける夏美。女子トーク定番の恋愛話だ。

夏美の発言に呆れた表情をしながら問うと、「例えば~」と楽しそうなイントネーションで買い出し中の喜結への配慮を欠かさなかった翔の行動などを思いだしながら言い並べる。しかし喜結は「別に付き合ってないよ」と言い一向に表情を変えないのだ。そんな喜結の返答に夏美は不満を感じ、なぜ翔と付き合わないのか理由を尋ねた。すると喜結は呆れた表情から一転、寂しげな表情を見せる。

「今は誰かと恋愛をしたいと思わないだけ、特に深い意味はないよ」

 喜結の返答に調子に乗ってしまったと反省をしたのか小さく謝る夏美だが「後、彼のテンションについていけない」と疲れた表情を見せ呟く喜結にふざけた行動をとっていた翔を思い出し、何かを悟る。カフェでの小休憩を終えて夏美を自宅へ送るべく学校の最寄渋谷駅まで歩いていると、突然夏美が立ち止った。夏美が立ち止ったのにすぐに気付いた喜結は不思議に思い「どうかした?」と問いかけようとするが、見覚えのあるその場所に問うのを止める。

 夏美が立ち止ったその場所は親友・美音を失った場所。ビルの建て直し工事が行われており、未だ事件の爪痕が残っている。喜結は夏美にそっと近づき「大丈夫?」と一言かける。

「大丈夫って言いたいけどやっぱりここは、まだ、ちょっときついかな」

 明るい性格の夏美が悲しげな笑みを浮かべる。普段、夏美は辛くなるのを恐れ避けていた事を知らないとはいえ、その場所を通ってしまった状況に困った喜結は気遣いのつもりで近くのクレープ屋さんを見つけて指をさす。しかし「さっきお茶したばかりなのにクレープ食べたいの?」と夏美に揚げ足を取られてしまう。ただでさえ慣れないことして恥ずかしいと思っている分、夏美の発言は喜結にとって大きなダメージを与えるものになる。

「ねぇ、柚河さんの事喜結ちゃんって呼んでいいかな?」

「構わないけど、呼び捨てにして。でないと呼ばせない」

慣れない気遣いをしてくれた喜結にうれしく思った夏美は、唐突ながらも一つの提案をする。夏美の提案に了承するもちゃんをつけて呼ばれるのが相当嫌なのか念を押すように拒否をする。そんな喜結に対して「可愛いのにもったいない」と呟く夏美だが喜結の呼ばせないが応えたのか素直に了承した。名前をどう呼ぶかで盛り上がっていると夏美が所持している携帯に一本の着信が入る。電話の主は母親からで夕食時間が近く、何時頃帰ってくるのかというものだった。その着信に喜結は小休憩にしては長居しすぎたと思い、夏美に先に帰るよう言うが二人に頼まれたことだからと始めは断る夏美。「天野さん、明日も期待しているよ」と微笑む喜結の言葉に甘えて先に帰ることにする。

「天野さんじゃなくて夏美だからね!」

 喜結の呼び方気になったのか学校の方面へと足を進める喜結に聞こえるように手をメガホンの代わりにして叫ぶ。夏美叫び声に苦笑するも夏美に背を向けたまま手を振る。手振りを返すように夏美も思いっきり手を振りかえした。

 天野夏美。東ヶ崎学園高等部一年。生徒会執行部庶務係。大イベントの幕が上がる。

 天野夏美、高校一年生。人生初の文化祭がやってくる。学園の正門は華やかに飾り付けられ東学祭へようこそと大きな看板も用意され、来場をする人々を出迎えた。東ヶ崎学園の文化祭、通称東学祭は幼等部~大学院部の全ての教育施設で日付をずらし順番に開催される。そのため一ヶ月掛かるのだ。幼等部と初等部では演劇や絵画展。中等部では各々クラスや部活動での課題の発表や展示。高等部から大学院部までは飲食の模擬店を出店し、各教室、各部活動、各学部に合わせたテーマで展示会を開いている。

 夏美らが在籍する高等部の文化祭は毎年六月下旬から七月上旬の内、後夜祭を合わせて三日間。学期末テストが近いこともあり、勉学に支障が出る言う苦情が後を絶たない。また二日間の一般公開を終え、三日目は片づけがあるがその片付けが終わった音には生徒とその関係者限定で後夜祭と言う名目の盛大なパーティが開かれる。夏美ら生徒会は一部活動として文化祭に参加するのだが…。

「あのー、雅会長」

「どうしたの?わからないことでもあっ、か、可愛いすぎて、鼻血が」

 夏美が生徒会長である真殿雅に声をかける。夏美の呼びかけに返答するため振り返る雅。そして同時に萌え悶える。雅が萌え悶える理由。それは、夏美の格好にあった。黒を基調としたメイド服。雅の発言と悪癖に喜結を除く他の生徒会メンバーはまたかとため息をつく。当の夏美は恥ずかしさで縮こまっている。

「会長のお遊びなの。慣れて」

 呆れた口調で横入りしてきたのは副会長の柚河喜結。喜結もまたメイド服に身を包む。しかし喜結の衣装は夏美と違いアンティーク調、いわいる英国風のメイド服だ。喜結の着こなし方に流石だと喝采を受ける中、気に入っていない者が約一名。それは悪戯で着せて楽しんでいた雅・本人だ。

「納得いかないわ」

「何が納得しないんですか?みんなさん雅会長の命でこうして衣装を着こなしていますよ?」

「着こなしているのが納得いかないの」

「雅、着こなしてしまうのは仕方ないんだから、いい加減諦めろ」

 雅の発言に疑問を感じ夏美は質問する。夏美は縮こまったまま着ている衣装に慣れずにいる。夏美の質問に頬を膨らませて拗ねる雅。普段であれば雅の反応に対応するには面倒なため普段からため息をつき、放置するメンバーが今回は少し違った。そう発言するのは喜結と同じ副会長でこれまた雅が用意した執事服を見事に着こなした舘宮雅也。雅也以外の男子組もそれぞれタイプの違う執事服を着ている。

「着こなすのに理由があるんですか?」

「前に会長が言っていましたが、喜結は姓が違うものの学園長の娘ですから」

「ドレスとかああいう衣装系は自然と着こなしちまうんだと」

 雅也の発言に首を傾げる夏美。そんな夏美に珪、拓哉が順番に答える。珪と拓哉の発言に以前自己紹介をしてもった時の雅の発言を思い出した。そして同時に違和感も思い出した。

「でも、なら、どうして姓が違うの?」

「実は、よく知らねぇんだ」

「僕と拓哉は中学の時から一緒ですが、喜結が東ヶ崎の姓を名乗ってはいませんでしたし、生徒会に入って初めて知った事実だったので」

「父が嫌いだからよ。それより持ち場に行くよ」

 夏美はその違和感を珪と拓哉にぶつけた。夏美の質問に答えを知らないため戸惑う二人に喜結が割り込み、簡易的に説明をする。喜結の説明にウソがあると見抜いた珪は小声で耳打ちするも「これくらいウソには入らない」と言い捨て、生徒会の仕事である会場警備の持ち場に夏美を連れて行った。

■■■

「どうして、学園長の事がきらいなの?」

「それ、いまする話?」

「…違うけど」

「奥を見てくるからそこから動かないで」

 持ち場についた二人の間に無言が続いた。正確にいうと夏美は何度か話しかけていた。が全てかわされてしまった。無言に耐えかねた夏美は喜結が先ほど言い放った『父が嫌い』という言葉にどうして嫌いなのかと問う。すると喜結は小さく溜息をつき答える。喜結の言葉にタイミングを間違えてことに気づき、反省の顔を見せる夏美。その会話の最中でさえ、警備の目を光らせている喜結。小さな異変に気付いた喜結は夏美にそう言い残しその場を離れた。喜結が奥へと姿を消すと自分の情けなさを痛感し溜息を出す夏美。

「溜息をつくと幸せが逃げちゃうぞ~」

「俺たちこの学校の事、よく知らないんだよね。よかったら案内してくんない?可愛いメイドさん」

「わ、私、仕事があるので。案内は総合受付に行って、ください」

 夏美の溜息に反応した男性の甲高い声が耳についた。驚いて顔をあげると他校の制服を着た複数の男子が夏美を囲っていた。急な事で言葉が出ない夏美に男子メンバーは自らの発言を繰り替えては可笑しそうに笑う。男子メンバーの一人が夏美に声をかけ髪を触る。髪を触られた夏美は照れというよりも恐怖の方が近く、怯えながら男子メンバーに応対する。対して男子メンバーは夏美の反応を面白がり、行動や言動がエスカレートしていく。助けを呼びたくても喜結とは喧嘩同然でどうすることもできず半分諦めていた。

「ねぇ、その子はなしてくれない?」

「なんだ、お友達ごっこか?それとも彼氏気取り、とか?」

「悪いけど、今、虫の居所が悪いの、おとなしく帰ってくれない?」

「女だから彼氏じゃなくて彼女だろ」

 そんな夏美を助けたのは喜結だった。その言葉と同時に襟首を引っ張られたのか衝動で男子メンバーの一人がしりもちをつくように倒れた。喜結の声に夏美に絡んでいた他の男子メンバーも視線を喜結の方へ向け標的を変える。男子メンバーの一人が喜結に対して彼氏気取りというと他の男子メンバーの一人が腹を抱えながら笑い、指摘する。彼氏と言った男子メンバーの一人が顔を赤くしながら反論する。が、ほぼ同時に赤面になった男子が弧を描くように宙に舞った。喜結の一撃が決まったのだ。宙を舞った男子を見たメンバーの数人が腰を抜かし、後ずさりをしながら逃げる。一方で逃げずに立ち向かう者もいた。

「女のくせに、調子のってんじゃねーぞ!」

■■■

「阿呆か!今回は学園長のおかげで怪我をした被害者も今回の事件を公にしないと約束してくれたからよかったものの、そうでなければ…」

 高等部のとある教室に罵声が響く。罵声の主は普段から冷静沈着と有名の副会長・舘宮雅也。とある教室は言うまでもなく生徒会室。罵声の原因は、柚河喜結の暴力事件。公にならなかったのが不幸中の幸い。でなければ文化祭一日目どころか、文化祭そのものがなくなる可能性があるからだ。一般の生徒や来客者同士の暴力沙汰ならいざ知れず、生徒会のしかも副会長が今回の当事者だからだ。呆れながら言う雅也に謝罪をする夏美。しかし反省の色を見せない者もいた。当事者の喜結だ。喜結の様子に再び怒りが込みあがってくる雅也。そんな雅也を会長である雅が止める。

「ねぇ、喜結。今回の騒動、反省していない訳じゃないわよね」

「それは勿論、だけど」

「じゃぁ、学園長の顔に泥を塗ったのが気にいらない?」

「そういうじゃ」

「それとも学園長が自ら泥を塗りに来たのが気に入らない?」

 喜結の反省しているの言葉に胸を撫でるがその後の雅の発言に驚き、先程とは逆に雅也が止める。雅の言葉に理解できない者も多く首を傾げたりするが、喜結は苦汁を舐めたような表情で周りとは異なる反応を見せた。喜結の表情を見た雅は負けず嫌いと小さく笑い、雅の言葉に「うるさい」と照れを隠しながら小さく呟く。

 二人の間で話が解決してしまい、夏美以外の残されたメンバーは呆然と立ち尽くす。夏美は話が気になるらしく雅也や珪に食ってかかるように問うていたが知らないと首を横に振るのだ。

―――――文化祭二日目。

 夏美と喜結は二人で文化祭の模擬店を見ては楽しんでいる。それもそのはず、昨日の暴行事件で喜結は警備の任から外され、夏美は喜結が再び暴れないかを監視する役。しかし賑やかな場所が好きな夏美は仕事を忘れ存分に楽しんでいる。そんな夏美につられて自然と笑顔になる喜結。その二人を少し離れた校舎の屋上から双眼鏡越しに嬉しそうに見守る雅。二人をペアにして正解だったと誇らしいのだ。

「今日は大丈夫そうね」

「会長、口元が緩んでいますよ」

 口角があがりきった雅を見て溜息をつく珪。珪の指摘に双眼鏡を覗いたまま「あら、ごめんなさい」と軽い口調でいう。

「そういえば会長、昨日の件ですがどういう意味だったんですか?学園長が泥を塗りに来たって」

「紫享君。その話は終わった事よ」

「終わった話にしては疑問が残りすぎです。僕もですが拓哉も気になって仕方ないんです」

「…。今から話す事は内緒にしてよ。紫享くんだから話すのよ」

 昨日、半分強制的に話を終了させて解散した為、話の内容どころか概要も分からないまま翌日を迎えた珪と拓哉。そして今日の朝礼や警備の配置を話し合う会議でも先程のように終わった事と言われ、はぐらかされたのだ。そんな説明で納得がするはずもなく、珪は警備で二人きりになるこのタイミングで聞こうと思い立った。珪の言葉に雅は溜息をつき仕方がないという表情で口を開く。雅の言葉に珪は目を見開き驚いた。先ほどまではまらなかったピースが填まった瞬間だったからだ。 予想通りの反応をした珪に雅は話すタイミングが早かったかもしれないと話したことを後悔する。

■■■

「いやー、ここまで賑やかだと思わなかったわ」

「ほんと、楽しいよね。文化祭って初めてだからどんな感じなのか想像できなかったけど」

「俺も!」

 一方、夏美と喜結は模擬店を中心に見てまわっている。一人、榊翔を仲間に入れて。翔の発言に気分よく答える夏美。二人はかなり相性がいいと見受けられる。夏美が感想を述べる度、便乗する翔。全力で文化祭を楽しんでいるのが雰囲気で見て取れる。そんな二人を少し後ろから見ている喜結を不思議に思う夏美。

「二人とも楽しそうで何より」

「喜結は楽しくないの?」

「楽しいよ。でもずっと生徒会の仕事をしていたから直に参加したことないからよく分からないだけ」

「ずっと?喜結ってずっと東ヶ崎にいたの?」

「夏美、雅が自慢げに話していた事忘れたの…」

「あ、学園長の娘…」

「そ、だから幼等部からずっと東ヶ崎。ここ以外の環境って知らないのよね」

「幼等部?!」

「幼等部からあるとか、でかすぎだろ」

 喜結の発言の一部に食いつく夏美『やっぱりそこに食いついたか』と思う喜結。翔もまた夏美と同様に学園の大きさに驚いた。

「喜結って本当にお嬢様なんだね」

「褒め言葉なら素直に受け取るけど」

「もちろん褒め言葉だよ!」

「…榊、その顔キモい」

「キモいはひでぇーって」

 喜結が幼い頃から東ヶ崎学園に在籍していたという事実に思わず溜息を落とす夏美。そんな夏美に喜結は苦笑しながら答える。夏美もまた慌てて応答する。そんな二人を楽しそうに見つめる翔に喜結の一撃。だが然程、攻撃力は無かった様で答えている様子は見受けられない。

他愛のない話を続けながら三人は校舎の中へと足を進めていく。途中で金髪の女性とすれ違う。その姿に翔だけでなく夏美までも釘付にされていた。そんな二人に『もしかして同類なのでは』と呆れる喜結。だが女性すらも魅了する容姿だったのは間違いない。

 気づけば夕方になり文化祭のプログラムも終わりに差し掛かる。一般来場の参加者はアナウンスに従い帰路へと足を進める。同時に生徒たちは文化祭の片づけを始める。明日開かれる後夜祭に参加するためだ。後夜祭はプロムをイメージしており、基本的にはタキシードやドレス着用での参加となっている。だがドレスなどが用意できない生徒もいる。そんな生徒には学校に相応しい服装でなら参加が可能だ。生徒のための後夜祭を謳っている以上、参加できない生徒がいるのは避けたいからだ。

 文化祭が閉幕し、生徒会メンバーも明日の後夜祭の準備に忙しくしている。本来、後夜祭で着用するドレスやタキシードは各々で準備するのだが、生徒会主催の後夜祭のため衣装が用意できませんでしたでは許されない。そのため生徒会メンバーは特別に準備される。

■■■

「雅のおふざけとは違ってちゃんとしたところで用意されたものだから自信を持ちなさい。折角のドレスアップが台無しよ」

 翌日、夏美らは用意された衣装に着替える。ドレスに慣れていない夏美はもどかしそうにしている。緊張している夏美に喜結はアドバイスをする。そのアドバイスに笑顔で答え、パーティ仕様へと変貌と化した煌びやかな体育館へ移動する。

 後夜祭は生徒会長である雅の挨拶で幕が上がった。音楽が鳴り響く中、食事やダンスなどそれぞれに後夜祭を楽しんでいる。普段交流のないクラスや上級生とも会話を弾ませることのできる後夜祭はある意味出会いの場としても利用され、様々なジンクスも存在する。勿論、生徒会メンバーにも出会いの場である事は間違いない。普段から接している教員や上層部の教員も皆、ドレスアップしており上機嫌だ。このタイミングでの挨拶はとても貴重だ。故に忙しく動いている。

「夏美、ちょっといい?」

「ん?どうしたの?」

「いいから、ついてきて…」

 夏美は生徒会に入って日が浅いため挨拶も軽いもので終わりクラスメイトとパーティを楽しんでいる。パーティが中盤に差し掛かった頃、喜結が夏美に声をかける。何の説明もしない喜結。だがその表情は険しいものでは無かったため素直に喜結の後をついていくことにした。

 体育館から然程遠くない場所にある洋風庭園。こんな所があったのかと驚く夏美。同時に庭園へ迷う事無く辿り着き、まるで庭のように知り尽くしている喜結に幼いころからこの学園に居たのだと感心してしまう。そのまま庭園の中央にあるガゼボへと誘導される。ガゼボに近づくと金髪の女性らしき人影が見える。さらに近づくとはっきりと姿を見て取れる。女性を見た夏美は思わず声を上げる。文化祭の散策中にすれ違い、その姿に思わず見とれてしまった女性だったからだ。

「あなた、確か!」

「天野夏美さんですね、初めまして八角(ほずみ)アドルフと申します。こんな恰好をしていますが一応、男です」

 夏美が声をあげると一礼をし、自己紹介をした。そして女性ではなく男性だと分かると恥ずかしさで顔を真っ赤にして謝罪をする。

「夏美さんにお会いしたくて彼女にお願いしたのです」

「私に?どうしてですか?」

 丁寧な口調のアドルフ。彼女にお願いしましたと手の平を喜結に向け笑顔で話す。手のひらを向けられ喜結は一礼をして、その場を去る。喜結がパーティ会場へと戻る途中、草陰に隠れている拓哉を見つける。

「話が終わって、落ち着いたら戻っておいで…。ん?盗み聞きなんて悪い趣味をお持ちで」

「勝手に言ってろ」

 拓哉に対して意地悪に微笑むと答えを聞く間もなく足を進めパーティ会場に戻る。喜結の意地悪に反論をしようとしたが既に居らず『やけに機嫌がいいな』と思いながら盗み聞きを続けた。一方、初めて会うアドルフに夏美は何故、自分を知っていたのか、どうして自分に会いたかったのか、どうしても接点が分からずにいた。

「実は細田美音の父なんです。父と言っても美音が幼いころに離婚していますが」

「え?えぇぇぇぇ!」

「今まで美音の友人でいてくれてありがとうございました」

 アドルフは夏美に親友だった美音の実父だと明かすと夏美は驚きを通り越して混乱している。混乱したままの夏美にアドルフは話を続け、深々と頭を下げる。パニック寸前だったがアドルフの言葉に少しだけ落ち着きを見せ、静かに涙を流しガゼボのベンチに腰を下ろす。今まで溜め込み、表に出すことが出来なかった悲しみや不安が溢れ出したのだ。

「死を労わってくれる。そんな友を持てて娘は、美音は幸せ者です」

「美音も同じように思ってますか?」

「Bien《勿》 sur《論》」

 夏美の様子に微笑みながらハンカチを手渡す。同時に手を差し伸べエスコートをしながらガゼボから離れる。美音に関する事を話しながら庭園を歩く。同じく草陰で夏美の様子を見ていた拓哉は安心をしたのか笑みを浮かべてその場を後にして会場へと戻る。

 小一時間ほどで夏美が会場へと戻ってくると真っ先に喜結が出迎えた。泣いたことがばれないように化粧を直したがすぐに喜結に分かってしまい、頑張りが無駄になったと嘆く。優しく頭を撫でる喜結。喜結の行動と言葉に笑顔で礼を言う。

「少しは元気がでた?」

「うん、ありがとう…。」

「もうすぐ終わるけど、一緒に踊らない?」

「もちろん!喜んで」

 喜結の粋な計らいに笑顔で答え、手を取り合いながら体育館の中央へ行き、音楽が始まると楽しそうに踊るのだ。喜結らが踊り終わるとパーティも終盤となり生徒会長である雅の一言で拍手喝采が鳴り響きパーティが終わったのだ。

 文化祭の余韻が残る中、複数の生徒たちが悲鳴をあげる。何故なら学期末テストという地獄の日々が始まるからだ。主人公、天野夏美もその一人だ。生徒会室への移動しながらショートタイムで配られたテストの日程表を見つめながら夏美は呟く。そんな夏美の発言に呆れを見せる喜結。

「テスト、爆発しないかな」

「恐ろしいこと言わないでよ」

「でも、中間の時は結構良い成績だったじゃない…」

「まぁ、そうなんだけどさ…ってなんで私の成績知ってるの?もしかして生徒会には筒抜けとか?」

「大方間違ってはないけど、同じクラスだってこと忘れてない?」

 喜結の大方間違っていないの言葉に驚く夏美。だが同じクラスという言葉にそうだったと納得する。その反応に呆れる喜結。他愛もない話をしている間に生徒会室に辿り着く。喜結が生徒会室の扉を開けようとドアノブに手をかけると室内から叫び声が聞こえた。声の主は庶務会計の九条拓哉だ。

「なんで、テストなんてものがこの世の中に存在するんだよ!」

「同類にも程がある。G組ならまだしもB組の九条がそんなこと言ってるなんて」

「その気持わかる!テストとか爆発すればいいのよ!」

「爆発なんて怖いわ、凍らせちゃいましょ!」

「凍らすのも恐ろしいわ!」

 その叫びを聞いた喜結は扉を開けながら拓哉の発言を批判する。だが夏美は違った。始めは苦手意識を前面に接していた拓哉に対してほんの少し好感度が上がった。

 二人の会話に珪と喜結は呆れを見せる。ただ一人、雅を除いて。雅の発言を聞いた副会長の雅也が声を荒上げる。

「ちょっと待って下さい、この現状ヤバくないですか」

「何か重大案件で思い出しか?」

「天野さんが入部する前、バカは二名だった」

「それがどうかしたの?」

「出来る人間の割合と出来ない人間の割合が半分なってるんですよ!」

 珪が重大なこと気づいた様な口調で話し始める。珪の発言に雅也、雅と続けて発言する。そして最後に深刻な表情で決めると雷が落ちたような衝撃が走り、同時に喜結と雅也はめ息しか出ない。

「珪、何もあんたまで話をあわせる必要無いでしょ」

「あぁ、バレていました?」

「私、こういう感じの好きです」

「…だけど、この状況どうしましょう」

「どうも、こうも、前回同様テスト期間中は準備期間中も部活は活動中止なんですから会長は副会長と、九条は珪と、夏美は私とでマンツーマンを組めばいい話だと思うんですが」

「確かに、きれいに分かれるな」

 冗談はそこまでと言わんばかりに喜結が話を締める。そんな生徒会の会話にいきなり笑い出す夏美。夏美の反応に漠然とするメンバー。夏美の言葉に自然と笑みが見えた。しかし状況は変わらないと雅が困り果てていると喜結が最善策を提案する。その提案に流石だと褒める拓哉。

 喜結の提案に異議を唱えるものは居らず、そのまま可決され、それぞれマンツーマンを組み校舎内の図書室やラウンジなどで勉強に励むことになった。一方、夏美と喜結は喜結が住居を構えるマンションの一室へと移動する。学校に程近く二十階程の高さはあるだろうマンションにつくとその高級感溢れるエントラスに夏美は驚愕し魅入ってしまう。夏美の表情に『高校生がこんなマンションに住んでいるんだから当然の反応かな』と普通に触れることが少ない喜結にとって夏美という存在は貴重なのかもしれない。

「喜結、こんな高そうなマンションに住んでるの?」

「一人暮らしをしたいって言ったら、学園長(父)が「セキュリティーがしっかりしているとこじゃないとだめ」って言われて仕方なしにね。本当はもう少し質素な方が好きなんだけど」

「学園長らしいね」

「学園長らしいってそんな仲良かったけ?」

「仲がいいって言ったら変になるんだけど、文化祭の片付けをしている時にね…」

「着いたよ、リビングで適当に寛いでいて」

 移動中に夏美が質問すれば素直に答えるが夏美の発言に疑問を浮かべる。すると夏美は距離を縮める機会があったことを話す。そうこうしているうちにエレベーターが十三階まで上がると目的地に着いたのか扉が開く。エレベーター一機につき玄関扉が二つというセキュリティーが高級さをさらに感じさせる。一三〇五号室と書かれた部屋に通されると言われるまま夏美はリビングへと足を運ぶ。夏美がリビング向かうと荷物を置くため逆方向に設けられた部屋に入る。

「わぁ!すごい!」

「まぁ、十三階だからね」

リビングの大きな窓から見える景色に思わず声が出てしまう。程なくしてリビングに足を踏み入れた喜結が夏美の言葉を聞き「それなりの高さがあるから」と軽く微笑みを浮かべる。その流れのままリビングテーブルに教科書などを置く。夏美も喜結と対面になるように椅子に座る。

「そういえばさっきの話、学園長とどこであったの?」

「ああ、その話!文化祭の片づけで疲れちゃって中庭のベンチで休憩してた時のことなんだけど…」

 エレベーター内で話した内容がどうしても気になる様子。そんな喜結に「前は嫌いだなんていっていたけど、本心で嫌っているわけではないのかな」などと想像し、小さく微笑む夏美。夏美は喜結の質問にその時の雰囲気や情景を思い浮かべながら答える――――――。

「君は確か!天野夏美さん、だね」

「学園長?」

「あぁ!座ったままでいいよ」

「そういうわけには」

「仕事をね、抜け出しているんだよ」

「へ?」

 ベンチに座り小休憩をしているところに学園長、東ヶ崎司が現れるとビックリし、その場から立ち上がる夏美。司の言葉の意図が理解できない夏美は自然と畏まってしまう。司の発言に阿保面を見せる夏美。それもその筈。仕事を抜け出すなんて想像がつかなかったからだ。夏美の阿保面に思わず笑みを溢す司。

「喜結とは仲良くし出来ているかな?」

「喜結、さんですか?すごくってほどではないですけど」

「そうなのか」

「で、でもこれからもっと仲良くなります!」

「それはとてもいいアイディアだ」

 司の質問に文化祭での出来事などを思い出す夏美。だが、夏美の返答に残念な思いさせてしまったのではないかと振り返り慌てて修正する。夏美の提案に司は笑顔で賛成する。そんな司に学園長ではなく一人のお父さんを見た気がした夏美。

「学園長は喜結、さんの事が大好きなんですね」

「そうだね、唯一の、愛娘だからね」

 夏美の大好きの言葉に引っ掛かる部分があったのか、少し表情を暗くする司。だがすぐに笑顔になり自慢げに言うのだ。司が笑顔になった途端、遠くから司を呼ぶ声が聞こえた。秘書が全力で司を探しているのだ。

「学園長!どこですか!」

「おっと、迎えがきてしまったね。またよかったら喜結の話、聞かせてね」

 秘書の声に気付くと愉快な口調で答える。再び唖然とする夏美。そう言い捨ててその場を去る司になんとなく喜結に似ている部分を感じたのだ―――――。

「挨拶で会った時以来だったから、手厳しい人なのかなって思ったけど、なんていうか嵐みたいな人だよね」

「と、とりあえず始めようか」

「よろしくお願いいたします」

 回想が終わり、父の第二印象が嵐の様な人と片づけられた喜結は呆れを隠せず、聞いておいてなんだったが早くその話を終わりたい喜結は先に進もうと教科書を開き、テスト範囲の確認を始める。そんな喜結に夏美は小さく微笑みながら深々とお辞儀をし、勉強会を始める。

■■■

「よく中間テストで赤点にならなかったね」

「あはは、中間までは美音がいたから」

 最初に夏美の実力を試すために二時間ほど掛けてテストを行った。結果、基本の五教科全てが赤点という出来栄え。その結果に愕然を通り越して呆れしか出てこない。喜結の表情に乾いた笑いを溢しながら、先日亡くした友人の名前を出す夏美。相談や話を聞く機会はたくさんあったが悲しみを堪えて明るく振る舞う夏美を見ていたため、安易に踏み込んではいけない領域だと悟っていた。吉と出るか凶と出るか危ない橋渡りではあったが学園関係者として後夜祭に八角アドルフを招いたのだ。

「もう、本当に大丈夫なんだね」

「うん、後夜祭の時アドルフさんといろいろ話して、ちゃんとした意味で前を向かなきゃって。じゃないと美音も、美音が引き出してくれたこの能力(ちから)も報わない、かなって」

「それはよかった…。これでお構いなくスパルタが出来るね」

「え、あ、はい」

 少し照れながら話す夏美に喜結は安心し優しい眼差しで夏美を見つめた。優しい眼差しから一転、如何にも意地悪をしますという笑みを浮かべた喜結に恐怖を感じ怯えるような口調でスパルタ勉強会を容認してしまうのだ。

 喜結によるスパルタ勉強会は昼夜問わず行われた。その甲斐もあってギリギリだったが全教科五十点を越えた点数で赤点を免れた。順位も中の中という夏美にしては高成績を叩きだしたのだ。こうして怒涛の期末テストを終えることが出来た夏美。彼女の頭の中は既に夏休みの事でいっぱいのようだ。

「んーなんとか赤点は免れた。これも喜結のおかげだよ、ありがとう。でも一緒に勉強したからって全教科満点を取る喜結には腹が立ったけど…」

「要点を集中して聞いていれば解ける問題ばかりだったからね…。取り敢えず褒め言葉としてとっておくよ。それよりも夏休みだからって気を抜き過ぎちゃだめだよ」

 終業式を終えて帰路を歩く夏美と喜結。無事夏休みを過ごすことが出来るからかそれともテストの結果が予想以上だったのか、子どものようにはしゃぐ夏美。同時に全教科満点で学年一位を取った喜結に夏美は不満を露わにする。その他の生徒会メンバーも一年生の総数三百四名中、珪が六位、拓哉が五十位と好成績を叩きだしたのだ。喜びと不満を見せる夏美が心配なのか注意をする喜結。

「喜結ってたまにすんごくお母さんって感じがするよね」

「褒めてる?貶してる?」

「どっちの答えもハズレな気がする…。そんな事より喜結は夏休み、旅行とかいったりしないの?」

「んー多分、学校にいるかな」

「休みなんだから休まなきゃ!」

 その注意さえも安易に受け止め喜結の顔を見て率直な感想をいう夏美。率直過ぎる感想に言葉が出ない。と云うのも喜結の母親は喜結が小学生の頃、事故死しているのだからだ。こういう場合、友人としてどう接していいかわからないのだ。大切なものを失っているからこそ今回夏美のパートナーに抜擢されたのだろうと、雅の粋なはからに感謝をする。黙々と考え事をしていた喜結は夏美の話を半分以上きいておらず、淡々と夏休みの計画を練る夏美に阿保面を見せる。

 喜結の反応に不満げな表情を見せ再度質問をする。しかしケロッとした表情で答える喜結。喜結の「学校にいる」の発言に驚きを隠せず、喜結の両肩に手を置いて前後に揺らしながら慌てる夏美。夏美の行動が予想通りだったのかクスッと笑う喜結。「ウソ、ウソ。確かに学校にはいるけど毎日じゃないよ」

「騙したの?ひっどーい!」

「毎回大型連休は従兄弟の家に言っているよ。静かだし、気温的にもちょうどいいから避暑になるよ」

 喜結の言葉に騙された夏美はポカンとするもすぐに反撃するのだ。反撃をする夏に学校以外の夏休みの予定を楽しそうに話す喜結。そんな喜結の話しを聞いてどこか安心する夏美だった。

■■■

「夏休みってどうしてこんなに短いの」

「短いって、一ヶ月半もあったのだから十分でしょ」

 八月も終わりが近づくと夏の暑さもピークに差し掛かる。七月の終わりとは打って変わって学生たちは各々悲鳴をあげる。所謂、夏休みの宿題だ。そう嘆くのは明日の始業式の事前準備のため登校している夏美だ。生徒会室にある自身の机いっぱいに広げられた夏休みの宿題。夏美の発言に呆れを示す喜結。夏美が広げたほぼ白紙状態の宿題を手に取り「見事といえるくらい真っ白」と呆れる喜結。

「こういう時は思い出話でもいかがかしら!」

「思い出話なんてしてどうするのですか、会長。それに夏休みが足りないって言っている人に終わりを知らしめるなんて残酷にも程があります。」

 二人の会話にフォローを入れようと思ったのか、生徒会長、真殿雅が割り入る。しかしフォローになっていないどころか現実を突きつけた雅に喜結は「同レベルがココにも」なんて思う。

「わからないところ、教えるから、さっさと終わらせるよ」

 だが、夏美にはいろいろと感謝する節もあり、夏美と対面するように座ると夏美の宿題の手伝いを提案する。喜結の優しさに感動を覚え、涙を流す夏美。フォローしたはずなのにフォローできなかった雅は部屋の隅で小言を呟きながらのの字を書くのだ。そんな雅にいつもならツッコミが入るのだが、副会長を務める舘宮雅也を含む男子組は始業式の事前準備で力仕事をしており席を開けている。そのため、ツッコミが入らず無法地帯と化していたのだ。

二時間後―――。

 副会長を務める舘宮雅也を含む男子組が生徒会室に戻るとメラメラと熱気とヤル気のオーラを放ち机に向かって夏休みの宿題をする夏美とその夏美と対面するように座り暖気に読書をする喜結。そして生徒会長 真殿雅という立札が置かれた生徒会長専用机に向かいながら落ち武者のように項垂れている雅。異様な光景が広がっていた。その光景に「最悪だ、この状況は最悪すぎる」青ざめた表情で雅也・拓哉・珪は声を揃えて心で叫んだ。

 喜結の手伝いもあってか夏美の宿題も中盤まで終わることができ、崩壊寸前だった雅の心も雅也のおかげである程度回復した。

「雅会長、夏休みの宿題ここまで終わりました!」

「へぇーすごいじゃない」

「雅会長!私、雅会長の夏休みの思い出が聞きたいです!」

「それは素敵な提案だわ!」

 夏美お手製の夏休み宿題計画表と書かれたA三サイズの用紙を勢いよく広げる。夏休み宿題計画表には喜結ともに終わらせた箇所がマーカーペンで色づけされており、見る限り宿題の三分二が終わったことが分かる。だが、一刻前に無視をされ、仕舞いには放置された雅。そのことを根に持っているのか素直になれず冷たくあしらう。雅の態度に夏美を除く四人は大人気ないなどと思う。雅の扱いに慣れていない夏美だが、不機嫌なのは見てとれる。そんな雅を「いつもの明るく上品な会長に戻したい」そんな一心で思いついた事は一刻前に雅が提案した夏休みの思い出をふりかえよう会(命名:天野夏美)それをやりたいと申し出たのだ。夏美の提案に余程夏休みの思い出を話したかったのか、今までの落ち込み様と打って変わってと一気に元気を取り戻す。雅の反応に若干ではあるが、雅の扱い方が分かってしまった夏美であったのは言うまでもない。

 こうして生徒会メンバーは残りの夏休みを夏休みの思い出をふりかえよう会で大いに楽しむのだった。

―――――同日夕方 

 数名の一般生徒用の制服を着た生徒が高等部校舎の音楽室へと入室する。音楽室は異様な雰囲気を纏っている。後日音楽室に入った数人の生徒たちの両親から子どもが帰宅しないという苦情が学園に届くのだった。

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