生徒会の日常~MASAYA&MIYABI~
「さて、ここで重大な話がある」
これは平凡なとある日の事。生徒会長という札が置かれた机で雅也が手を顔の前で合わせ真剣な表情で口を開く。この日、生徒会では緊急ミーティングが開かれていた。その会議の内容は雅也が某国際ホテルで開かれているスイーツバイキングのチケットを雅から貰い受けたというものだ。しかもチケットは四枚ある。
雅也と雅は幼馴染で二人の両親は大の仲良し。「将来は二人を結婚させる」と言いどちらに嫁いでも違和感の無い名前にしようと言う提案の元、二人には同じ漢字が含まれている。もちろん幼い時から「大人になったら二人は結婚するのよ」と言われて育ったため婚約や結婚に反対はしなかった。しかし交際となると話は別。悪戯好きの雅に振り回されていた雅也は中々思いを告げる事が出来なかったが雅の卒業式に告白をして…いや、せがまれたと言う方が正しい。兎に角、二人は無事に恋人となった。
「雅の家が有名実業家なのは知っているし、このホテルとの取引があるのも知っているけど…。なぜ四枚?」
「因みに雅也会長、そのチケットの有効期限はいつなんですか?」
「天野、よく聞いてくれた。このチケットの有効期限は今週の土曜日だ」
「それよりも会長、そのキャラ作りやめません?笑いが…」
「珪」
「会長の命令なら仕方ないですね」
「わ、悪かった、ひとまず落ち着こう!」
雅也の作り出した空気を壊したのは二年生で副会長の喜結だった。喜結はチケットの出所を知っていたため本物である事は確かだと言う。しかし気になるのはその枚数。何故、四枚なのか。六枚なら生徒会全員で行く事が出来るのにと疑問を飛ばす。そして枚数の次に気になったのは“有効期限”。それを聞き出したのは書記の夏美だった。しかし真剣にやっていた会議のはずが密かに聞こえる笑い声で台無しになってしまい、笑いを堪えて切り出したのは同じく書記の拓哉だった。
拓哉に指摘された事で雅也は赤面する。こういったことが元々、得意ではない雅也。しかし雰囲気作りも大切だと喜結と雅が提案したのだ。つまりは見事に二人の策略に嵌められたという事だ。指摘を受けた事で雰囲気づくりはやめ、珪に拓哉への天誅を命令した。雅也の命令に面倒そうに言う珪だが言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべ、拓哉と向かい合わせになる。そして珪は常に常備しているあるものに能力を使い、蔓を生み出し拓哉の目の前でそれを鞭の様に床に叩きつけ音を出す。その様子に怯える拓哉。二人の様子が気になるか夏美と千晶が覗こうとするが「やめなさい。見て楽しいものじゃないから」と喜結に忠告を受け邪魔をされてしまう。拓哉と珪を放置して雅也たちは再び雅から貰ったスイーツバイキングのチケットをどうするかと言う議題に戻る。
「あの、今更なんですが私いけないです。」
「あ、私もだ」
「私も」
「は?」
「だって行くとした土曜日ですよね。先約がありまして…」
「確かに学校帰りじゃ、ちょっと厳しいかも。生徒会の仕事もあるし…。」
議題に戻ってすぐ意見を述べたのは千晶だった。自己所有の端末で予定を確認しながら発する千晶。そして千晶に便乗するように喜結、夏美も予定があると言い出したのだ。振替日も考えたが有効期限は今週の土曜日。平日は生徒会の仕事もあるため希望は薄い。
「なら、男子メンバーで行ったらどうです?私たち女子は予定がありますが」
「男子だけで行くのか…?恥ずかしいだろ」
「でも無駄にするのは勿体無いですし、因みに土曜日は僕も拓哉も予定は無いから大丈夫です」
「おい、珪?何を勝手に!」
「拓哉、何か異論でも?」
学生の身分では滅多にいけないホテルのスイーツバイキングを無駄にするにはかなり惜しい。社会人となった後“この時の行動がきっかけになって信頼を築ける”何てこと無きにしも在らず。そこに千晶が男子メンバーで行く事を提案する。すると珪は心底楽しそうな笑みを浮かべ“予定は無い”という。そして拓哉も道連れにする。せめて人数は揃えたい。珪の言葉に雅也は「それは助かる」と安堵する。しかし納得の出来ない拓哉は反論をするも珪の一言で「いいえ、予定はありません」と蛇に睨まれた蛙の如く答えた。拓哉だけには見えていた。真っ黒い雰囲気を放つ珪の笑みが。そして珪は当日拓哉が逃げないように「予定を作って逃げたら拓哉の秘密、バラしますよ」と小声で脅した。二人の関係性をよく知らない夏美と千晶は顔を見合わせるしかなかった。
「後二枚、一枚は雅也先輩で」
「何で俺が」
「言いだしっぺですよね」
「珪と喜結はあれか姉弟か何かか?」
「なんでそうなるんですか…」
「となるとあと一枚だね。どうするの?」
「あぁ、それはもう考えてある」
珪と拓哉が行くことになり、残りのチケットは後二枚。喜結は“事を言い出した雅也が責任を取るべきだ”と言い出す。喜結の言葉に反論するも珪が論破する。実にいいコンビネーションだ。これで雅也が行くことが確定となった。そこで気になるのが最後に残ったチケット。生徒会に男性陣は三人。後、一人足りない事に夏美が喜結に問うと如何にも悪巧みをしている様な笑みを浮かべる。喜結の笑みに相手が誰か見当がついてしまった夏美は『翔君、ご愁傷様』と心の中で黙祷を捧げた。
―――土曜日。
雅也、珪、拓哉そして翔はホテル内の催し会場にあるVIP席にいた。最終日と言うこともあって会場は大賑わい。有名実業家・真殿の名前が記された招待状、一般席ではないだろうとは思っていたがまさかここまでとはと全員が圧巻している。しかもVIP席に限り食事が注文制ときた。雰囲気や客層に男子四人で来る場所ではないと改めて思い、同時に男子で行くことを提案した千晶が恐ろしく感じた。
「とりあえず、何か頼みましょうか」
「そうだな」
「こちら、今ご注文いただきましたお品物の説明書きと食べ方、それと女性のお客様には大変好評とさせていただいておりますスイーツ占いが記載されております、よろしければお読みなってお待ちください」
空気を変えようと珪が一声を出し、四人とも賛成した。ベルを鳴らし係員を呼ぶ。雅也はショートケーキ、拓哉はコーヒーゼリー、珪はチーズケーキ、翔はマカロンをそれぞれ選択し、四人が注文をすると係員はポケットから小さなファイルを取り出し、四枚の紙を渡した。係員の説明に納得し紙に書かれた内容を読み注文した品が来るのを待った。
「思ったんだが何故、榊がいるんだ」
「え?今更?」
「会場で合流した時に言っていたぞ」
「 “心此処に在らず”でしたし、大方天野さんに似た方を…」
「珪!」
「冗談ですよ」
品を待つ間に訪れた静寂。それを断ち切ったはの拓哉だった。四人目として呼ばれた榊がいる理由を聞いてなかったためだ。そんな拓哉を珪はいつも調子で茶化すと結構本気で怒られてしまう。二人の様子にあまり関わりの無い翔は雅也に「いつもあんな感じなんすか?」と問うと雅也は短く返事をする。翔は「喜結に招待券を貰ったんです、なんて言って貰ったかは言いたくないけど」と来た理由を淡々と話す。暫くして注文品が届く。だが、あまりの豪華さに「バイキングにして元が取れるのだろうか」とか「女性が喜びそうですね」と各々、感想を述べる。
「そういえば先ほどの占いの結果どうでした?」
「そんなの書いてあったな」
「せっかくですから、結果を元に選ぶというのはどうです?」
スイーツに魅了されるも手が止まる事を知らず、気づけば皿は空になっていた。そして次を注文しようとメニューを見ていると珪が占いの事を言い出した。珪の提案は意外にも面白く、メニューに記載されているケーキを検索しては注文をしていった。そうこうしているうちに制限時間が来てしまった。そんな彼らの前にある人物が姿を現す。
「なんだかんだでかなり楽しんでいたみたいね」
「雅…。なんでいるんだ」
「何でって、スイーツバイキングに参加するためよ、因みに雅也たちの隣の席で」
聞き覚えのある声。その人物とはチケットを渡した雅、張本人だ。しかも雅もバイキングに参加していたというのだ。雅の言葉に雅の横から顔を出し、手を振る千晶。もちろん夏美と喜結も一緒だ。
つまりどういう事かというと最初から雅は人数分のチケットをもらっており、男性陣分として何も言わずに雅也に渡したのだ。悪戯好きの雅のやる事だ。何故、気づけなかったのかと落ち込む雅也だった。こうして束の間の休日は終わりを告げたのだ。
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