行動する勇気 ~CHIAKI UZUKI~



「私はあの日、恋をした。だから今からこの気持ちを伝えに行く」

二十**年十二月二十一日。この日私は何故か渋谷駅にいた。理由は二つかある。その内の一つが尾行だ。同じ生徒会で副会長をしている柚河喜結先輩。なんでも本人がほったらかしていた恋路を見守るらしい。「二人とも不器用さんだから見守ってあげなくちゃ」と嬉しそうにいう雅さん。それに便乗する夏美先輩。まぁこの場を楽しんでしまっている自分も人を非難する資格は無い。なにより人の恋路というのは見ているだけで楽しい。そして何故か勇気を貰えたりする。だが喜結先輩は学園長の娘だと聞いている。何故、父親と同じ姓を名乗らないの?私の家は祖母、父、母、妹五人家族で皆、仲が良い。だから不思議で仕方が無い。家庭にも色々あると言うけど私にそれを理解するには年の功とやらが足りないのかもしれない。

“潜在能力”。誰もが秘めているだけの能力。私も一年前までは使えなかった。私が能力に目覚めたのは友人のお姉さんが起こした“潜在能力勃発事件”。この事件で大半の人たちが能力に目覚めたらしい。

始めに私が渋谷駅にいる理由が二つあると言った。その二つ目の理由は“告白をするため”だ。喜結先輩の尾行を利用するなんてと思うかもしれないが今の私にはこうでもしないと恋愛相手である紫享珪先輩を呼び出すことが出来なったのだ。私は昨日…前日の土曜日の夜に紫享先輩に『お話したいことがあります、明日、お時間が許す時で構いません、話を聞いていただけないでしょうか。区民文化会館前の並木道でお待ちしております』とメッセージを送った。我ながらなんと業務連絡っぽいメッセージだろうと送信してから反省する。しかもこんな硬いメッセージ。返信があるはずがないと思った瞬間、端末の通知音が鳴り響いた。返事が届いたのだ。

「いやいや、いくら何でもこんなに早いはずがないし、きっとメルマガとかだって…」

私は恐る恐る届いたメッセージを確認する。差出人は勿論、紫享先輩で内容は『構いません、ですが最優先にすべきは明日の任務ですので、解散命令が出てから別々に区民文化会館前の並木道に向かいましょうか』と紫享先輩の喋り口調そのもの。まるでメッセージから声が聞こえてくるのではないかと錯覚させる。そもそも、なぜ私が紫享先輩に恋をしたかというと、まぁ一言で片付けるなら“一目惚れ”。

「てか生徒会メンバーは一目惚れをする率、高くない?九条先輩も夏美先輩へは一目惚れだって紫享先輩が言っていたし、喜結先輩も相手の榊先輩だっけ。その榊先輩の一目惚れ&付きまといだって聞いている。唯一、一目惚れじゃないのは雅さんたちか…いや、二人も始まりは一目惚れかも知れない…結局恋の始まりって何なんだろう」

能力テストがあった日の晩は女子トークで盛り上がった。なぜ女子トークに花が開いたかと言うと能力の使いすぎか、緊張か、私はテスト会場でぶっ倒れしまったのだ。目が覚めた時にはすでに日が落ちていて雅さんの提案で私はその日、好意に甘えて泊まる事にしたからだ。雅さんは三つ上の先輩で現役の生徒会会長。だけど私が入学して生徒会の一員になる時には卒業している。こんなにも気の会う先輩は今までいなかったから少し悲しくもある。雅さんは私が生徒会に入ってからも困らない様にといろんな事を教えてくれた。紫享先輩の事もこのとき知った。写真もいくつか見せてもらった。私の理想にぴったりの人だと思った。

入学して実物に会って更に好きになってしまった。口調や声のトーンなどから滲み出る優しさ。完璧だった。私は少しずつ…。多分少しずつ?結構大胆だったかも…。まぁ兎に角、距離を縮めた。そして十二月二十一日を迎えた。喜結先輩と榊先輩を尾行しながら思ったのはとても“お似合いだ”という事と必ずどちらかが告白をするのだろうと。夕方になり二人に変わった様子が無いことから雅さんは“解散宣言”をした。

「あの、雅さん私…」

私は雅さんに一言声を掛けグループを離れた。向かうのは紫享先輩と約束した場所。そこは所謂、告白スポット。しかも今日はクリスマス前の日曜日。そういうのを目的としている人々が沢山いる。暫くして紫享先輩がやってきた。急いできたのか、それとも生徒会メンバーを撒く為か、遠回りをしたのか定かではないが少しだけ息が上がっていた。

「紫享先輩、ありがとうございます」

「礼なんていらないですよ。卯月さんが話したいというのは“告白”ですか?」

「そうです。よく分かりましたね、やっぱり場所で分かっちゃいますよね」

「場所もですがあなたの気持ちに気付かない程、能無しではないので」

紫享先輩がついてすぐ、私は口を開いた。言いたいことは頭に入れていたはずなのに綺麗に言葉が出ない。緊張しているからなのかな。だけど紫享先輩は私が話したい内容を知っていた。しかも私の気持ちに気づいていたというのだ。観察力が優れているのか凄い人だと改めて感心してしまった。それでも言わない事には私が前に進めない。

「紫享珪さん、好きです!付き合ってください」

「…すみません。僕はあなたの気持ちに答える事が出来ません」

勇気を振り絞って紫享先輩の目を見て言った。ほんの少しの間の後に紫享先輩が返事をくれた。分かっていた結果だ。だって知っていたから、紫享先輩は九条先輩の事が好きだって事。多分それは友情とかではない。女の勘は時に残酷だと思う。こういう事が分かってしまう。だからなのか、思わず涙が出た。私だって子どもじゃない、そんなの分かってる。でも今の現実は受け入れるには器量が足りない。

「 “気持ち悪い”と思わないんですね…」

「 “気持ち悪い”なんて思わないです」

紫享先輩が“気持ち悪い”と言った。きっとそれは男が男を好きだからだろう。だが少なくとも私は“気持ち悪い”だなんて思えなった。どうしてかと聞かれると答えることは出来ない。それでも“気持ち悪い”だなんて思わないし思いたくもない。だってずっと誰かを…。ただ一人を密かに好くなんて行為、私にはとても出来ない。だから尊敬も出来る。確かに私も東ヶ崎学園に入学が決まってから紫享先輩に恋をしたが一年も経っていない。

「卯月さん。確かに僕は今、あなたの気持ちに応える事は出来ません。でもだからと言ってこんな所で立ち止まって欲しくないんです。どうか僕と言う個体に執着せず、僕以上に好きになれる人を探してください。」

「紫享先輩。もし、もしですよ。この先もずっと紫享先輩以上に好きになる人がいなかったら、もう一回告白をしても良いですか」

静寂を切り裂く様に紫享先輩が口を開く。先輩は“自分以上に好きになる人を探して欲しい”という。それはとても残酷な言葉。だってそうでしょ、私はあなたを好きだと言ったのに。とても身勝手で悲しい。だから、一つだけ賭けを提案した。私とあなたの賭け。でもこの賭けはどちらにも負けは無い。あるのは気持ちが変わるか変わらないか。私の言葉に紫享先輩は「賛成、とは致しかねますが良いですよ。あなたはきっと、この先多くの人に出会い多くを学び、そして多くの恋愛も知る事になります。それも卯月さんの言う通り僕以上に好きになる人に出会えなければ、その時はお待ちしてます」と賛成の意を示してくれた。紫享先輩の言葉にこれ以上先輩を見ることが出来なくなり、足早にその場を立ち去った。自宅に戻る途中、夏美先輩から大量の着信とメッセージが来ていた。その内容に驚きを隠せなかった。同時に私は何故あのタイミングを選んでしまったのだろうと後悔した。

後日、生徒会室に行く。賭けをしたのはいいけど紫享先輩の顔をまともに見ることが出来なかった。仕舞には生徒会の空気に耐えられず、私は逃げるように退室してしまった。暫く時間を持て余していると来客対応が終わった夏美先輩と出くわした。正確には階段を上がってくるのが分かったから待ち伏せをした。夏美先輩は悪くない。そんなの自分が一番分かっている。だけど言葉とは裏腹。棘のある言い方をしてしまった。

「でもそれって次が見つかるまで、あるいは千晶ちゃんが珪君以上に好きになる人が見つかるまでは自分の事を想っていて良いってことじゃない?」

 そんな私に夏美先輩はアドバイスをくれた。しかもかなり楽観的だ。確かにそうだ。落ち込む必要なんて無い。夏美先輩の言う通りだ。それから私は以前と変わりなく紫享先輩に接することが出来た。そんな私を不思議に思ったのだろう、少し戸惑った顔をしていたから「恋愛は自由なんですよ!」と言った。私の言葉に紫享先輩は苦笑いをしていた。それでも構わない。少しでもあなたの心に居座ることが出来るなら。私の恋物語は始まったばかりなのだから。


》》》続きは製品版にて!描き下ろし等もあります

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DEATH ANGE アカツキ千夏 @akatsukichinatsu

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