若い人は若い人、お年を召した人は召した人、と、別々に描かれる場合が殆どですが、この物語ではそれが分かちがたい地続きの関係で描かれています。
当たり前と言えば当たり前の事。でも、とかく皆自分の周りの事だけに目を向けがちで、そこに繋がりが有る事に中々気付けない。気付いたとしても、だから何? 自分達は自分達、他の人の事なんて知った事じゃない、寧ろ邪魔、とばかりに目を逸らしてしまう。
この物語では、いま正に世界に向けて飛び出そうと、今ある世界を生きる主人公達が、先を生きる人達の歩いた道のりをしっかりと受け継いだ上で、それに新たな命を吹き込んで、自分達の向かう明日へと紡いで行こうとする様が生き生きと描かれています。
二つを繋ぐものとして据え置かれた”忘れ物屋さん”で起きる様々な出来事。
それぞれの想いが交叉するエピソードに、筆者様の小さな、けれども限りなく優しい視線が、この物語に注がれているのが感じられて、読む側にほんのり温かな気持ちを届けてくれます。
もっと多くの人達の目に触れて欲しい、と願わずにいられない、優しさに満ちたお話です。
失礼しました。早とちりをやってしまいました。勝手に第三章は「意外な結末」を期待してしまいました。優等生の彼と桜ちゃんは、この仕組みが善なのか悪なのかの話になり、結論が出ないまま、椿ちゃんとおかあさんにも頼み、4人で此岸と彼岸の渡しがどのように感じるか試してみることにしました。おじいちゃんが執筆中にすごく大切に使っていたモンブランの万年筆を持って行った。喜びと涙が止まらない様子を見て、優等生の彼が「おかしいよ。何かがおかしいよ」となり、「現世の人間は、忘れ物をしたら走って取りに行く。物忘れをしない方法を皆で考えようよ、彼岸を渡ると一生涙が止まらない。悲しいよ」と提案し、その仕組みつくりに励むふたりがあった。・・・膨らましてください。下手なおっちゃんより。
忘れ事はしないけど、忘れ物はしまくる高校一年生の桜。
とある理由で第一志望に落ちてしまった桜は、同中の椿だけを頼りに第一学園へ入学する。
入学初日から忘れ物をしてしまった桜は、母に言われて家までガンダッシュすることに。
そんな桜の行く手を遮る透明な玉。桜は何かに引き寄せられるように玉を追って路地裏へ。
そこで出会ったのは、メガネを掛けた、腰が抜けるくらいのイケメンお兄さん。
「あなたは何をお忘れですか?」
桜が忘れ物を告げると、青年は店の奥から鞄を取り出した。
――何故この店に鞄が……?
疑問に思いながら鞄を受取り、なんとか無事に入学式を終えた桜は、お代を払う為、先程の店を探すことに。
すると不自然な場所にステンドグラスが嵌った扉が現れた。
驚きつつも桜はドアノブを回す。
――カラン、と鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませ。……あなたの忘れ物はなんですか?」
忘れ物名人の桜と、不思議な店のイケメン店長が送る、温かくて、時に笑える、ちょっぴり切ない、黄泉比良坂現代ファンタジー!
――忘れ物をしたそこのあなた。
あなたの目の前に丸いドアノブが見えませんか……?