第10話 沙羅の嫉妬

八月十八日


 翌朝、目が覚めると頭が重い。やってしまった、りっぱな二日酔いである。リビングに降りると、テーブルに一人分の食事が置かれている。焼き魚、煮物。沙羅が作ってくれたようだ。髪を濡らした沙羅が入ってきた。挨拶をするがどこか素っ気無い感じが伺える。「朝御飯ありがとう。」「たっちゃん、まだ女の人の匂いがする!」「後でシャワー浴びるから。」一言言って三階に上がってしまった。

 お昼前にリビングに降りるが、沙羅が居ない。昼食の用意もしてないようだ。昨夜の夜遊びが気に入らないのだろうか?正午を回って、ギャル二人が降りてきた。まな「沙羅は?」私「ご機嫌ナナメみたい!」まな「えーなんでー?」りな「自分だけ置いてけぼりで拗ねてるだけやろ。お昼御飯誘ったら治るって。」りなが三階へ上がっていった。暫くして、沙羅を連れて降りてきた。俯いて私と目を合わせようとしない。まな「皆でお昼行こ。昼から焼肉食べれるでぇ。な。」りな「ほら、たっちゃんもお昼あたらへんからお腹空いてんでぇ。」沙羅がチラリと私を見た。まな「ほら、行こ!お腹ペコペコやし。」二人は賢い、図星になるようなことを言えば、沙羅は拗ねてしまうだろう。核心には一切触れず、お願い攻撃に出る。沙羅「うーん、準備して来る。」成功だ。

 りながタクシーを呼んだ。昼から呑むつもりらしい。焼肉店に入ると四人掛けの個室に案内された。サッとギャル二人が手前の席に並んで座ってしまった。沙羅と並んで座ることになる。私が先に座って、少し躊躇しながら沙羅が右側に座った。りな「とりあえず、中ジョッキ四つ!」沙羅「えー?もう呑むのん?」りな「焼肉言うたら、ビールかサワーや!ほんで、迎え酒な!」何とタフな肝臓だろうか?まな「二日酔いとか、これ飲んだら一発や。」五苓散と書かれた漢方薬のような袋を置いた。彼女達は今朝飲んだらしく、顔もスッキリしている。私と沙羅が貰って飲む。ビールが来て乾杯すると、沙羅がトイレに、続いて私もトイレに。席に戻ると、塩ねぎタンとチシャ、キムチが運ばれてきた。焼き係を買って出る。表面に肉汁が浮かんだら、肉をそれぞれの皿に入れる。「ありがとう。」沙羅がようやく口を開いた。りなが私を見て、軽くウインクする。アイコンタクトらしい。塩テッチャン、アカセン、上ミノが運ばれてきた。沙羅「私するから。」「いいよ!俺するから。」沙羅「たっちゃん、食べる間無くなるから…。」どうやらバーベキューの時を思い出してるようだ。気づいたまなが「あん時の写真、データで送れるん?」ブルートゥースで送れることを話す。「全部いるの?4ギガぐらいあるよ。」結局、一度パソコンに移して、それぞれのクラウドに保存することにした。まな「沙羅、めっちゃ綺麗やったし、また撮ってもらったら…。うちのママが若いうちにいっぱい撮っておきって言うてた。これうちのママ。」スマホの画面には女優の小沢真珠を思わせる女性がポーズを決めて立っていた。「ママ綺麗やろー、うちはパパ似やから…。」続いてパパの写真を見せてくれた。ドングリ目に丸顔に髭、マリオっぽい。「ほんで、妹。めっちゃ可愛いやろー!」りな「妹、読モやってんねん!」まな「先月、事務所入ったっていうてたな!」りなの妹の話題で盛り上がる。沙羅も焼く手を停めて、話に入っている。まな「そーやん、沙羅モデルやったら?スカウトされるやろ?」沙羅「うーん、されるけど。他にやりたい事あるから…。」りな「なあなあ、どの辺の事務所から声かかってんの?」財布から名刺を数枚取り出して並べた。水商売系と芸能系が混じって10枚ほどある。それぞれ比べあいになる。まなが先に並べた。りな「あんた、これとこれとか風俗やん!」巨乳のせいか、風俗店のスカウトが多いようだ。皆の笑いを誘う。最後に沙羅が並べた。10枚ほどだが、全て芸能系だ。水商売は興味無いらしい。りな「すっご!〇〇エージェンシー、ジャパン〇〇、リボルバー〇〇やん!すご!有名女優が所属する事務所がいくつも入っている。」まな「めっちゃ、ええやん!行ったらー?あっ、妹ここやわ。」有名女優やタレントの名が上がり、サインをねだる。

 やっと沙羅もいつもの笑顔に戻った。外堀から上手く埋めていくような話の持って行き方は私にはとても出来ないだろう。最初は、ルーズでだらしなく感じていたギャル二人だが、軽さばかりではなく、こういう気遣いが人一倍出来るのだ。沙羅には、キャバクラの話は一切しなかった。私にはイマイチピンとこないのだが、そこが琴線となっているらしい。女子達で盛り上がって、私は再び焼き係に回った。りな「やっぱ、たっちゃんにやってもろたら、ちょっとちゃうわ。ねぎ塩タンとか塩もんとか焼き加減めっちゃええし。」誰が焼いても変わらんよと話すが、先日の料理のこともあってそう思うようだ。

「そうそう、これ見て〜。」まながスマホの画面をこちらに向ける。沙羅「うわっ、どーしたの?」そこには、水中でポージングをする二人の写真が映っている。スノーケリングの写真が主体でビーチで撮影したものもある。動画も数点あった。どうやらお店の女の子数人で、お客さんの船で遊んできたようだ。船内でパーティーやら、星空フォトまである。沙羅「すっごーい!どーしたの?」りな「一億円クルーザーやって。一日中自慢されまくりや!タレントの〇〇乗せたとか、女優とクルージングしたとか…。」まな「お店の娘らと行ったら、気い遣うし…。お客さんやからアゲとかなあかんし、この前皆でビーチパーティーしたほうがよっぽどおもろかったわ。」りな「あれ、またやりたいやんなぁ。」沙羅の顔を見る。沙羅「二人の送別会ビーチでやろうよ!」私「炭とかいっぱい余ってるし、いいんちゃう。」あれこれとやりたい事の話で盛り上がっていく。話は膨らみビーチパーティーではなくキャンプの話になった。テントはギャル二人が知り合いから借りられるようだ。天気予報と場所決めに入る。幸いコインシャワー完備のビーチがいくつかある。グリーンフラッシュを観てみたいという要望もあり、西海岸のビーチに決定した。夜釣りも並行して出来そうだ。本格的なキャンプなどしたことないが、何とかなるだろう。宿から車で30分ほどたから、何かあっても対応しやすい。

 焼肉店のラストオーダーの2時になり、宿に帰って打合せの続きをすることになった。

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