第3話 ビーチパーティーと写真
七月三十一日
朝食前に駐車場横の倉庫から必要なバーベキュー用品を車に積み込む。バーベキュー台、折りたたみ椅子、炭、浮輪、エアーポンプなど。夕方からのビーチパーティーなのだが、場所取りに早く行かなければならない。広いビーチはコンクリートの階段に囲まれ、階段を上がった場所に二つの東屋があるモルタル造りのテーブルとそれを囲う椅子が有り、バーベキューをするには非常に便利なのだ。近くにトイレとシャワーブースまである。平日とはいえ観光シーズン真っ只中、争奪戦は激しい。
軽くシャワーを浴びてから、朝食のテーブルについた。場所取りをお願いしようと思っていた黒ギャル二人が降りて来ない。呼びに行こうとする沙羅を制して、彼女と二人で場所取りに行くことにした。荷物を積む為に後部座席を倒したので、二人しか乗れない。久住さんは、黒ギャルの車で夕方までに合流してもらうことにした。日焼けを避けたいようだから丁度良いだろう。
食材と飲料を積んで、ビーチへ向かう。髪をポニーにして赤いキャップをかぶった沙羅が助手席に座った。着丈の短い白いTシャツとデニムの短パンがスタイルの良さを強調している。流れる景色を見つめながら、FMから流れる夏っぽい曲を軽く口ずさんでいる。
駐車場に車を停めて、ビーチを上がった場所にある東屋へと向かう。若いカップルがコーヒーを片手に座っている。もう一つある東屋はもう場所取りされていた。どうしようか、迷ったが思い切って話しかけてみることにした。どうやらすぐ近くのホテルから散歩に来たようだ。荷物を運んで、暫しの歓談。二人は、沙羅のスタイルの良さにモデルかタレントだと思ったようだ。深く蒼い大きな丸い瞳に海が映ってキラキラしている。
「日本人じゃないみたい!」と女性が話すと、沙羅「実は、クォーターなんです。」それをきっかけに沙羅が生い立ちを話し始めた。沙羅の母方の祖父は当時米軍に所属していたラテン系アメリカ人で当時沖縄市に居て、当時昼はスーパーのレジ、夜はスナック勤めをしていた今の祖母と出逢い恋に落ちて沙羅の母親を産んだ。彼には自国に家族があり、彼女が妊娠したことも知らずに帰国し、その後連絡も取っていない。一年後祖母は独りで沙羅の母親を産んだ。その二年後、この島で出逢った男性と結婚し、小料理碧の女将である叔母が産まれた。沙羅が幼い頃から慕ったオジイは、実の祖父では無かった。
どうりで島の血を引くとはいえ、くっきりとした顔立ちに深く蒼い大きな瞳、小顔で手足が長いわけだ。
暫く談笑すると彼等は手を振りながら、帰っていった。残りの荷物を運ぶ。すっかり汗だくだ。「暑っつーい!」沙羅が赤いキャップとTシャツを脱いだ。
Tシャツの裾に上下され、ぷるんと揺れる形の良いバストに思わず目がいく。ターコイズブルーでエッジから肩の紐がオレンジ色のビキニが眩しい。ふと目が合った。ヤバい変に思われた?視線に気付いたのか悪戯そうな笑みを浮かべている。「たっちゃんも脱いだら?」促されて私もTシャツを抜いだ。多少の筋肉はあるものの緩んだ腹の私と並ぶと月とすっぽん以上の差がある。周りからどう見えるだろう?親子か、愛人か?照れくさいような、嬉しいような、複雑な気分だ。沙羅が二枚のTシャツを木の枝に干した。
東屋の屋根の下に入り向かいあって腰掛けた。凍らせてきた2リットルの水のペットボトルを取り出すがまだかなり凍っていて水が少ししか出ない。二つの紙コップの半分にも満たない。
紙コップに沙羅がマジックで名前を書いた。何故か「SARA」と「たっちゃん」だ。
沙羅「おにぎりあるよ。」朝早くからポーク玉子おにぎりを作ってくれていた。沙羅「美味しい?塩っぱくない?」「めちゃ美味〜!」にっこりと沙羅が微笑む。
「海行こ!海!早くー!」沙羅がデニムの短パンを長い脚から脱いだ。下がビキニとわかっていても、ドキッとする。「どう似合う?この水着初めてなんだ。」沙羅が照れながらクルっと廻る。「めっちゃ、ええ感じ!!写真撮ろ!ちょっと待ってー。」車にカメラを取りに行く。こんな自然な流れで彼女を撮影出来るなんて幸運すぎる。黒ギャルの寝坊が引き起こした奇跡かもしれない。嬉しさに心が踊った。わざわざデジタル一眼レフカメラを持って来たかいがあった。
昔、カメラにハマってモデルを撮影したこともあった。人物を撮るのは久しぶりだが、相手が沙羅なら腕が鳴る。太陽が岸側にあるのでビーチ側に沙羅を立たせて海をバックに撮影することにした。モデルがしていたポージングを思い出して、まるでプロのカメラマン気取りで会話しながらシャッターを切る。「いいよー、可愛い可愛い!綺麗だ!」褒めちぎるが決してお世辞ではない。撮影に慣れてないと自然な笑顔は難しい。スローにポージングしてもらいながら、時々親父ギャグを連発して笑わせたり、「あ、なんか出てるー!」沙羅「えー?なんでー!」とちょっといじりながら色んな表情を捉えていく。連写すれば表情は捕まえやすい。合間にこっそりと短い動画も撮っておく。後で映画のメイキングみたいに観れるだろう。
もう200枚は撮っただろうか、この中に最高ショットが3〜4枚あれば合格だろう。
撮影終了とともに沙羅が海へと駆け出した。沙羅「最高〜!」「たっちゃーん!」手を振る。走るのが微妙に恥ずかしいので、歩いて海に入って行く。全然冷たくない、ぬるい風呂に入っているみたいだ。「バチャ!」顔めがけて海水が飛んできた。沙羅が笑っている。ビーチ恒例のかけあいっこが始まる。逃げたり、追ったり、何て楽しいのだろうか?暑さも和らいできた。かけあいっこは何となく終わって、東屋へと戻る。沙羅がスマホを取り出した。「一緒の写真撮ってなーい!」海をバックに並ぶ。スマホの画面が見ずらい。沙羅が細い腕を伸ばして調整をする。自然と沙羅の肩が二の腕に触れる。傾けた頭が頬に触れそうだ。躑躅(つつじ)の花のようなほんのり甘い香りがした。
時計を見るとまだお昼の1時だ。水着ももう乾いている。バーベキュー開始は17時頃の予定だからまだまだ時間がある。「ちょっと車で休もうか!」干してあったTシャツもカラカラに乾いている。車を漁港のほうへと移動させる。前に釣りに行った時に見つけた丁度いい木陰がある。車を停めて、シートを倒した。沙羅がレバーを探してもたついている。「ちょっといい?」運転手席から腕を伸ばして、助手席に左下のシートレバーを上げる。助手席の右肩に右手をかけて左手を伸ばしていたので、シートが倒れた勢いで、うっかり沙羅の身体に上半身を被った。
鼻同士が軽く触れた。あと数センチで唇に触れてしまいそうだ。驚いた沙羅と目が合う。鎖骨の下あたりに柔らかい胸が触れて、彼女の体温を感じる。心臓が口から飛び出てしまいそうだ。慌てて身体を起こす。
「ごめんごめん!痛かった?」沙羅「全然、大丈夫です。」顔が赤い。私の顔も多分同じだろう。後ろに手を伸ばして大きなタオルケットを取った。横向きにして二人の胸元にかけた。アガって、何も言えずに目を閉じた。
夢を見ていた。多分、二十年以上昔の光景のようだ。スーツ姿の私は、白いコンサバっぽいスカートスーツ姿の髪の長い年下の女性とバーにいた。何度かイベントの仕事で一緒だった女性だ。十歳近く年下で、アムロちゃんと生年月日も歳も同じで、彼女に憧れている。もう終電だからと帰ろうと話すと、「今日はいいから」、その一言に胸が踊った。バーを出ると左腕が彼女の右腕に絡め取られた。5分も歩けばラブホ街に入る。部屋に入るなり、どちらからともなく、むさぼりあった。さぁ、これからという時に問題が発生した。酒と緊張のせいか彼女の手の中では硬くなるのに、いざとなれば萎縮してダメになる。数度、試したが結局出来ないまま朝を迎えた。朝、出来そうな気がして、身体に触れるとか「朝は嫌なの。」もう修復出来なかった。何となく気まずいまま地下鉄に乗り込む。彼女は途中の駅で振り向きもせずに降りていった。
ふと気付くといつも持ち合わせるカフェの前にいる。ドアを開けて、六歳ほど年下の自称「弟」を探す。テーブルにつくと、隣にさっきまで一緒だった彼女が居て軽く挨拶をされる。仲睦まじい二人の会話に心が沈んでいく。視線を下げて、再び見れば、目の前の二人は、学生服を着た幼馴染みと中学の時に好きだった色白で少しぽっちゃりとした女の子に変わっていた。驚いて目が覚めた。
目を開けて左側を見ると、沙羅のきれいな寝顔がこちらを向いていた。ゆっくりと静かな寝息をたてながら眠っている。長い睫毛が微妙に動く、何か夢を見ているのだろう。
子供の頃から手先は器用なほうだったが、スポーツはやや運痴、勉強は並の上、決してハンサムでは無いだろう。見た目は勿論、何をやっても中途半端な私は、それでも女性にモテたくて、中学生の頃からファッション雑誌やトレンド雑誌を読み漁り、美容室に通い、貧乏ながら何とかバイトで流行りの服に身を包んだ。何とか好きな女性とデートまで漕ぎ着けるも、途中で誰かに奪われていく。悲しいことに奪っていくのは、いつも仲の良い友達だ。いや、正確には彼等は奪っていない。一緒に居る時間が増えるにつれ、彼女達が彼等になびいていってしまうのだ。「お前、あの娘のこと好きやろ?俺、告られたんやけど…。」皆、いい奴なのが余計にタチが悪い。「お前が付きあったってくれや。」結局、女性の気持ちを考えて、自分から身を引いてしまう。
勿論、何度も恋愛はしている。結婚も離婚も経験した。皆、そこそこ可愛かったが、世間で言う「美人」とはデートは出来ても、恋愛に至ったことはあまり無い。この歳になっても苦い思い出は忘れられないものだ。
沙羅の美しい寝顔を何となく見つめていると、蒼い瞳が開いた。寝起きでボーっとしている。「そろそろ行こうかな。」シートを起こした。沙羅「あ、もう、こんな時間?」沙羅もシートを起こした。
戻る途中で沙羅のスマホが鳴った「もしもし、うーん。コンビニ寄って来て!ラインで送るね。」相手は黒ギャル二人のようだ。沙羅がスマホを片手に「たっちゃん、買い物は?」「氷と水を。」さっきのハプニングのせいか、少し距離感を感じる。東屋に戻り、バーベキューの準備にかかる。炭を入れ火を起こす。17時とはいえ、まだまだ暑い、汗がしたたり落ちる。南国の夕暮れは遅い。
「お疲れ〜!買って来たよ!」黒ギャル二人はもう上半身ビキニだ。一緒に来た久住さんは日焼けが気になるのか白いラッシュのパーカーを来ている。お酒が入らないと、もの静かな女性だ。
「暑い暑い〜!海〜!」黒ギャル二人が同時にデニムの短パンを脱ぐ、りなはオレンジ、まなはグリーン、どちらも蛍光色っぽく、面積が小さいビキニは、V型に日に焼けた尻に食い込んでいる。まなの大きなバストが零れ落ちそうだ。沙羅も急かされ、三人で手を繋いで海にかけていった。久住さん「若いっていいですね。私もあんな頃あったな~。」「まだまだ若いじゃないですか!一緒に海にどうぞ!」と促すが日焼けが気になるのか海には行かないようだ。りなが大きな浮輪と足で踏む空気ポンプを持って来た。隣で頑張るが体重の軽いりなには、大きいから大変そうだ。「俺がやるよ!」と声をかけて替わる。勿論、体重がある分、膨らむのが速い。「たっちゃんすごーい!ありがとー!」沙羅よりちょっと年下なのだろうか?派手なメイクの下に時折少女っぽさが覗く。
浮輪を持って再び海にかけて行った。三人が子供のように遊ぶのを見ながら、着々とバーベキューの準備を進める。久住さんは知らぬ間にビールを呑み始めていた。
黒ギャル二人が走って戻って来た。両腕を持って、「たっちゃんもー!」振り返ると久住さんが軽く手を振ってた。ギャルには苦手意識があるが、よく見れば二人とも目鼻立ちの整ったきれいな顔をしている。りなは細面でキリッとした意思の強そうな目で、鼻筋の通ったクールなタイプ。まなは丸顔でちょっと垂れ目、大きな瞳と大きなバスト。二人とも夜の店で人気があるだろう。
若い女の子三人と遊ぶ親父、気持ちだけ遠かりし二十代に戻った気分だ。一眼レフカメラを手に彼女達の写真を撮り、三脚をセットして砂浜で集合を撮った。後で写真を観るのも大きな楽しみだ。
東屋に戻って、まずは冷えたビールで乾杯する。炭の火が少し落ち着いてよい感じだ。「お腹空いた〜!まだ〜?お肉焼いてる?」黒ギャル二人が食事をねだる猫のようにうるさい。「まだ〜?まだ〜?」火の通りにくい野菜類は遊んでいる間に久住さんが焼き始めていてくれた。クーラーからレモンとガーリックオイルに漬け込んだ海老、塩ダレに漬けたホルモン。ビールを片手に順に焼き始める。
「そろそろいけるよ!」「いっただきま~す!」焼きながらだと中々食べるタイミングがない。沙羅が私の分を皿に取ってくれる。「私、代わりますよ!」「いや、熱いしいいよ。」沙羅「たっちゃんの歓迎会だから。」とトングを奪われてしまった。スペアリブが出る頃には綺麗な夕陽が海の向こうに沈みかけている。「これ?グリーンフラッシュするんちゃう?」まなが前に沖縄の崎本部でグリーンフラッシュを観た時と同じような感じだと言う。確かに雲一つ無い。グリーンフラッシュなら太陽が沈みきった後でエメラルド色の発光が観えるらしい。虹と同じようなプリズム現象なのだが、滅多に観られるものではない。
慌ててカメラと三脚をセットする。三人はもうスマホを構えて夕陽を撮り始めている。太陽が半分沈んだ燃えるようなオレンジ色は幻の宝石パパラチアサファイヤのようだ。ゆっくりと沈んでいく、あと僅かで沈みきる。まな「こっからやで、目離したらあかんで。」息を飲んで見守る。オレンジの光が遠退いて、段々と赤や紫に変わってきた。「あかーん。やっぱ、むずいわ~。」まなの声を合図に三人がスマホを下ろした。
ビーチから見える赤、紫、蒼のグラデーションが美しい。もうすぐ、宇宙のような深い蒼になっていく。この天気ならきっと満天の星空に天の川が見えるだろう。
「そろそろやるで〜!」りなとまなが、山ほどの花火が入ったダンボール箱と水の入ったバケツを持って来た。久住さん「あらまぁ!こんなに買って来たの?」りな「こんなん、すぐすぐ、あっという間や〜!」まなが五つほどある大袋をやる順番に分ける。彼女達なりのルールがあるらしい。最初は、普通の手持ち花火からスタートする。私には素晴らしいシャッターチャンスだ。女性四人並べて何枚もシャッターを切る。りなまなの「撮って〜!」に応じながら、久住さんも撮る。心なしか沙羅に切るシャッターのほうがやや多くなる。次に仕掛け花火に変わる。噴き出し系や演出の派手な花火だ。まながドラゴンを並べている。りな「あんた、これ一辺にやんの?」どうやらナイアガラ風なのをやりたいらしい。十二個並べて、左右から手持ち花火で火を着けていく。ここは動画撮影だ。数秒たって順番に2m程の高さに噴き出して、赤青白と色が変わっていく。花火を背に慌てて四人並べて撮る。いつの間にかビキニからTシャツ短パン姿に変わっていた。打ち上げ花火セットに替わる。沙羅「こんなの大丈夫なの?」直径15cmもある打ち上げ花火を手にしている。「大丈夫やって〜!」黒ギャル二人に促されて、浜辺に順番に並べてセットする。連発系から大玉系まで様々だ。大きい花火は、歓声と拍手を誘う。安全上、私が着火係だ。祭りで上がる大きな花火も楽しいが、皆でやる花火も格別の楽しさもある。最後は、やはり線香花火で締めくくる。「負けたらこれね!」紙コップに1/3ほどの古酒の泡盛が入っている。いつの間に持って来たのか、店の客に貰ったものらしい。いや、ちょっと待て、線香花火が五十本ほどある。負けが続くと大変だ。結局、仕掛けた二人が8杯ほど一気呑みすることになった。あとは私と沙羅だ。「こういうのはおばちゃんが上手いのよ!」確かに久住さんが圧倒的だった。年季の差はこういうところに出るようだ。
花火を片付けていると、「オトーリやんでぇ~!」酔ってテンションの上がったりなが残った泡盛を空いた水のペットボトルに入れ、上からレモン風味炭酸水を足した。三倍に薄めたようだ。
「オトーリ」とは島特有の風習でお祝い事を中心に豊作豊漁を祈願して、豊作なら右手廻り(時計の逆廻り)、豊漁なら左手廻り(時計廻り)に順番に呑んでいく。
まずはその場の一番偉い人または年長者が「親」となり口上を述べ一気呑みをする。そして親が酒を振る舞い、順番に同じコップで親の隣の人から順に一気していく。一周すれば親が次の親を指名する。この島で毎週末「路上泥酔者」が沢山出るのもよくわかる。「たっちゃんからね。」オトーリに参加するのは三回目で、ルールがいまいちわからないが、まあ適当でいいだろう。因みに口上の内容は悪口や不満事は避けるのが暗黙のルールだ。会社を早期退職し、島に来て良かったこと、人の縁に恵まれたことに感謝する話をした。次に右隣にいる沙羅にコップを渡し半分ほどの酒を入れる。沙羅「頂きます。」一気に呑む。私の後なのが、何となく申し訳ないのだが、自分から進んで右隣に来たような気がするのは気のせいか?次に久住さん、黒ギャル二人へと続く。さっきの罰ゲームでハイになって、呑むのを撮影して「イエーイ」とやってる。りなが最後で私に返り、親が替わる。次は久住さんだ。ちょっと酔ってる久住さんの話は長い。離婚の話からバツイチで再婚をしたい話で締めくくった。「たっちゃん、どうなん?」「お似合いちゃうん?」黒ギャル二人に絡まれる。久住さん「そんな簡単なものじゃないわよ。歳いくと若い頃みたいにいかないんだから!ね、たっちゃん!」「ちょっとー、オトーリ止めちゃダメでしょー!」酔った沙羅が割り込む。またまた黒ギャルVS沙羅の言い合いが勃発する。「まあまあ、もうケンカしなーい!楽しい場でしょ!」久住さんが制する。仲良しだから、毎日のようにやってる「ゴッコ」だから全く心配しなくていいそうだ。黒ギャル二人の口上が意外だった。金髪に近い髪、灼けた肌、派手なメイクにネイル、へそピアス、数か所にちょっとしたタトゥーまで入っている。そんな二人だが、何と関西の名門女子大の三回生、早々とりなは大手旅行会社に就職内定、まなはIT関連の外資系企業に就職内定。夏休みに来て毎日を楽しんで、お金も稼げるからリゾバしている。リゾバで稼いだお金で来年の卒業旅行はヨーロッパを巡るらしい。話を聞いて私はぽかんと口が開いた。私の時代のヤンチャな娘と現在のヤンチャな娘は考え方が全然違う。オトーリが一通り終わり、雑談になる。「就活の時の写真無いの?」思わず見たくなって聞いてみた。「こんなん見せんの恥ずかしーし!絶対無理ー!」照れながらも見せてくれた。前髪を分け、黒髪を後ろで束ねた二人が居た。派手なメイクを落としても中々の美人だ、大手企業の受付や秘書に居ても不自然では無い。沙羅「私も見せてもらって驚いたしー。ねー!」もうすっかり仲直りしてしている。若い娘三人を見ながら、見た目と違って中身はしっかりしたもんだ。親でもないのにホッとする。
八月一日
翌朝、珍しく朝食の席に二人が居た。スッピンの顔がちょっとおぼこくて可愛らしい。久住さんも降りて来た。ギャル二人が朝食を運ぶ沙羅を手伝う。「あれ?今日叔母さんは?」沙羅「朝からイベントやって。」屋外イベントに小料理碧が出店しているそうだ。沙羅「私も手伝いに行こうかな?」結局、仕事がある久住さんを置いて、四人で向かうことになった。この時期の野外イベントは猛烈に暑い。おでん、焼そば、ステーキ、かき氷などを販売している。エプロンを着けた三人が加わって、黒ギャル二人が声掛けを始めるととんでもないスピードで売れていく。水商売で鍛えられてるのか、客寄せがウマすぎる。一気に押し寄せる客が並ぶ。作るのが間に合わないので、後で取りに来てもらう状態だ。店のお客さんや知り合いも多いようで、ちょっと強引に買わせていくのが面白い。調理に追われて、私は焼そば担当、沙羅がかき氷担当で加わる。沙羅に地元のオジサン達が付きまとうのが気になるが、居酒屋バイトで慣れているのか、軽く相手して上手く躱していく。
イベントは17時までだが、勝負時の13時を迎えるころには完売した。私担当の焼そばもそばが切れ、余った肉と野菜は炒め物にして近くのブースに配った。
声掛けを頑張った二人はビール片手に沙羅と談笑中だ。二人が飛ばすギャグに沙羅が笑い泣きしている。見ていて微笑ましい。同年代の友達はいい。
ギャルの車で来たのに帰りは私が運転することになった。二人は後部座席でもたれあって寝ている。沙羅も眠そうだ。運転する私に気を遣っているのか、「寝てていいよ。」と言っても眠ろうとしない。眠気覚ましの缶コーヒーを飲みながら宿へ向かった。
肩が凝ったので、湯に浸かりたかったが、女子三人に先に取られてしまった。盛り上がっているのか、風呂場から高い声が響く。熱いシャワーだけ浴びてちょっと昼寝をすることにした。リビングでビールを呑んでいると、先に上がった沙羅に続いて、バスタオルを巻いただけの二人が出てきた。沙羅が「もうー!服着て!服!」「暑いもーん!」冷蔵庫を開けようとする二人を沙羅が三階へと追いやる。沙羅のほうが一つ歳上だが、まるで母親のようで笑える。すぐに二人が降りて来た。赤と黒のタンクトップにジョギング用の短パンだ。バストがプルプルと揺れている。先の突起がわかる。ノーブラなのか?つい見つめてしまう。脇からもバストが半分ほど見えそうだ。冷蔵庫から水のペットボトルと缶ビールを持って「たっちゃん、またね〜。」と三階へと上がっていった。僅か数秒の出来事だが親父には刺激が強すぎる。眠気に誘われ私もさっさと自分の部屋に戻った。
八月二日
今日は、早朝から釣りに行ってお昼頃宿に戻った。小物ばかりなので、お持ち帰りは無しだ。道具を片付けて二階の宿へと上がる。
扉を開けると味噌汁の良い匂いがした。沙羅「お帰りなさい、お昼御飯唐揚げだけど、一緒に食べます?」「頂くよ!皆は?」沙羅「久住さんは夕方まで出かけるって、りなまなはまだ寝てるよ。」これはチャンス!沙羅と二人でビーチパーティーの時の写真が観れる。三階の部屋からカメラを持って来た。テーブルに沙羅と並んで座った。テレビとカメラをBluetoothで接続すればテレビの大きな画面で観られる。最近は便利になったものだ。彼女が好きに観れるようにリモコンを渡す。見始めると階段を降りる音がした。やばっ、黒ギャル二人が降りてきた。「おっはよ~!あの時の写真やん!観る観る〜!」丁度、沙羅が自動再生にしたところだった。「何これー、沙羅ばっかりやん。」沙羅をモデルに撮影したことを話すと「めっちゃええやん、たっちゃんプロみたい!沙羅めっちゃきれー!」沙羅の顔が赤く染まっている。「今度、うちらも撮ってぇ~!」りなが後ろから両肩に手を置いた。あまり気が乗らないが、これは承諾するしかなさそうだ。途中から皆の写真に変わって盛り上がる。写真とか映像はいい、観ればその時に戻れる。リストの画面に戻ると半分以上は沙羅の写真だ。彼女達を撮影することにしたから、それ以上は突っ込んで来ないが、内心ヒヤヒヤした。
身なりを整えて、黒ギャル二人は出ていった。お店のお客さんの船でスノーケリングに行くらしい。私と沙羅も誘われたが、身の置き所がなさそうで断った。
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