第18話 ぼっちXmas

「ギャラリーカフェサガリバナ」の営業も落ち着いて来た。週末夜のバー営業は、思い切って女性とカップル限定にして客層が安定したことで、集客が増え客層も良くなった。来店客は、昼も夜も地元と観光が半分ずつ。ランチタイムもオープン当初より落ち着いて、週末以外はやっと満席になるペースだ。

 ギャラリーに展示販売したいという画家や写真家、アクセサリーショップも出てきた。一番広いスペースには、私が撮った写真を展示している。将来的には、ここに沙羅の陶芸作品を並べたいと考えている。

 今日は、クリスマスイヴ。ランチタイムは用意した特別な料理のせいか、閉店までずっと満席だった。何故か夜の予約は今のところ無い。皆、フレンチやイタリアンのレストランに足を運ぶか、テイクアウトでホームパーティーだろう。沙羅も誰かとディナーに行くだろうか?インターンが始まり就職したら、私のことなど徐々に薄れていくだろう。もちろん出会いも増える。あんなに綺麗なんだから、周りの男どもが放っておかないだろう。

 19時、バーの営業が始まる。今日は、アルバイトの二人はデートとホームパーティーでお休みだ。飾られたクリスマスツリーをぼーっと観ながら、ワインを片手に来客を待つことにした。店内に流れるラインミュージックにはRBの甘いバラードばかりが流れている。20時、予約の電話も鳴らない。今日は、早めに閉店かな?一人ぼっちのクリスマスは慣れっこだが、心なしかいつもよりも淋しい気がするのはこの夏があまりにも楽しかったせいなのか。こんな夜は沙羅の声を聞きたいが、きっと誰かとディナーでも食べているだろう。「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろ♪SilentNight♪HolyNight♪」何となく山下達郎の「クリスマスイヴ」を口ずさむ。何故か、クリスマスの曲は淋しい曲が多いのは気のせいだろうか?「でも、この島には雪は降らないなぁ。」一人で笑って二杯目のワインを空けた。

 

 リンローン♪ドアベルが鳴った。ランチタイムの疲れが出たのか、いつの間にか、カウンターで眠ってしまったようだ。「はーい!」慌ててカウンターから出て、エントランスへと客を迎えに行く。時計の針は10時00分を指している間もなくオーダーストップというのに、どんな客だろう?酔ってたら、断ろうか?

 エントランスに鍔の広い赤い帽子を被った、ベージュのコートを羽織った女性が立っているのが見える。何とお洒落な!クリスマスイヴに美女のお一人様か?これは、ラッキーかもしれない!ワクワクしながらエントランスへ向かう。

 緩やか二ウェーブをした明るいブラウン色の髪が胸元まである。女性は、右手で大きな帽子を外した。左手には大きな紙袋を下げている。

「今晩は。一人ですが、入れますか?」聞き覚えのある優しい声がそこにある。

 深く蒼い瞳が人懐っこそうに見つめている。「えっ、どうして?嘘だろ?酔ってるのか?」心の中で声をあげた!悪戯っ子みたいにちょっとだけ舌を出して「えへっ!来ちゃった!」

「沙羅っ!」駆け寄ってベージュのコートの上から抱きしめた。そう、細い身体を力いっぱいに。「きゃー、たっちゃんダメー!ケーキ潰れるー!」「外から見えてるよー!」構わずに抱きしめる。沙羅の体温と柔らかな胸の感触が伝わる。甘い躑躅(ツツジ)の香りが鼻をくすぐってくる。酔って夢でも見ているのか?いや、きっとこれは現実だ。

「もー、ケーキ潰れちゃうよー!」両手を離して肩を掴まえた。「お客さんに抱きついちゃ、ダメでしょ!」悪戯な瞳で笑っている。「お帰り。えーっと、いらっしゃいませ!」紙袋とバッグを受け取り、カウンターの席に案内する。「へぇー、こんな感じなんだー!おっしゃれー!」ホールを歩き回る沙羅。椅子を引いて席に迎える。


「改めて、いらっしゃいませ!ご注文は?」


「クリスマスを!」

 

 

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