第19話 エピローグ

 「いらっしゃいまーせ!」今夜も店内に透き通った優しい声が響く。週末の店内は、ほぼ満席だ。「リンローン♪リンロン♪」ドアベルが鳴った。ブラウン色の長い髪を後ろで束ねた黒いエプロン姿の女性スタッフがエントランスに向かう。「お靴を脱いでお上がり下さい。」テーブルへと案内する。「わー、おしゃれー!先に観てもいいですか?」椅子に荷物を置いた二人の女性客がテーブル席を超えて、展示してある数々の作品を見つめている。「触ってもいいですか?」「どうぞー、大丈夫ですから。」眼鏡をかけた女性が藍色のペアのコーヒーカップを手にした。長い髪を揺らしながら女性スタッフが後ろに続く。「これ、欲しいなぁ。」値札を手にする。「9800円かぁ~、どうしよう?ペアだよね。」「あ、これ、私が焼いたんですよ!ここのは全部。」「えーっ、これ全部そうなの?」もう一人の女性が促す。「買っちゃえば?」「どーしよー?」悩む女性。「ほんとは、2個で販売なんですけど、1個でもいいですよ〜!」「えっ?いいの?ほんとに?」「私と一つずつでもいいよ。すごくきれいだし。」「お買い上げありがとうございます。」深々と礼をする女性スタッフ。

 二人の女性客は、テーブルに戻り二杯の赤ワインが置かれた席についた。暫くしてカップが入った白い紙袋を手渡す。「あの、ちょっと気になるんですけどー。その瞳(め)はカラコンですか?ひょっとして外国の血入ってます?」彼女の大きな深く蒼い瞳が気になるようだ。毎日のように聞かれることみたいだが、女性スタッフは、嫌な顔一つせずに丁寧に説明している。

 「やっぱりそーなんだー!だって、めっちゃ美人だし!」女性三人で会話が盛り上がる中、テーブルに生ハムとフルーツを盛った皿を運ぶ。同じく黒いエプロンを付けた黒い髪にベレー帽の女性が「マスター!3番テーブル鴨ソテー一つお願いします!」「はーい!」「たっちゃん!一番テーブル、追加で和牛のローストもだってー!」ベレー帽のスタッフのほうが、ブラウン色の髪をしたスタッフより明らかに年上だ。でも、マスターにタメ口で会話している。

 二人の女性客がきょとんとした顔で見ている。「マスターの娘さん?」不思議そうな顔で問いかけられる。これも毎日のことだ。ランチタイムも合わせて、今日も二回目になる。

 ちょっと間を置いて、「主人です!ねーっ!」悪戯な大きな瞳で見つめながら、彼女は私の左肩に手を置いた。


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親父の甘甘南国夏休み 神虎 @yoshirogoripon

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