第8話 新たなる旅人

八月十二日


 相変わらず起きてこない黒ギャル二人を置いて、朝食のリビングのテーブルについた。私だけなので、叔母さんは来ず、沙羅が準備してくれている。「今日ね新しいお客さんが来るの。」二十代のカップルらしく、昨年の盆休みにも来たリピーターだ。三泊らしいが、沙羅が困った顔をしている。「どーしたの?何か問題?」「えーとね、何て言ったらいいのかなぁ。」沙羅の顔がほんのりと赤くなった。そのカップルが昨年の七月から付き合い始めたらしく、色々とあっち方面が激しいらしい。部屋はもちろん、お風呂からもあの時の声が聞こえるらしい。久住さんが使っていた2号室に入る予定だが、隣がギャル二人だしちょっと心配らしい。私の部屋と入れ替えも提案したが、沙羅の部屋の隣に来るのも嫌らしい。「二十代とかで、付き合って間もなければそんなもんだよ!」と話すが、「私、そういうのあまりわからなくて…。」恋人同士だし、旅行で盛り上がっているだろうし、そういうことをするなと言う訳にもいかないなあ。勿論リピーターは大事にしないといけない。隣室のギャル二人と揉める場合もありうる。二人には、私から先に話しておこう。

 リビングでの昼食後、二人が降りて来た。「たっちゃんもコーヒー飲む?」何でもペルー産の珍しい豆を買ってきたらしい。グァテマラのような甘味とキリマンジャロのような苦みと香ばしさがある。「何て豆?」「ペルーチャンチャマイヨ」「え?チャンチャマイヨ?」おかしな名前に思わず聞き直した。ツボに入ったのか、まなが大ウケして笑いながら泣いている。台風前に買ったらしいが、お店でお客さんに話してもこんな感じだったらしく。店の黒服案で、チャンチャマイヨダンスまで出来たらしい。コーヒー豆話が落ち着いたので、問題の宿泊者の話を切り出した。まな「うちらそんなん全然平気やで。どちらか言ったら、ちょっと飢えてるしー!」りな「ちょっとあんた、そんなん言うたら誤解まねくやろー!」まな「だって、渇ききっとるやんうちら。」そこから、店の客話に発展したが、ついていけないのでコーヒーを片手に部屋に戻った。


 今日から賃貸物件探しだ。マンションはやめて、借家で一階がカフェとギャラリー、二階が住居に出来る物件を探す。場合によっては売買物件でもいい。時間はある、じっくりと探そう。この島では、不動産屋を介せず直接やり取りしている物件が多い。ナイチャー(内地の人)が借りるのは中々難易度が高いと言われるが、やってみなけりゃわからない。まずは島内では大手不動産屋二軒を訪ねた。借家はあるが中心部からかなり離れてしまう。ロケーションも期待出来なさそう。あとは平屋、コンクリート部分以外はボロボロ。あとは、車で廻って探すしかない。

 夕方、宿に戻るとリビングのソファーに男女二人が座していた。軽く会釈して冷蔵庫を開けさんぴん茶をグラスに注いだ。沙羅が「たっちゃん。今日から三日間宿泊の佐竹さんと小山さん。」「神崎です。宜しくお願いします。」「佐竹と(男性)小山(女性)です。宜しくお願いします。」真面目そうな二人である。男性は小柄な細身で眼鏡、黒髪でドングリのような髪型をしている。色白でオタクっぽい。25歳位だろう。女性は少しぽっちゃりで、胸位ある焦げ茶色のストレートに一重の目、モンゴル系の顔立ちをしている。女性のほうがかなり年上だろう35歳いやもう少し上かも?どちらも大人しそうだが…。あっそういうことか?自分にも似た経験がある。19歳の頃、一回り年上の既婚女性と付き合って、ハマって毎日何回もした。二人の娘を持つ主婦だったが、丸顔と大きなねこ目のせいか、二十代前半にしか見えなかった。巨乳なのに細身でスタイルも良かった。彼女とのセックスは、十代の味気無いそれとは違って、深く濃い快楽があった。貪り合うように求めあった日々。逢瀬は二年ほど続いたが、同じような感じかもしれない。こちらの彼氏が彼女と出逢うまで、童貞であったなら、同じようなことになるだろう。

 沙羅が宿泊の手続きを始めている。彼氏のほうは沙羅に見とれているようだ。男は経験の浅い若い頃は、ありとあらゆる女性に目移りする。はしゅ本能の影響もあるが、女性に対しての好奇心があまりにも強い。「あー、気持ちはわかるよ。オジサンもそうだったから。」心の中でつぶやく。沙羅みたいなアイドルレベルの娘が目の前にいるのだから仕方ない。

 沙羅が二人を連れて、二階の部屋へ向かった。暫くして降りて、駐車場へ向かったようだ。荷物を上げるのを手伝おうと一階に降りた。この彼氏の二の腕は私の半分ほどの太さしかない。中型のスーツケースを二つ三階まで上げるのは大変だろう。「手伝いますよ!」「すいません。ありがとうございます。」重いほうを右手に持って階段を上がる。五十代になって衰えたが、少しばかり筋トレはしている。この位なら楽勝だ。三階の2号室に入れた。あれ?全然上がって来ない。玄関を出ていれば見下ろすとまだ二階へ上がる外階段の中程でやや停滞している。荷物をパスしてもらい、三階の部屋に入れた。「どうもありがとうございました。」「力強いですねー!すいません、ほんと。」私が強い訳では無い、君が弱いのだ。

 丁度、ギャル二人が出てきた。「りなでーす!」「まなでーす!」私の時と同じように苗字は名乗らない。彼女達のルールなのだろう。彼氏の視線が露出気味なまなの巨乳に刺さっている。彼女が隣にいるというのに…。

 お盆で小料理碧が忙しいようで、昨夜から毎日沙羅が駆り出される。早めの夕食を二人でササッと食べて、彼女は行ってしまう。気持ち的には、私も一緒に手伝いに行きたいところだが、「たっちゃん、お客さんだから。」と断られてしまった。仕方なく、リビングでテレビを観ながら一人晩酌をする。玄関の引戸が開き、例のカップルが帰って来た。島の居酒屋で晩御飯を済ませてきたらしい。明日は民謡居酒屋へ行くらしい。「後でお風呂お借りします!」

 リビングでテレビを観ていたら「ちょっと、やめてったらー!」「何でー、いいじゃん!」「後で、お部屋でね。」風呂場から声が響く。勢いあまる彼氏を彼女が抑えているようだ。「もう、ダメだって!あーとーで!」抑止きれず事が始まってしまったようだ。

 この後の風呂場には行きたくないなあ。まだ髪が濡れた二人が出てきた。冷蔵庫から水のペットボトルを出して、「おやすみなさーい。」と部屋に駆け上がっていった。なるほど~、こういうことね。沙羅がまだ帰って来てなくて幸いだ。

 二階でことの続きに聞き耳立ててる訳にもいかず、ぼんやりとリビングでテレビを観ながら泡盛をロックでチビチビやっていた。0時頃、玄関の引戸が開いた。「あー、疲れたー!」沙羅が帰って来た。「たっちゃん、まだ呑んでるのー?呑み過ぎじゃなーい?」「うん、そろそろ寝るよ。」沙羅に促されて、部屋に戻った。


八月十五日


 夕方から深夜まで、沙羅が居なかったのもあって、この宿で過ごす最も退屈な三日間が過ぎた。例のカップルは三日間とも…。いや、この話は仕舞っておこう。彼等は何も悪くない。

 沙羅が忙しい上、朝飯まで気を遣わせるのもどうかと思い。昨日今日と朝から港に釣りに出ている。大物狙いの打込み釣りだが、ツマグロザメとウツボしか釣れない。どちらも曲者なので無事御帰り頂いた。昼前に宿に戻ると、すっぴんの沙羅がおりてきた。「寝坊しちゃった。えへへ…。」「疲れてんじゃない?」「多分、今日出たら、明日休みかなぁ。」「一日位、何もしないで、ゆっくりしたら?俺明日、朝から釣り行って、そのまま昼前に不動産屋と物件観に行くから。」朝飯と昼飯とも要らないことを何気なく告げた。沙羅にゆっくり過ごしてもらう為だ。家事を手伝うのも良いが、沙羅の性格からして、余計に頑張ってしまうだろう。「え?いーの?じゃ、昼までゴロゴロしちゃおうかな?」

 何かをぶつけながら階段を降りる音がした。例のカップルがチェックアウトの為にリビングに降りてきたようだ。スーツケースを降ろすのに苦労している。「おはようございまーす!」沙羅が鍵を預かり、私が二往復してスーツケースを降ろした。車が去るまで、二人で見送った。「あれ、大丈夫でした?うるさく無かった?」「いや、あんまり部屋に居なかったし、そーでもないかな。」

 昼食後、沙羅が部屋の片付けに向かった。「きゃっ?もー!」また、蛇かゴキブリかと思って三階へ上がる。「どーしたの?」「あの、あれ。エッチの時の…。」どうやら、使い捨てたコンドームが見えたようだ。隣のドアが、ガチャっと開いて、まなが出てきた。「ふぁ~。」大きな欠伸をして「あー、帰った?」またノーブラタンクトップの胸の突起に目がいく。「ちょっとー、ブラ着けなさいよ!女ばっかじゃないんだからー!」「トイレ行くからー!」まなは階段を降りていった。沙羅がシーツを外すのを手伝った。くんくんと臭いを嗅いている。この部屋での行為が気になるのであろう。タオルとゴミを回収して二階に降りた。

 洗濯待ちの間、沙羅にコーヒーを淹れた。ギャル二人は、コーヒーにはこだわりが強いようで、湯の温度や蒸らし加減、ドリップのスピードなど細やかに教えてくれた。この前のペルーチャンチャマイヨは、好きに飲んでいいらしい。もうすぐ、二階に降りてくる彼女達の分も入れて四人分のコーヒーを淹れる。

 りな「えー匂い!チャンチャマイヨやん!」キッチンにはグァテマラを中心に何種類かの豆があるが、見事御名答。すっぴんの可愛い娘三人とテーブルを囲むのは、数日ぶりだ。例のカップルの話になった。りな「しゃーないやん、旅行やねんから、そらするって!」まな「前彼と旅行行った時とか、めっちゃしたし。」ギャル二人を中心に熱かったカップル旅行の話に沸いた。結局、今は彼氏が居なくて淋しい二人。どちらもモテるタイプだから、内地に戻れば彼氏位すぐに出来るだろう。りな「沙羅はー?ちょっと位は、進展してんの?」沙羅「ちょっとー、ここでやめてよー!」沙羅の思い人が気になるが、そこまで踏み込むのは難しい。

「うちら、来週帰るんよ。」もう、夏休みは終盤に差し掛かっているのだ。「二人がいないと淋しくなるね。」りな「マジでたっちゃん、一回店来てよ!いっぱいサービスするしー!」まな「うちら、ドレスやでー!見たない?」りな「沙羅もおいでよー!沙羅来たら、店長絶対スカウトするやろなぁ。ナンバーワンなれるかもな!」結局、沙羅は遠慮して明晩私一人が行くことになった。

 一晩で5〜7万の出費になりそうだ。サラリーマン時代と違って経費で落とせないのが痛い。因みに自腹でキャバクラなんて、独身時代から行ってない。二十年ぶり位か…。

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