第11話 初ビーチキャンプ

八月二十日


 昨日は、倉庫の中を散々物色して、キャンプに使えそうな物をピックアップした。バーベキューセット、大型クーラー、バケツ、ポリタンク、海遊び用品、ブルーシート、蚊取り線香。宿からはバスタオル、タオルケット、枕、食材、飲料、調理用具。もちろん、釣り道具は欠かせない。レンタカー2台の荷台にビッシリである。積み終える頃には汗まみれだ。

 シャワーを浴び、四人で簡単な昼食を摂って西海岸のビーチへと向かう。暑いので、先にエンジンをかけて、助手席の沙羅を待つ。「おまたせ~。」赤いキャップ、白いTシャツにデニムの短パンの沙羅が乗り込む。車内にふわりと躑躅(ツツジ)の香りが舞った。キャップの上に掛けてたサングラスを耳に掛け直した。

 今朝からすこぶる機嫌がいい沙羅の話が止まらない。30分ほどのドライブだが、「ね、聞いて聞いて!」から始まる話に盛り上がりながらハンドルを切った。前回のビーチパーティーを思い出しながら、車はビーチへと向かう。

 周回道路から目印の3台並んだ赤い自販機の角を海側へと入っていく。途中はほぼサトウキビ畑と牛舎しかない。暫く走るとY字路になって、左斜めの道に入る。対向車が来ると交わせない狭い野道を走って、バナナ畑を抜けると5台ほど停められる駐車スペースがある。私達の2台のレンタカーしかいない。ちょっとした林を抜けると白いビーチに出る。左手には、人が立って通れるほどの大きな穴が空いた巨岩が点在している。

 右手は白い砂のビーチが400mほど続いて、先に建築途中で放置された白亜の建造物がある。多分、ホテルなのだろうが、資金繰りで頓挫し競売物件になるらしい。ここは遠浅の秘密のビーチでガイドブックや島を紹介するサイトにも掲載されていない。所謂、無人(イチャンダ)ビーチである。島にはまだこういう手付かずの美しいビーチがいくつかある。打込み釣りで一度来た以来だが、この淡いブルーの海は素晴らしい。

 四人がかりで、車の荷物を降ろす。テントは80cm位の円盤状に丸められていて、ポイっと投げると自然に立体化するらしい。りなが面白半分に投げた。輪が弾けるように何度か弾んでドーム型のテントになった。2台並べて、ピトンを打ちロープを張って固定する。テントの屋根を利用し、そこからターフを張る。即席だが上手くいったようだ。でも、このテントちょっと狭くないか?テントの収納袋を見ると二人用と書いてある。タダで借して頂いた物だから、有り難く使わせてもらうが、夜寝る時はどうする?そうか、私は車で寝れば問題ないか?せっかくキャンプに来てるのに、それは淋しくないか?思案しながら中で寝やすいようにテント内ベッドとマットをセットするがやはり二人分でピッタリである。三人の誰かと一緒に寝るのか?親父としては、もちろん嬉しい。まして、沙羅と一緒なら…と、良からぬ想像をするが、それは流石に無いだろう。最後にバーベキュー台に炭をセットして終了だ。設営が完了して、皆で乾杯する。汗だくで飲むビールは最高だ!

「使うテント決めよーや?」一番気になっていたことをりなが切り出した。「ちょっとちょっと、俺と二人とかまずいだろ!俺、車で寝るから三人で使って…。」まな「何ゆーてんのん。全然大丈夫やんなぁ!」りな「エッチするわけちゃうんやから…。たっちゃん、考えすぎ!」沙羅の顔がほんのり赤い気がした。ペアは公平にグーパージャンケンで決めることになった。こんな若い娘と二人で同じテントで寝ると思うとドキドキする。「ジャンケンホイ!」私だけグーだ。二回目、「ジャンケンホイ!」全員がグーだ。三回目で決着がつき、私と沙羅、りなとまながペアになった。まな「あーあ、普段と一緒やん!」りな「それが何か?」二人のやり取りが笑いを誘う。それぞれの荷物をテントに入れる。沙羅と二人で同じテントで眠る。あまりにも幸せ過ぎる。さっきのジャンケンは、仕組まれていたのだろうか?まなが残念がるのは、演出なのか?沙羅は気付いているのかな?彼女は嫌じゃないかな?

 三人はビキニ姿になり、海へ飛び出して行った。キャッキャと騒ぐのを見ていると微笑ましくなる。ギャル二人が、沙羅が私に好意があると話してくれたが、それは多分恋愛感情ではなく、父親的な年上の異性に抱く感情に近いものだろう。若い頃には、よくありがちだ。サラリーマン時代、インターンで来ていた大学生の女の子と何となく仲良くなり、最初はランチから、親交が深くなるにつれ、居酒屋にレストランに、釣りにも連れて行くことになった。ある夜、二軒目のバーで飲んで、終電を過ぎても帰ろうとしないので、私に気があると思いホテルへと誘った。てっきりOKかと思いきや、はっきりと断られた。「神崎さんは、お父さんみたいで、そんな風には思えなくて…。あ、でも今日も楽しかったです!」気まずい空気が流れていく。インターン期間が終わり、送別会から暫く会うことはなかった。内定通り、日本赤十字社に就職したという報告が来て、1年後彼女から呑みの誘いがあった。ひょっしてと喜び勇んだが、結婚することになったらしい。相手は、私と年が変わらない独身の歯科医で、バツイチ子無しで開業医だ。目の前が暗くなった。何故、わざわざ誘ってきたのだ?彼女のことがわからなくなった。昔話に話を咲かせながら、始発まで一緒に過ごした。途中で何度か、その気があるのかと思ったが、怖くてとても口説く気になれなかった。それにアルコールが入っていて、出来なかった経験が頭によぎる。それきり、会うことは無かったが、子供が産まれたという報告を最後にもらった。しっかり者の彼女のことだ、りっぱな母親になっているだろう。あの最後の夜、口説けば違う展開になっていたのだろうか?本当の気持ちは今もわからない。

 昔の思いに耽っていると、三人が戻ってきた。まな「たっちゃんも行こ!お魚いっぱいいるよ!」座っている私の左腕を持った。シュノーケルセットを持って海へ向かう。泳ぎはあまり得意じゃないが、遠浅の海なら安心だ。海底は主に砂地だが、所々に岩が点在し、色んな珊瑚が花を咲かせている。私とまなは身体的にナチュラルな浮輪装備で潜れないが、沙羅とりなはヤスを持って岩の下へと潜っていく。隙間にいる魚を狙うようだ。水中から沙羅が岩の下を指差している。手招きしているが、ナチュラルな浮輪を装備した親父の身体は沈まない。彼女は一旦海面に顔を出して、息を吸って再度一直線に海底に向かって行く。ゴムで引っ張られたヤスが勢いよく発射された。魚が暴れているのだろうか、ヤスが動いている。岩の隙間から引きずり出し、魚を上に水面から顔を出した。デカい浮輪に掴まっている私とりなに見せてくれたのは、通称オジサンと呼ばれる魚だ。正式にはヒメジという。オジサンにしては、中々大きい30cm以上はある。鰓上部の急所に近い場所に刺さっている。まな「沙羅、すっごーい!」りなも少し離れた所から泳いで浮輪に掴まった。私はヤスごと魚を貰い、ビニール袋に入れてクーラーで冷やした。

 再びヤスを持って合流する。「私もやる〜!」ヤスはまなに奪われた。頑張って潜ろうとジタバタしているが、まなの大きなお尻は水面下にはいかない。見兼ねたりなが潜り方をアドバイスするが、胸に巨大な浮輪が二つ、お尻も浮輪なまなはバタつくだけで潜れない。あまりにも面白すぎて、沙羅が涙を浮かべながら笑っている。まな「無ー理ー!」ようやくあきらめたようだ。

 りな「何?何?下に何かいる。」砂地の海底に大きな円形の輪郭が見える。真中が少し盛り上がっているようだ。浮輪に掴まりながら、観察する。輪郭の外輪に砂が巻き上がり、円形の物体は姿を現した。直径2mはあるだろうか、長い尾のような物が付いている。濃いブルーグレーに大きな白い斑点がランダムに散りばめられている。フワリと浮き上がった大きな円盤、それは巨大なマダラエイだった。防波堤で釣りをしていると夕方によく見かけるがこれ程巨大な物は珍しい。ゆっくりとグライダーのように海中を飛んで行った。皆、唖然として声が出ない。

 りな「すごいのいたね!エイやんねー!」まな「あれ獲りにいこ!」沙羅「絶対無理〜!こっちが死ぬって!」まな「美味しいの?エイヒレやし。」浮輪に掴まりながら、岸へと泳いだ。自然と休憩のタイミングになったようだ。   

 大物用の竿と仕掛けを準備する。タマン10号リール8000番、PEライン5号にハリスはフロロカーボン20号、大人二人で引っ張りあっても簡単には切れない強力なタックルだ。ビーチで一夜を過ごすなら打込み釣りは定番である。昼間に確認しておいた少し離れた岩と岩の隙間目掛けて投げる。多分、魚の通り道になっているはずだ。餌はとっておきのアウキャー(アオリイカの子供)、きっと何かが喰ってくるだろう。砂に突き刺したビニールパイプに竿尻を入れて糸を張った。ドラグを緩めて、アタリセンサーを付けた。魚が喰えば音と光で知らせてくれる。

 19時だがまだまだ明るい、南国の夜は遅い。バーベキューの準備を始める。今回はギャル二人の送別会を兼ねているので、特別に黒毛和牛のイチボのブロックを用意してきた。1kg位の塊にフォークで数カ所穴を空けて、ジップロックの中に海水やスパイスと一緒に一時間ほど入れて常温に戻してある。炭台の炭は斜めにセットし、火力の強いところと弱いところと肉を休ませるスペースを作った。まずは強火で肉汁を閉じ込める。弱火で万遍なく火が通るように数分おきに転がすこと20分。二重にしたアルミホイルに包み、熱の緩いところで20分寝かせる。余熱で真中まで火を通す感じだ。この間に野菜と沙羅が突いたオジサンを焼く。新鮮な魚は何も手を加えずに炭火で焼くのが以外と美味しい。りな「え、ウロコも内臓も取らへんの?」鱗がアルミホイルのような役割をして身が蒸し焼き状態になるのだ。弱火でゆっくりと焼き。焼けたら鱗と皮を剥がして食べる。内臓からも旨味が出る。意外だが釣ったばかりの癖の無い魚ならかなり美味しくなる。箸とナイフで鱗ごと皮を剥がして、白い身を取り分ける。塩コショウと島レモンをかけて皿に盛る。「えー、大丈夫なん?」とりなが心配していたが、箸を伸ばし一口食べると、「うっそー、美味ーい!」このやり方は、フレンチで有名なシェフがオーブンでやっていたのを真似ただけだ。

 肉がそろそろ頃合いだ。アルミホイルをめくると肉のドリップが出ている。肉を強火で焼き焦げ目を入れ、火のない網の上で休ませる。さっきのドリップを鍋に移し、醤油、みりん、バターを軽く煮詰めソースを作る。「まだ〜?まだ〜?」とまながうるさいまなを躱してようやく仕上がりだ。木のまな板の上で肉を一口大に切っていく。焼き加減は、ミディアムレアといったところだ。鍋でソースを黒胡椒をたっぷり振って、包み焼きにしたニンニクを添える。

沙羅「たっちゃん、凄すぎー!お嫁に欲しい!」りな「あんたがお嫁に行ったらええの!」まなが乾杯を忘れて、もう食べ始めている。今回は、沙羅が乾杯の音頭をとった。か「乾杯!」夕暮れのビーチで呑むビールは最高だ。太陽が海に沈むまで、あと30分位だろう。雲も一つ無い、こんなにクリアーな空は初めてかもしれない。

 まな「今日の空見てみ、雲全然無いからグリーンフラッシュするんちゃう?」りな「あんたしょっちゅう言うとるけど、一回も無いやん!」沙羅「めっちゃ見たい!見れたら願いが叶うとかあるの?」グリーンフラッシュの話で盛り上がっている。私も一眼レフカメラをバッグから取り出し広角レンズをセットした。ギャル達から「あのカメラを持って来て!」と要望があったが、今日はまだ一枚もシャッターを切っていない。陽が水平線に落ちかけている。もう間もなく着水しそうだ。パパラチアサファイアのような輝くオレンジ色があまりにも美しい。三脚をセットしリモコンでシャッターを切る。じわじわと半分まで沈んできた。りな「これ、マジであるかもしれんなぁ!あったら、沙羅あれやるでー!」沙羅「絶対無理ー!」まな「今やらな、もう絶対でけへんって!」りな「一緒にビーチすんのん、今日で最後やで、あんた付き合いや!」沙羅が抵抗しているので、何の話か聞いてみるが、まな「まだ内緒やねん!」と教えてもらえない。三人とも仲が良いから、何かちょっとした賭けでもしているのだろう。親父に割り込む余地は無さそうだ。もし、グリーンフラッシュが起こるなら何としても、ファインダーに捉えらたい。綺麗に撮影出来るチャンスは、滅多にないだろう。

 まもなく陽が沈みきりそうだ。まな「グリーンフラッシュ観たら幸せが訪れるって、ネットで出てたで。内地やったら観られへんから、島におるうちに絶対観たいねん!」何か並々ならぬ思いがあるようだ。あと僅かで沈みきるその時、太陽の真ん中あたりから白っぽくなり縁が黄色から黄緑、輝くブリリアントグリーンに変化していく。りな「うーわっ!来た来たー!マジ!」皆、固唾を飲んでスマホを構えている。慌てシャッターを切る。写真に奥行きを持たせたいのでシャッタースピードは遅めにしてある。風の影響が気になるが、多分上手く撮影出来ているだろう。間で短い動画も撮影した。もう、完全に沈みきりそうだ。「ほら、早よ行くで。」夢中でファインダーを覗き込んでいると後ろからりなの声がした。三人が海へ走って行く後ろ姿見えるが…。「えっ?嘘だろ?」裸のお尻が過っていく。妄想なのか、錯覚なのか、そんなことは…。りな「たっちゃん、今のうちに撮ってー!逆光のまんまでー!」まな「早くー!沈むー!うちらの間にグリーンフラッシュ入れてー!」三脚をつけたまま波打ち際へと走った。逆光でほとんど見えないが、左からりな、まな、沙羅の順に並んでいる。りなとまなが手を繋いで上に挙げて、間にグリーンフラッシュの太陽が見える。露出を変えずそのままシャッターを切る。りなとまなが向かいあって、グリーンフラッシュを挟む。沙羅とまなも同じようにポーズをとる。波打ち際に寝そべって、りなとまなの唇でグリーンフラッシュをキスで挟むように撮る。沙羅は単独でグリーンフラッシュにキスしている。人生で始めて味わうほどの高揚感、心臓が口から飛びでそうだ。無我夢中でシャッターを切った。時間にしと僅か数分のことだが、こんなに興奮して撮影したのは人生初めてだろう。

 りな「撮れたー!ちょっと見してー!」胸を腕で股間を手で隠しながら、三人が駆け寄って来た。暗くてほぼ見えないが、若くて美しい裸体がそこにある。露出を上げて撮るまたはフラッシュを焚くという手もあったが、自然光のままのほうが美しい。沙羅が「ちょっと、皆裸やから…。たっちゃん、ちょっと待ってて、後で見るから。」蒼い夕闇の中、沙羅の身体のシルエットが浮かんでいる。残念ながら、今日は細い新月、月明かりが無いことを少しだけ羨んだ。テントから離れた大岩の空洞から水音がする。「バシャー、あれ?お湯っなってる?」まなの声がする。ポリタンクで持って来た水をシャワー代わりに使っているようだ。

 待っている間にバーベキューの続きを準備する。振り返るとテント内で着替えをする彼女達のシルエットが影絵のように見える。「いかんいかん!」心に呟いて背を向ける。見たい欲求があるが、嫌われたら辛い。若い女性三人と同じ屋根の下で暮らすと小さなハプニングの多々発生する。細心の注意を払って丁度いいくらいだ。女性というのは、怖い位男性の視線に敏感だ。隠れてこっそり見たところで、簡単に察知されてしまう。好かれたいなら、邪知な冒険心は抑えておくほうが賢明だ。

「おまたせ~!たっちゃん、ありがとう!」沙羅が先に戻った。「さっきのん、これに飛ばせる?」りながタブレットを手に戻ってきた。まなは黒いタンクトップで最後に来た。沙羅「もうー、ブラしてよ!」まな「だって窮屈やん!」「あんた、まだ成長してんのんちゃう?」りなが後ろからまなの大きなメロンを持ち上げる。まな「成長ちゃうもん!ブラが洗濯で縮んだだけや!」まなの天然ぶりは笑いを呼ぶ。タンクトップに突起を浮かべたままバーベキュー台を囲んだ。りな「あんたー、狙ってんちゃうん?」まな「ちょっとだけや。」りな「もー、やめときやー。」何か意味ありげな会話に耳を傾けながら、ブルートゥースでりなのタブレットに画像を送る。あの短時間に100枚以上、シャッターを切っていた。数分の短い動画も何本かある。転送が完了するまで、暫くかかる。沙羅「グリーンフラッシュに乾杯!」皆が沙羅に続いた。本当に観れるとは思わなかった。グリーンフラッシュは、太陽光が空気中の大気や蒸気に反射して発生するプリズムのような現象らしく。観られる場所とタイミングを特定するのは非常に難しいらしい。まながネットで調べて、今から5年前にこのビーチから撮影したと思われる写真を見つけた。明確では無いが、写真と同じように海の左手に小さな島が見える。皆、初めての出来事に話が盛り上がる。ギャル二人は、早速スマホを片手にSNSに投稿を始めた。そろそろタブレットへの転送が終わりそうだ。

 皆がタブレットを覗きこんだ。沙羅「たっちゃんは駄目!」私「何で、だって撮影したの俺!」沙羅「色々、映ってたらやだ!」私「逆光だからほとんど見えてないよ!」沙羅「じゃ、一度全部見てから!」結局、三人が先に見ることになった。仕方ないので、打込み釣りの餌の交換に向かう。竿先が海へ向かって激しく上下している。センサーの電池が切れていたようだ。逆転するリールのスプールを押さえて後方へ思い切り合わせる。徐々にドラグを締めラインが出すぎないように調整する。ポンピングすれば、割と素直に寄ってくる。ラインを100mほど出されているから、大物ではないけど寄せるのに時間がかかる。慌てずにいこうと自分に言い聞かせる。波打ち際に姿を見せたのは、タマン(ハマフエフキ)だ。打込み釣りではメジャーな魚で、青い顔の模様が美しい。50cm2kg位あるかもしれない。打込み釣りでは、小さいほうだが、食べるならこの位までが美味しい。浜に上げ、餌を付け替えて沖へと投げる。「たっちゃん?」暗闇に人影が見える。沙羅が心配して探しに来たようだ。「ほら!」と鰓に手をかけた魚を持ち上げる。沙羅「何?大きいね!」私「タマン!」まだ、息があるうちに魚を〆る。脳を錐状の締め具で突いて即死させる。じわじわと死んでいくと、毛細血管に血が行き生臭くなる。頭に近いほうから二枚目の鰓を切る。動脈が通っているからピューと血が出る。波打ち際に行き海水に浸けて尻尾を持って暫く揺すると血が抜けていく。最後に神経〆のワイヤーを脳を締めた穴から脊髄に通して数回上下して「神経〆」の仕上がりだ。慣れるまで、失敗することが多いが慣れたら簡単だ。ビニール袋に入れてクーラーで冷やしておく。明日、鱗と内臓を処理して水分を拭いてキッチンペーパーとラップで包んでおけば一週間程度は刺身で美味しく食べられる。詳しくは解らないが神経〆をすれば、腐敗物資の伝達を遅らせて、旨味成分ATPアミノ酸を増やすことが出来るのだ。魚の処理を見に来た三人に説明しながら、作業を終えた。りな「たっちゃん、釣りプロ級ちゃう?」いやいや、打込み釣りは大物狙いな分、ボーズの時も多いのだ。今日は、たまたま条件が良かっただけだよと皆に話した。

 釣りもいいが写真のほうが気になる。「見てもいい?」撮った私が許可を貰わないとならないのもおかしな話だが、内容が内容だけに仕方ない。ファイルをクリックして開く。「おおー!」グリーンフラッシュが美しい。左から沙羅が覗きこんできた。躑躅(つつじ)のような甘い香りがする。髪が左の頬に触れそうだ。写真を順にめくっていく。思ったより露出アンダーに撮っていたようで、三人の裸体はほぼシルエットの状態で映っている。ホッとするような、ちょっと残念なような、何とも言えない気持ちだ。沙羅の横向きのシルエットの写真を見ようとすると「これは駄目ー!」恥ずかしがって手で覆う。見ていたまなが後ろから沙羅の脇をくすぐった。「きゃー、やーめーてー!」笑い叫ぶ沙羅を攻撃中だ。タブレットを取り上げて見る。乳輪と小さな乳首の形がわかる。まなほど大きくはないが、御椀型の美しいフォルムだ。「こーふんしてんちゃうん?」右肩に手をかけられた。りなが顔の右側からタブレットを覗き込む。皆で並んで見るようになった。りな「シルエットだけでも誰かすぐわかんなぁ。これとか…。」「もう、やめてよー!」と沙羅が手で隠そうとするが、まなに両手を回収される。まな「沙羅、綺麗からえーやん!」「並んでも、ほら一番脚長いし、くびれてるし!」りな「ほんま、羨ましいわ!」何でこういう写真を撮りたかったのか、理由を聞いてみた。ずっと前にりなの母親から、有名カメラマンが知り合いにいるから、「若いうちにヌードを撮っておいたらどう?」という話があったそうだ。りなの母親は雑誌モデル経験があり、若い頃今は有名になっているそのカメラマンからヌード写真を撮らせて欲しいと話があったが、恥ずかしがって断ってしまったらしい。今でも「あの頃のママは綺麗だったの!ほんと撮って貰ったら良かった!」とよくぼやいているらしい。

 まな「沙羅、あんた絶対ヌード撮っておきやー、ほんまもったいないで。」「たっちゃん、撮ってあげたらえーやん!」ちょっと待て、話がヤバい流れになって来てるぞ!まだ、ビール2本程度だ。誰も酔っていないはず?りな「これ開けよ!ほらグラスも持って来たで!」氷と海水でバケツにドブ漬けにされたボトルを取り出した。お客に餞別に貰ったというワインボトルは、ドン・ペリニヨン1995VT奇跡のヴィンテージと呼ばれ最高傑作と称されるミレジムシャンパーニュだ。「えー?これ貰ったの?」りな「まなも貰ったよ!」まな「ほれ!」とクーラーからテーブルに出してきたワイン、誰もが知るカリフォルニアワイン「OPUS ONE 2018」白地に男性二人が背中合わせの青いシルエットのラベルが有名だ。同じお客様から貰ったワインらしいが、どんな金持ち何だろう?「え、いいの?家宝物だよ!」りな「持って帰んの重いし、送るの面倒いし。」気軽にポンと栓を抜いている。小振りのワイングラスに半分ほど注いで、「じゃ、沙羅のヌードに乾杯!」りなが音頭を取った。沙羅「もー、やめてよね!」かなり照れているが、皆から綺麗と言われまんざらでもないようだ。三十年近く熟成したシャンパーニュはトロリとして、ブリオッシュや杏、白い果実の複雑な味わいが絶妙だ。彼女達は値段も価値も気にしていないが、とんでもない代物である。

 沙羅が後に置いてた三線を膝に抱えた。軽くチューニングして、弾き語りを始める。イントロが流れると皆が沙羅に注目する。彼女なりの曲順があるようで、最初はゆっくりとした島の民謡から入っていく。島の方言なので言葉はわからないが、どういう内容を唄っているのかは何となくわかる。島に伝わる恋歌なのだろう。女性が苦労する内容が多めだ。昔からこの島は男尊女卑が強い。未だにそういう風習が残っているのが感じられる。

 喉が開いてきたのか沙羅の声が段々と伸びやかで深みを増してくる。小学校から休みで帰省する度にオバアから習ったという三線と島唄、素人なりにスゴい腕前だ。民謡居酒屋の店主ならほってはおかないだろう。三曲ほど唄った後に店で演って欲しいと言われないかと聞くと、宿の一階の小料理碧からも頼まれるらしい。残念ながら知らない人の前で演るのは、緊張して上手く出来ないから、仲の良い人の前でしか演らないらしい。琉球独自というか奄美民謡の歌い手のような少し鼻にかけるような独自の発声に惹き込まれていく。声質と歌い方が、昔ヒットした奄美のシンガーソングライター元ちとせと似ている。もう、二十年ほど前だから彼女は知らないだろう。

 最後にビギンの名曲「三線の花」で締めくくった。手拍子にかけ声で聞いていた三人の拍手が誰もいないビーチに響き渡る。りな「何かめっちゃ感動したわ。ほんま、ありがとう!」沙羅の肩に手を置いた。わいわいと居酒屋の三線ライブを聴くのも楽しいが、夜のビーチで波音と潮風を感じながら聴くのはもっと深く楽しい。ギターではない、やはり三線が似合うのだ。

 まながりなの耳元に口を近づけた。りなが「それええやん!」今度はりながまなの耳元に口を近づけた。まな「それ、決まりな!」

りな「今から肝試しせーへん?」沙羅「絶対やだ!一人とか無理ー!」真剣に嫌がっている。「じゃ、二人やったらえーやろ!」まなが割り箸にバツを書き始めた。沙羅「えー、やだー!」紙コップにマークを付けた竹の割り箸を入れた。軽く混ぜる。「せーの!で取るで。」全員が箸を持った。「せーの!」沙羅「もー、私やん!」私「あ、俺も!」マークが付いていたのは沙羅と私だ。ハズレを引いた二人が箸を戻した。続いてギャル二人が箸を戻す。りな「二人で行って着いたら、ラインのビデオ通話してな。」まだ、嫌がっている沙羅を誘って建設中で放置されている白亜のホテルへと向かう。「もー、絶対怖いー!」「これなら、怖くないよ!」左側を歩く沙羅の手を握った。「あっ、ありがとう。」このまま夜の砂浜をずっと二人で歩いていたい。そんな気持ちに駆られるが、歩いて5分足らずでホテルへと着いた。ラインをビデオ通話にしてりなへかける。りな「ほら、後に何か!」「きゃー、いやー!」沙羅が怖がって抱きついてきた!柔らかい胸の感触に恐怖も吹き飛ぶ。りな「いや、大っきい虫が飛んでた!」画面越しに怖がる沙羅を大笑いしている二人。「もーやめてよー!マジ怖いんやからー!」まだ、私に抱きついたままだ。まな「録画しといたでー、わはは。」「もー、ひどーい!」沙羅が怒っている。りな「ほら、お似合いやん!」沙羅が私を見て、抱きついた腕を解いた。照れて俯いているのが、あまりにも可愛い。「じゃ、帰ろうか?俺も怖いし。」沙羅が頷き、俯きながら砂浜を歩き始めた。左手が何かに触れた。少し温かい沙羅の右手、遠慮がちに握っている。握り返すと少し強くなった。

 バーベキュー台の椅子に腰掛けた。沙羅が「さっきの消してよー!」りな「やだもーん!」りなのスマホを奪おうとして、追っかけっこが始まった。りな「やめや、やめや、呑んで走ったら酔いがまわるわ。」沙羅にスマホを手渡した。「あれ、どこ?」動画は撮れて無かったらしい。

 わいわいと女子会話とゲームにに盛り上がりながら、OPUS ONEも空になった。まな「そろそろ寝よか。朝早いし?」てっきり、またテキーラか泡盛にいくのだと思っていたので、意外だった。「ちょっと、待ってね。」沙羅が先にテントに入った。着替えているようだ。テント内の灯りで後ろ姿のシルエットが浮かぶ。「おまたせ~。」テントから顔だけ出して呼ばれた。外のLEDランタンの灯を一つだけにして、テントに入った。「消すよ。」テント内は真っ暗だ。沙羅の顔の向きもわからない。並んで寝ているだけなのにドキドキする。「たっちゃん、お話しよ。何だかまだ眠れないし。」沙羅と一緒に過ごせる日々も残り十日を切っていることを思い出した。「私、綺麗なのかな?りなもまなも褒めてくれるけど、あの二人のほうがずっといいと思うけど。」「沙羅は綺麗だよ。まるで島の海みたいに透明で澄んでる。」暗闇に目が慣れて、うっすらと沙羅の顔が浮かぶ。「今日の写真、誰にも見せちゃダメ。」「あんなのもう撮れないから、コンクールに出品しようかと思ってる。」「やだ、恥ずかしいもん。絶対ダメ!」「シルエットしかわからないから、誰かわかんないよ。」今日一日を振り返るように静かな会話が流れていく。目が慣れて暗闇に浮かぶ沙羅の顔が見える。いつの間にやらこちらを向いた沙羅が寝息をたてている。見つめながら「可愛いなぁ。」心で呟いた。


八月二十一日

  「リーンリーン、カンカンカン、リーンリーンリーン。」外から大きな音が聞こえ、ぼーっと見つめていた沙羅の大きな目が開いた。「もー、なーにー?」起き上がる沙羅、白いTシャツの胸に大豆大の二つのポッチがわかる。「きゃっ、見た?」私を見つめる。「ごめーん!」「たっちゃん、エッチー!」沙羅がケタケタと笑っている。慌てる私が面白かったようだ。「起きたー?」まなの声がする。沙羅が着替えるので、テントの外に出た。「どーしたの?まだ、夜明け前だよ!」りな「早よからお越してごめんな。したいことあんねん。」着替えた沙羅が出てきた。まな「寝れた?」沙羅「うん、たっちゃんと話してたら途中で寝てた。」まな「あんたらしてたん?途中まで?」りな「何言うてんの、そらないやろ!」沙羅「話してたの!何もないから!」まなの天然ぶりが朝から炸裂している。

私「それで、朝から何すんの?」りな「あのなぁ、写真撮って欲しいねん。」私「あ、全然いいよ!予備バッテリーあったかな?」りな「ちょっと準備するわぁ。」沙羅がきょとんとしながらテントに入っていった。予備バッテリーがあった、充電も出来ている。数分後、ビキニのギャル二人が出てきた。沙羅のテントに入って何か打合せをしているようだ。二人はビキニだが、沙羅はTシャツのままだ。私「沙羅は入んないの?」沙羅「今回は助手なの。」レフ板の代わりだろうか白い大きな紙を丸めて持っている。とりあえず即席カメラマンになろう。昨日とは反対に海に向けて陽が射してくる。海をバックに二人を撮ると順光になり、美しい海も映える。沙羅のレフ板の位置を指示し、瞳に光を入れる。素晴らしい離島のビーチにビキニ美女が二人、撮影が楽しくないわけがない。沙羅が二人の後にまわり、二人が左腕でバストを押さえた。ハラっとビキニの紐が落ちる。まな「たっちゃん、撮って!」ビックリしてシャッターを切るのを忘れて見ていた。ファインダーを覗き直すと二人はバストの腕を離した。「えっ、嘘だろ?」錯覚かと思いカメラから目を離して、直接見た。本当だ、四つのバストが揺れている。ブラウン色に灼けた肌に真っ白なビキニの跡が、まるで白いビキニを着ているように見える。まなは小振りのメロンほどある乳房にピンクがかったベージュ色の乳輪、ツンと上を向いた小指ほどの乳首が乗っている。巨乳だが引力に逆らって垂れてはいない。りなはすっぽりと掌に収まるほどのサイズだがスリムな体型と合っている。薄い紅色の乳輪に小さな乳首が可愛らしい。見惚れていると、下も脱いでしまったらしい。沙羅が二人のビキニを持っている。りな「人が来たらヤバいから、早よ撮って!」自然にゆっくり動くようにポージングを指示しながらシャッターを切っていく。向かい合わせたり、水を掛け合いさせたり、自然な表情を捉えるには、敢えて合図をしない。話しながら褒めながら、撮影する。少しずつ波打ち際に誘導する。二人の陰部が露出する。処理をしているのか、縦長に3cmほどしかなく毛も短い。クレバスが覗く。下からバストを見上げるように撮りたいが、どうしよう?「寝そべって下から撮ってもいい?」まな「もー、聞かんといてー!恥ずかしなるやん!」りな「うちら覚悟できとるから、たっちゃんの好きなように撮って。」それじゃ、遠慮なく撮ろう。あくまで官能的だがフレッシュで美しいヌードを。

 二人をV型に立たせて下からシャッターを切る。甘く赤い果実を思わせる性器が薄く口を開けている。りなとまなに軽いキスをさせる。波打ち際に寝そべらせて、色々とポージングをしてもらう。ビキニを使った写真も撮りたかったので、再度着てもらい、ゆっくり露出していくように撮影して終了だ。りな「沙羅、ありがとうね!」テンションが上がっているのか、駆け寄って肩を抱き唇に軽くキスをした。「もー、やめてよー!」沙羅が照れて俯く。りな「私、沙羅やったらイケるかもしれへん。」まな「男日照りの次は、ジェンダーかいな?」りな「あんたは飽きたしな。」まな「やー、捨てんといてー。」まだ、裸なのを忘れてふざけ合っているのが面白い。まな「あんたも撮ってもらい!」沙羅のTシャツを後から脱がそうとしている。沙羅が逃げて裸のまながメロンを大きく揺らしながら追いかけている。りなが「たっちゃん、テント張ってるで!」こんなのは、久しぶりだが、さすがに恥ずかしい。りな「うちらのせいやんなぁ。うちで良かったら後でしようか?」私「いや、大丈夫。」りな「無理せんでええから!手でやで。」いたずらな目をしたりなに思わず負けてしまいそうだ。二人が息を切らせて戻ってきた。

 遠くから車のエンジン音が聞こえる。何人かの声が聞こえてきた。「ヤバっ。」裸の二人が慌ててテントに飛び込んだ。陽が高くなってきた。日陰があるとはいえ、南国の真夏の日差しは半端ない。

 まながせがむので、帰りにマクドナルドに寄ることにした。十年ほど前に出来たのだが、オープンから暫くは車の列が絶えず連日渋滞が出来たらしい。島では初めてのドライブスルー店でもある。そう言えば、マクドナルドのメニューだけを数ヶ月食べ続けると身体を壊して入院するという、とんでもない映画があったが、企業からすれば迷惑甚だしい。ジャンクフード=身体に悪いといイメージが強いが、何ヶ月も同じようなメニューだけを食べ続ければ、大抵のものは身体に悪いだろう。批判されたダメージから商品をレベルアップし、CMに超人気俳優を使うことで見事に復活した。中々、大変なことだったと思う。

 そんなことは露にも知らない娘三人は、朝からバーガーを頬張っている。数分前まで、ギャル二人のヌードを撮影していたのが、不思議過ぎて妄想に思えてくる。プロのカメラマンでもないこんな親父が、若い女性に頼まれてビーチでヌード撮影など、夢か奇跡でも起こらない限りあり得ないだろう。二人を見れば、さっきまでの裸体が目に浮かんでしまう。盛り上がる三人に一人で照れて無口になる親父、朝のマクドナルドには似つかわしくない。

 宿に帰り後片付けを始める。もう、お昼過ぎだ。まなが手伝いに降りてきた。まな「たっちゃん、あの時元気になってたやん?」おいおい、その話はやめてくれ。「私、後でしてあげるから…。挟んだりも出来るで。」二人して親父に気を遣ってくれるのは、とても有難いのだが、それは流石にヤバい。「明後日には、島を出るし大丈夫なんじゃないか?」甘い誘惑に流されそうになるが、辛うじて決壊を止めた。正面きって断るのも申し訳ないので、礼だけ言って違う話に流れを変える。

 二階のリビングに上がるとエプロンを付けて調理をする沙羅の後ろ姿があった。りなが食器と料理を運び、四人揃っての昼食が始まる。沙羅が作る料理は野菜が多い。小料理碧のお客さんや知り合いが、沢山持って来てくれるらしい。殆どが所謂「B品」で規格外の為、JAやスーパーに卸せない野菜達だ。ちょっと形が悪かったり、色が悪かったり、食べる分には遜色ないというのに、殆どが廃棄されてしまう。カフェをオープンしたら、こういう可哀想な野菜達と向き合っていきたい。手間はかかるが、安くて新鮮でちゃんと美味しい。

 沙羅特製の出汁を使ったゴーヤチャンプルー、お浸し、胡麻和えと料理が並んでいく。幼少期から手伝っているとはいえ、これ程料理上手な女子大生は中々いないだろう。

「うっまー!沙羅めし最高やん!」口いっぱいに頬張ったまなが、感嘆の声を上げる。りな「口入れてしゃべりなや、汚いやろー!」また始まった。二人の掛け合いがまるで漫才だ。ボケはまな、ツッコミはりな、役割分担は変わらない。サラが茶碗を片手に笑い過ぎて、箸を持った右手で涙を拭う。

「コーヒー飲む?私、淹れるわー。」コーヒーには拘りの強いりなが、返事を聞くまでもなく豆を引き始めた。まな「なー、あれ見よ!撮ったヤツ。」二階の部屋からカメラとSDカードを取ってきた。テーブルにコーヒーが置かれた。今日は、グァテマラとキリマンジャロのブレンドらしい。香ばしい香りがリビングを包む。

 SDを入れ替える。沙羅「たっちゃん観た?」いや、まだ観ていない。何故か、心配そうだ。グリーンフラッシュの場面からスタートする。自動再生の途中、ビキニ姿が映った時、沙羅が一時停止を押した。まな「ちょっとー、停めんとって!」沙羅「だって、恥ずかしいもん!」りなが沙羅の後に回って軽く抱いた。「あんためちゃ綺麗やから、ちゃんと見てみ。」まなが再生を押す。我ながら上手く撮れている。裸体のシルエットを撮ったのは初めてだったが、逆光と夕闇が手伝って、露出アンダー気味に撮れたのが良かった。濃いブルーグレーのシルエットによく目を凝らすと何となくだが、パーツが薄っすらと見てとれる。沙羅「やっぱり見えてるってー!」まな「ほとんどわからへんやん!」リモコンを離さない。一通り観終わってカードを入れ替える。沙羅「ちょっと、これ観るの?」りな「いっとこ!でも、大画面はちょっとやなー!」結局、私が外れて三人で観ることになった。カメラマンは、私なのだが仕方ない。コーヒーを片手にトボトボと三階の部屋へと上がった。スマホを片手に暇を潰していると「コンコン。」ノックされた。ドアを開けると「たっちゃんも来て。」まなが右腕を持った。「調子に乗って、露骨に撮り過ぎたか?怒っていたらどうしよう?」嫌な予感が走る。

 リビングに降りると「たっちゃんも座って、コーヒーおかわりする?」りながたっぷりの笑顔で聞く。再生が始まった。胸の鼓動が早くなる。予想したより海が美しい。美しい海に浮かぶ褐色の肌と白いビキニの跡、何と言えばいいか言葉に収まりきらない。官能的だが、フレッシュで美しい。自分が撮った写真だが、暫く感動していた。三人から拍手が沸き起こる。まな「たっちゃん、すごーい!ほんまプロのカメラマンや!また撮って欲しいわー。」沙羅「エッチなのかなー?思ってたけど、景色と溶け込んで綺麗ー!」数分間は、まるでアカデミー賞を受賞したような気分だ。ヌード撮影が入っているほうのカードを渡そうとすると、りな「コピーでええよ。持ってて欲しいし。うちらからの餞別や。」まな「大丈夫、信頼してるから。」小さなカードは、一生の宝物になった。

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