6.ビックサム、クレイジーチェペルにて

「はいはーい、お前らー噂の転校生が来たぞ。騒ぐな。シバくぞ」


「こほん、先生……教会の中です。汚いお言葉は控えてください」


「あぁ……神なら二日酔いで聞いちゃいねえよ。お前も昨日あんなに飲んでよ……グエ!」


「草薙先生……主の前です。控えてください」


 教室でなく教会に呼ばれた俺と庵は、修道士長のシスターと御園さんの漫才を見て、呆れていたとしていた所にリリアンが珍しそうに近寄ってきた。


「なんだよ、今日の礼拝は、お前らか。転校初日から運がいいのか悪いのか」


聖ロザリア叡智学院は、宗教系の学校だからか、朝礼の他に礼拝の時間が朝はある。ただ教会に全校生徒が入るわけなく、基本は教室での放送礼拝であるが、日ごとにクラスごと教会での礼拝があり、俺たちの転校日に入るクラスがたまたま教会礼拝の日だったらしい。

おかげで協会の暗幕裏で転校生紹介まで待機をすることになり、椅子に座って待てるのだが。


「あ、リリアンさんおはようございます」


「よ、ぱっちゃん。ごきげんよう」


「もう……だから、ぱっちゃんは、やめてください」


庵は、サイコパスという謎の烙印をリリアンに押されあだ名がサイコパスからとってなぜか、ぱっちゃんと呼ばれている。

それならまだかわいいあだ名なのだが……。


「よ、リリアン」


「よう、変態。まだ生きていたんか。まだあの世から迎えに来てもらえていなかったのかよ」


「おい、変態じゃない。完全芸術態だ。間違えるなよ、ダボカス、神が見てるぞ」


「あぁ! 主は今頃、お薬トリップしてるからノーカンじゃボケ」


俺とリリアンは、歓迎会の一件で性格が合わないことが発覚、お互いに目を合わせればにらみ合いからの喧嘩にすらなりかねない一触即発の事態であった。


「もう! 二人とも喧嘩しないでください!」


そんな俺とリリアンとのけんかを止めに入ってくれる庵。黒よりの紺色ブレザーに赤いリボンの制服が、まるで花の様に美しい。俺は思わず、庵の手を取ってその場に膝をつく。


「素敵だ。やはりそなたは美しい」


「……パロに借りた言葉で私が靡くと思いましたか。ハン!」


「そこまたいい!」


ああ、やはり他の女性とは、違う雰囲気を持つ庵が良い。

そのゴミを見るような目、俺の見た目ではなく中を見ての発言。


「おい、按摩君、花園君。いい加減呼ばれたんだから、乳繰り合ってないでこっちへ来い、とっとと礼拝を終わらせて私は、研究に戻りたいんだ」


「……草薙先生、発言をもっと考えてください」


修道士長と草薙先生の漫才は、とっくに終わり俺たちは、これからクラスになる仲間たちの前に呼ばれていた。俺は、慌てて大きなマスクで口を隠す。


「あん、何今頃マスクなんてして、意味なんてねえだろうに」


「そうですよ。別に醜くはないんですから、隠すのは外見でなく中身にしてください。……あ、でも服は脱がないでくださいね」


「うっさいな……」


俺にも顔を隠す理由ぐらいある。

しかしあんまり長く暗幕に隠れていると御園さんに怒られそうなので、俺と庵は、按摩蔵から出てクラスの前に出ていく。


「え……やば、女の子かわいい」


「てか、マスク男子も結構良くない」


庵の容姿をみて少しざわつく、気分がいいぞ。そんないい気分は、庵にも伝わったのか、満面の笑みで自己紹介をする。


「え、えと、花園庵です。み、皆さんとは仲良くなりたい……です」


「「うおぉぉぉ!」」


「男子うっさ……まあ、確かにかわいいけどさ……」


男子は咆哮し、女子はうるさそうに男子を睨む。それを見て、庵は不安そうに手を挙げて答える。


「あ、あはは……よろしくです。……乱馬さん、いいんですか? 貴女こういうところでは騒がれたい人間なのにマスクで顔を隠すなんて……」


ボソッと俺に声をかける庵であるが、俺の中でこれは想定範囲内であった。

むしろ僥倖である。


「あーうるさいぞ。次の奴も紹介すっから少しは黙ってろー」


御園さんが、生徒たちを静かにしてくれると途端に全員が静かになる。さすが進学校、生徒の教育は、一級品であった。

そして、俺の自己紹介、俺は、マスクに手をかけ、少し大げさにマスクを投げ捨てる。


「按摩乱馬です。やあ、みんなとのこれからの学園生活が楽しみだ。よろしくね」


「うげ……」


庵は、俺をゴミのように見るが、周りの生徒は、違った。

おおよそ、俺の容姿が美しすぎて脳みそがバグり処理落ちをしているのだろう。

一瞬の静寂の後、空を穿つような女性の歓声が響きだす。


「きゃあああああああああ!」


「え、うそまじ? アイドル? 見たことないけど神過ぎる」


「やばっどうしよう、あうう……」


あまりの歓声に、御園先生が止めようと大声を出すが、その声は、黄色い歓声でかき消されてしまうのである。


「えぇ……乱馬さんのどこが良いんでしょうか……」


「嫉妬したか? してくれたか?」


全ては、庵を嫉妬させるために行った完璧な作戦。ニンフ寮は、変人しかいないからか、久しぶりの一般人からの歓声はやはり気持ちが良い。


「どうしよう! れ、連絡先!」


「ちょ抜け駆けは!」


「お前ら! マジで静かにしないと私が起こられる!」


やまぬ騒ぎの中、修道士長が、頭をかかえて俺によって来る。


「はぁ……すみません。まだやはり皆、まだまだ未熟な子どもで申し訳ございません」


「いえ、そんな。俺も悪いんですよ。そんな顔をあげてください」


「そうです、芝居っぽい自己紹介をした乱馬さんが全体的に悪いので」


「そ、その……」


修道士長は、申し訳なさそうに顔をあげず、手からスマフォを取り出すと俺の方に突き出してきた。


「そ、その! わ、私と連絡先を交換しましょう! その、新しい学校生活で困ることも多いかと思いますので! 何かあったら手助けさせてください!」


「お、お前もか! 修道士長!」


庵のツッコミを聞いてか、生徒たちは、一瞬押し黙ると修道士長に抗議を始める。


「あ! 抜け駆け! 生徒と良いの! 修道士長! 神様も見てるんじゃないの!」


「う、うるさいです! 主は、乱交キメセクパーティーで不在だからセーフです!」


「主はDTじゃないんですか!」


「主は、もうそりゃヤりまくり、産みまくりだからセーフです!」


始まる混沌。

ポカンと俺と庵は、その場に立ちボーっとその混とんを見守る。


「これ、流石に乱馬さんのせいですよ」


「ああ、イケメンは罪だな……」


こうして、本日の礼拝は中止、後にこの事件は、血の月曜日と呼ばれるようになったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る