18.ビックサム、肉食獣を見る

「なぜ渋谷集合なんだ……。普通に寮から集合していけばいいのに」


渋谷ハチ公前、天気、晴天。

俺は、集合より早めに準備し庵たちを待つのだが、人の多い所で服を着て誰かを待つのは苦手であった。


「あの……すみません。どちらかの事務所に所属などはしていますか?」


ほら来た。

小綺麗なスーツに真面目そうな見た目の男性。俗言うスカウトマンだ。


「あ、してないですが、興味もないです」


「いや本当! 話だけでも! ね! 奢るから!」


しつこいし、声がでかいスカウトマンだ。新人か。

昔からスカウトマンにはよく声をかけられる。蘭華と居れば、恋人同士と勘違いしてあまり話しかけられないのだが、一人だとご覧の通り、ほぼ百パーセントの確率で声をかけられる。


「だから興味ないです。あまりしつこいと警察呼びますよ」


「……そのすみませんでした」


スカウトマンの男はとぼとぼと歩いて行ってしまうのだが、ここからが問題だ。


「ねえ、あの人マジでカッコ良くない?」


「ちょ、私話しかけようかしら」


俺を見た目だけで見る人間たち。俺の趣味を知ったらドン引きする人種が俺を注目す

る。

気分が悪い。

俺を顔のいい愛玩動物か偶像人形の様に見るその目には、俺の心までは見ていなかった。


「あの、すみません。お茶とかもしよければ……」


「だからそういうのは結構です」


そしてついに来た逆ナン女。

正直、かなり顔に自信があるのだろう、ヤケに顔が近い。どうせ彼氏がいるのに俺を見つけて浮気をするつもりなのだろう最低だ。


「あの、別にお茶だけじゃなくてもいいんですよ。私、正直キミを性的な目で見ているし」


「……ッ!」


最悪だ。

何も相手のことを考えない発言。自分がすべて正しいと信じてやまない、疑いもしない。

その発言をして、俺が女性関係にトラウマを感じていたらどうするつもりなんだ。

もし俺が、人間不信だったらどうするつもりなんだ。

何も考えていないその無神経な考えに俺は怒りを感じた。


「ねえ、ちょっとは話してよ。おにいさん」


口元まで暴言が出そうなる。

その瞬間であった。すべての負の感情を祓う光のような声が聞こえた。


「あの、人の彼氏になにをしているのですか?」


つばの広い赤いカチューシャで前髪を上げ、黒いワンピースを着た庵が、俺に酔った女を睨む。普段のどこか小動物的な可愛さはなく、表情は強い意志と怒りのような表情を奥に隠した笑顔で、迫力がすさまじい。


「なに? 貴女がこの人の彼氏? ちょ、身の丈考えろし」


「そうですか、ではこの人の生殖器のホクロから生えてる毛の長さも知らない女がよ

く言いますね。ご自分こそ身の丈を考えたらいかがでしょう……行きますよ。乱馬さ

ん」


「な、ちょ! い、庵さん!」


「ま、まってって」


「ああ……住所特定して家族もろとも殺すぞ……」


肩を触られた庵は、怒りからか、本気で怒り、女をけん制し、女も日和ってしまった。

そして俺は、庵に手を引かれ、女から放される。

俺は、少し怒っているであろう庵に恐怖以上に頼もしさや、優しさを感じたのであった。

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