15.ブラコンシスター、【自主規制】

「ふーははは! 来たな諸君、これより、公開恥辱ショーをはじめる」


「おにい! 何をやってるの!」


 おにいは、ブラインドのかかったマジックミラー号のような車の上に全裸ダブルバイセップス・フロントを決めていた。


「ふはははは、これから始めるのは、変態ショーだ。わが妹、蘭華よ。恥ずかしくなったら目をらしてもいいからな! オープン!」


「変態てめえ!」


「あー、イツカヤルトオモッテマシター」


リリアンさんはいつも通りでしたが、庵さんはどこかあきらめたように目を逸らしていた。

それもそのはず、ブラインドをあげると、そこには、かなりきわどいボンテージを着て、天井からぶら下がる刹那さんと、蘭華たちのお父さん達であるビリーさんとミリガンさんが鞭や蝋燭をもって立っていた。


「ラン! よくもぉぉぉぉぉぉぉ!」


「良二さん、相変わらず発想が素直すぎます。カメラと一緒で、作戦ももっと捻らないと」


良二さんが怒っておにいに突っ込んでいくが、おにいは、余裕そうに指パッチンをすると物陰からお昼にあったおにいに寒珍摩擦を食らった半グレが全裸に蝶ネクタイの姿で良二さんを抑え込んだ。


「はなせ! 僕は、僕は、刹那を助けないといけないんだ!」


「わりいけど、こっちも兄貴の命令でな。暴力は降らねえから安心しな」


おにい……相も変わらず謎の求心力があるな。

おそらく、昼にあった半グレは、おにいに負けてそのまま子分になったのだろう。

昔よく見た光景であった。


「良くやった篠宮さん!」


「兄貴、俺のことは、澪って下の名前で呼んでくれよ」


半グレのフルネーム篠宮澪って可愛すぎないですか! 見た目とのギャップがすごい!

そんなことを考えているとおにいは指パッチンをまたした瞬間、ビリーさんが鞭をミリガンさんがSM用の蝋を刹那さんのあらわになった尻に落とす。


「ひゃいん! 痛い! 熱い! 気持ちい!」


「ああ、刹那!」


繰り返し振り下ろされる鞭に垂らされる蝋燭の蝋に刹那さんは、悦に浸る。

そして、目の前で取り押さえられる良二さんは、悲痛な叫びをする。


「もう我慢できない! 行くぞ庵! このままじゃ刹那が凌辱されちまう」


「えー、いや、ただの性癖公開なのでは……」


「ふはは! 無駄だ! 頼みましたよ! 澪の舎弟さん達!」


おにいが号令をすると草陰から逆バニー服を着た筋骨隆々の雄と言える男たちが蘭華たちを囲むとサイドチェストを見せつける。


「ふははは、珍技結界男根サイドチェスト!」


「ぎゃああ醜い! 気持ち悪い!」


リリアンさんは、あまりの醜さにその場にうずくまってしまう。

男根サイドチェスト、複数人で行う協力珍技、己の肉体を鍛えし者が多いほど囲まれた人間は、戦意を多くそがれる技である。


「ふはは、流石は、乱馬、俺たちの一番弟子」


「だな相棒、こっちも仕事の続きだ」


ビリーさんは、鞭で刹那さんの尻を全力で叩き、ミリガンさんは、鞭の跡に蝋をさらに垂らす。


「ぎゃん! 痛い所に熱いが! ちょ! やば、いきそう!」


「待ってよ! やめてくれ蘭!」


すがるように懇願するよう良二さんであるが、おにいはやめない。


「ふはは、そろそろか! 澪、チェックだ!」


「分かりました! わりいけど兄ちゃん、ちょっと失礼な」


「あ、おま! やめ、俺にそんな趣味は!」


ボス半グレ澪さんは、良二さんの股間をまさぐる……はかど……いえ、なんとも屈辱的なシーンに澪さんは、おにいに報告をする。


「兄貴! コイツのクララ、立ちましたよ!」


「良くやった。澪、お前には、伝説のプロテイン『禁断』を贈呈する。いやな役回り、大儀である」


「あざいます!」


最低だ。

おにい、妹前でなんていう下ネタを……。流石の良二さんもこれは耐えられない。


「お、俺は、盗撮じゃないと勃つ訳……!」


「ひゃん! 私のあられもない姿で! ひゃん! 良二が! 痛気持ちい! クララしているなんて!」


「HAHAHA、現役モデルがヒロインなんてありきたりな設定、モウ受けないよ!」


「そうだなブラザー、やはり今の時代、バディものがはやるんだ! この旧世代の遺物メ!」


「ひゃん! もっと罵って!」


お、おにい……あなたはいったい何をしたいんですか?


「良二さん! 良いんですか? 現実の女性でクララが勃っているというのに! 何も言わないで! 言えばやめてやる!」


「お、俺は……俺は……画面越しの刹那が好きだった」


「だった……? 父さん。頼みます」


おにいの一言でビリーさん達がとんでもないことを言い出す。


「任せろ! この【自主規制】女! 男がおったてて、地球を【自主規制】しないで告白してるんだ! 【自主規制】女もとっとと告白して公衆の面前で【自主規制】して【自主規制】したらどうだ」


「この【自主規制】【自主規制】【自主規制】【自主規制】だぞ!」


ああ、自主規制の嵐。

おにいがやりたいことは、大体わかったが、この自主規制天国だけは、どうにかならないものなのだろうか。流石にロマンもクソもない。


「ひゃい! わ、私は……ひゃん、りょ、良二がしゅきなの……しゅきだから、人前で、公然の場で【自主規制】をしたいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


最低な告白だった。

だが、おにいのやりたいことは、こういうことだ。


「俺だって、俺だって画面越しじゃなくて、リアルな刹那を【自主規制】しながら【自主規制】がしたい! けどまずは……まずは、で、デートから!」


「は、はい! 私と付き合ってください!」


「もちろんです」


おにいは、結局両想いなのにやきもきしていた二人を見て、ことを起こしたのだろう。

ただ告白をさせるだけじゃダメ。

変態の恋愛というのは、普通より難しい、付き合っても性格の不一致、趣味の不一致が普通より多くある。だから、おそらくおにいは、刹那さんと協力してこの状況を作ったのだろう。


「好きです」


「私も好き」


刹那さんは、縄をほどかれ、良二さんも澪さんから解放されると窓越しに二人は、唇を合わせる。

それであれば、もう我慢することもない。


「庵さん、たぶんおにいのやりたいことは、終わりました。あとこのカオスを納めてください」


「うん分かった……」


庵さんは、珍技結界男根サイドチェストに近寄ると一人一人のイチモツをまじまじと見て、非常に冷たい目で澪さんの舎弟を見る。


「小さいから、変態な格好をしてごまかしているようですが……はん! 完全な全裸になれないところを見るとどうにも自分のイチモツには自信がないようですね! お粗末すぎますよ……。こんなのじゃないのと同じですのでどいていただけますか?」


「お、おれは……」


怯える男たちは一歩引き震えだすが、庵さんは、隠さない。


「どいてください。粗チン様を潰れたトマトみたいにしてあげますよ」


「あ、ああ……あああ!」


澪さんの舎弟たちは、泣き崩れ珍技結界男根サイドチェストが完全に崩壊する。

逃げ惑う舎弟たちを無視して庵さんは、怒ったようにおにいに向かう。


「乱馬さん! これはどこからが作戦だったんですか? 人の気持ちをもてあそぶなんて! 最低です!」


「俺の作戦は、今日の昼、お前らが澪に絡まれた時、刹那さんと父さん達を引き合わせ、この場を準備した。愛の告白をするのに無理やりは良くないからな、事前に刹那さんには許可を取った」


「それでも、こんな無理やり……」


「こうでもしなきゃ、俺達みたいな特殊性癖の変態は、幸せになれないんだよ……」


蘭華は、驚いた。

おにいが自分のことを低く見た。本来ならあり得ない。

上から目線、反省や自虐という言葉をどこかに捨てたおにいが自分から自虐をした。


「変態にだって普通の恋くらい!」


「普通の恋愛……ねえ……俺は、恋愛というものに憧れているだけで叶えることなんてできないんだよ」


「乱馬さんバカ……そんな悲しいこと言わないでください!」


「……ならセ〇クスしようぜ」


「真面目な話をしているのに気持ち悪いです」


当然の拒否をする庵さんであるが、蘭華は、おにいと庵さんの間に、二人が付き合えないであろう決定的な溝を見たような気がしてしまった。


「な、俺、気持ち悪いだろう」


「……」


結局この後、新しいカップルの誕生に藻狐狸山での一連の事件は解決したのである。

しかし、蘭華は、おにいの行く末が不安になってしまった一件でもあった。

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