3.ビックサム、妹もビックサイズ

それから一週間が経ち、転校を明日に控えた庵と俺は、二人で俺の妹の転校手続きを待っていた。しかし庵は、不服そうな顔で俺を睨んでいた。


「……納得いきません。なぜ、乱馬さんの方が学力考査の点が高いんですか?」


「そりゃ、バイト以外は、高等学校程度卒業認定試験の勉強をしていたしな。高2の

範囲は、とっくにマスターしたからな。てか、庵もめちゃくちゃ頭が良いじゃないか」


「嫌味ですか……全科目100点の化け物に比べたら私なんて……はあ……」


テストの点でショックを受けたのか庵は、ため息をつくが、別に勉強など社会で全てが役に立つわけではない。学校とは、競争社会の縮図であり予行練習。学校の成績が良くても犯罪を起こす奴もいれば、学校での成績が悪くても成功する奴はいる。

しかし、競争社会で点数とは、ステータスであるのも本当だ。その恐ろしさを庵にも分からせてやらなくてはいけない。


「まあ、点数は、俺の勝ちなんだ。いい加減連絡先を教えてくれよ」


「それは無理です。キモイです」


「なら付き合って」


「絶対にいやです。キモイです」


完璧な決めポーズ。今まで、完璧な決めポーズで俺は、お金を稼ぐためにコネクションを作ってきていたが、これが効かないとはさすが庵である。より好きになってしまう。


「おーにーいー! だーれだ!」


「うお! この声は、うーん蘭華(らんか)ちゃん!」


瞬間、俺の背後に衝撃が走り目を隠されるが、聞き覚えのある声。

妹の蘭華ちゃんである。幼いころの記憶がトラウマになっており、俺になつきすぎている兄離れのできない14歳。ポニーテールから匂うシャンプーの香りも俺と同じものである。


「正解だよ! ふへへへ、履修登録が終わったからダッシュ出来ちゃった!」


「え、えと乱馬さん? いらっしゃったのは、妹さんでしたよね? どう見てもお姉さんにしか見えないのですが?」


蘭華ちゃんの見た目は、グラビアモデルと言われても何のそん色のない体に、身長も168センチという長身。庵も困惑するのも当たり前である。


「おにい、この人、もしかして例の運命の人?」


「違います」


庵の照れ隠しは、おいておこう。ちなみに冷たい目もかわいいぞ。


「ああ、蘭華ちゃんのお姉ちゃんになる子だぞ」


「うむむ……」


蘭華ちゃんは、値踏みをするように庵をガン見すると、ちょっと怒ったように庵に手を差し出す。


「按摩蘭華です……今日から、この聖ロザリオ叡智学院大学、医療科学部に通うことになりました大学3年生です」


「ら、乱馬さん?」


頭がこんがらがったのか庵は、俺に助けを求めてきた。いつものことだから、説明は慣れている。


「蘭華は、比喩表現抜きの天才なんだ。アメリカの大学に飛び級で全額学費補助入学したんだが、色々あってブラコンをこじらせ、授業と研究は、全部、家からリモートというハイスペック引きこもり予備軍なんだ」


「ちなみに研究テーマは、万能細胞を使って3Dプリンタみたいな機械で人工心臓を作る研究をしてます! えへん! 天才です!」


「えっと、思考が追い付きませんが……そのよろしくお願いいたします」


そういうと、庵は、蘭華の手を握るのだが、蘭華は、庵の手を握った瞬間に怪訝そうな顔をする。


「おにい、庵さんはだめです。緊張しているふりをしていますが、触診しても全然心臓の鼓動が変わっていません。この人弱い人を取り繕っているだけです。蘭華の経歴は、聞いた瞬間、理解できない状況から起こる動揺が一切ありません」


「乱馬さん。蘭華ちゃんは、中々毒舌ですね」


庵は、口が笑っていない笑顔であるが、思った通りであった。

庵も細かいことは聞いていないが、俺と一緒に捕まるほど現実味の一般人的に言う変態なのである。その異常性を蘭華は、握手だけで読み取ったのだ。

だからこその警告なのは分かっているが芸術的な運命は、科学的に証明ができるものではないので、蘭華を諫める。


「まあ、蘭華ちゃん。お兄ちゃんが認めたんだ。それも愛嬌だろう? ほら、今日は一緒にお風呂に入るとき泡風呂の素入れていいからさ」


「おにいホント! やった! おにい大好き!」


全く現金な妹だ。バスバブルで喜ぶのだから……そんなことを思っていたら庵は俺を見て、ガチ引きした目で見てきた。


「え、乱馬さん。もしかしてまだ蘭華ちゃんとお風呂に入っているのですか? この発育でまだ一緒にお風呂はさすがに犯罪なのではないですか?」


「いや妹だし。ねー蘭華ちゃん」


「ねーおにい。庵さんは、常識しらずで困っちゃうねー」


「いや! 絶対に私のほうが正しいです! ほ、ほら、蘭華ちゃん。お姉ちゃんとお風呂は入ろう? ね。」


庵は、俺の計画通りに誘導され蘭華ちゃんとお風呂に入る誘いをした。

それを見て俺たちはにやりと笑う。


「庵が蘭華ちゃんのお姉ちゃんというということは、義理の姉ということ」


「つまり結婚の意思はありだね。おにい」


「な! そういうつもりで行った訳じゃなくて! ご、誤解です!」

庵は、顔を赤くし慌てて否定すると、蘭華ちゃんは、安心したように俺を見る。


「良かった、庵さん感情がない訳ではないみたい。本当に動揺している。まあ、蘭華的にはまだ駄目だけど、おにいとなら……うーん及第点で釣り合うね」


「蘭華ちゃんにそういってもらえるなら良かった」


「こ、この兄妹は……」


ギリリと悔しそうな顔の庵であるが、どうにか全員が集まり、今日から住む寮に移動を始めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る