2.浮かぶ謎

第4話 空気の読めない後輩

「お前何やってんだよ。早く部屋片づけないと帰るのが遅くなるぞ」

 沢村会長の声で僕は我に返った。いつの間にか教室の電気が点いていた。

 彼女の写真を見つけてからの記憶が無い。

「…あれ?これって山本の写真じゃねえか…」

 沢村会長は声を強張こわばらせながらそう言った。

 

 この不自然に1フレームだけに差し込まれた山本凛子やまもと りんこの写真を見て、浜大津はまおおつさんは、急に謎の少女が出てきたと勘違いしたのだろう。

 山本の写真は所謂いわゆるオフショットというやつだ。制服姿で右手でピースをして、左手でソフトクリームを食べている、自然な表情で、笑みを浮かべた彼女の様子が写っている。学園ものの映画を去年、現会長である3回生の沢村会長が撮っていて、その時、僕が撮休の間に撮ったものだ。

「山本さんって誰なんですか?」

 いつの間にやら僕のすぐそばにいた河合萌かわい もえが不意に声を出した。

 東条副会長が河合に話す。

「僕らの同期だよ。確か伊丹と仲良かったはず。なあ?」

 話しかけられたので、声を絞り出す。

「…ぼ…僕は同じ学部だったんで…確かに必修授業でよく会ってたし、会ったらいっぱい話すぐらいの仲だったよ…」

「へえー」

 河合はいつも通り作ったような可愛い声でそう返した。彼女は演技上手いが最近日常生活でも演技をしているのではないかと思ってしまっている。

「ってかよ伊丹、なんでこんな写真をスクリーンに映してんだよ」

 沢村会長は眉を吊り上げながら、そう言った

 怒るのも無理はない。山本凛子は沢村会長の彼女だったのだ。サークルのグループチャットで彼女の兄が彼女のアカウントを使って彼女が死んだと僕達に知らせたあの日、一番泣いていたのは僕だったのだが…


「実は…」

 僕は事の経緯を皆に話した。皆一同驚いている様子だった。

 僕の話を聞き終わり最初に声を出したのは河合だった。

「意図しない演出が加えられていた…ってことは、それを行った犯人がいるってことですよね?私、ミステリ小説とか好きなんでワクワクしてきました!続きが気になる!」

 両手でガッツポーズを作り、『待ってました!』と言わんばかりの喜びと期待に溢れた表情を顔に浮かべた河合の様子に…周りは皆ドン引きしていた。空気が読めないにもほどがある。

 かと思えば、彼女は急に真顔になり、こう続けた。

「そういえば…山本さんはどうして自殺を?」

 彼女のその言葉によって、教室中が張り詰めた空気に満たされた。

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