第5話 浮かぶ謎

「山本のことは今はいいだろ。なんでこんな写真が伊丹いたみの映画に挟まれていたかが今は重要だ」

 と皆が黙る重い雰囲気の中、沢村さわむら会長が最初に切り出した。

「まあ、そうですね。伊丹さん、このDVDは確かにあなたがデータを焼いたものだったんですか?」

 顎に手をやり、河合が僕を目を細めてじっと眺めて、疑問を投げかけた。まるで推理ドラマの探偵のようだった。

「さっき再生機にれるときにも見えたけど、確かに僕がDVD-Rの上からペンでタイトルを書いたものだったよ。僕の字は独特なので見間違いはしないし…」

「確かに先輩の字は達筆ですもんね!」

 河合は少し口角を上げてウグイス嬢のような高く抑揚のある声でそう言った。ちょっと腹が立つ。が…可愛い。

 河合は教室前方のホワイトボードの前まで踊るように歩いていった。そして、僕たちの方を見た。講義でも始めるというのだろうか。

「なら、先輩がDVDに焼く前の動画のデータ自体に、何者かの手が加えられた可能性が高いですね。だって…編集した後に見返した際は動画のデータは変わってなかったんですよね?」と河合。

「それはさっきも言った通りそうだよ…」と僕。

 編集した後は何度も確認したので、絶対にあんなミスは有り得ない。

「あの写真は誰でも持っているものだったんですか?」

「うーん、僕が持っていたのは確かだけど、他の人はわからない…いや、待てよ。あの写真は映画撮影用のグループチャットでも送ったような…」

「なるほど。じゃあ、そのグループチャットに入っていた人なら誰でも写真を入手できたわけですね」

「そうだね…」

 確か、オフショットの写真をサークルの公式SNSアカウント上で公開しようという話になったのだった。しかし、結局、山本さんが自分の女子高生姿を公衆の面前で見せるのを恥ずかしがって無くなった。

「ってことは、そのグループチャットにいたメンバーに犯人がいる可能性が高いわけですね!」

 右手の人差し指を顔先に立ててドヤ顔で河合はそう言った。探偵気取りにも程がある。

「いやけどよ、あのグループチャットのメンバーで残っている奴ってこのサークルで4人だけだぜ…その内1人は幽霊部員だしよ…」

 沢村会長が少し機嫌が悪い面持おももちで話に入ってきた。この話が続いて帰りが遅くなるのが嫌なのだろう。後、自分の死んだ元カノの話を延々とされているのが気に食わないのかもしれない。

「その4人とは誰なんですか?」

「ええっと…監督の俺と副会長の東条と後、伊丹、そして…あいつ名前何だっけ?」

一条戻いちじょう れいですよ。まだ一応サークル費払ってるんですから、覚えといてくださいよ」

 と会長にツッコミを入れたのは東条副会長だった。

「いやだってよアイツ、3回生のくせに、サークルの総会にも参加しないし、役職に就くのも拒否しやがってよ。なのによ、サークルの機材だけは一丁前に借りて1人で野鳥とか撮ってよ~めんどくせーんだよ」

「その人が怪しいですね…」

 真剣な表情を浮かべた河合がそう呟くと…


「ちょっとまだ残ってたんですか!」

 教室前方のドアから学園祭実行委員が怒声をあげて駆け現れて、この話は打ち切りとなった。


 僕らは一斉に教室を爆速で掃除して、結局そのまま解散した。誰もさっきの話について語る者はいなかった。明日も学園祭があるので、皆早く家に帰りたいのもあるし、また、ただただ映画に写真のデータが挟まっていただけなので大騒ぎすることも無いと考えたのだろう。

 僕は1人、帰路についた。

 

 イタズラにしても、自死した山本さんを使うのは何か意図があってやっているとしか考えられない…しかし…何のために…

 視線を道路にやり、考え事をして歩いていると…

 後ろから突然声がした。

「先輩!」

 振り向くと、満面の笑みを浮かべた河合萌が手を振りながら立っていた。いつの間に買ったのだろうか、2Lペットボトルのコーラと袋入りのポテトチップスコンソメ味(大容量)が入ったレジ袋を肘にぶら下げていた。

 河合は僕のもとに駆け寄ってきて、こう元気のこもった声で呼びかけた。

「今から謎を解きましょう!」

 

 

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