3.推理

第6話 下宿で推理①

「お邪魔しまーす」

 ゆるキャラのような高く可愛い声を出し、河合萌かわい もえは僕の下宿であるマンションの1室に入った。急に人が入ってもいいように、僕にいつも部屋を片付ける習慣があって良かった。映画撮影以外で女性を部屋に入れるのは初めてだったが、河合は顔もスタイルも良く可愛いとは思うが、性格が僕のタイプでは無いので別に今からそういうことをするとかは考えられない。

「男クサーイ!」

 河合は鼻をまんで八の字眉を浮かべている。リアクションがカートゥーンアニメのようにいちいち大きい。

「仕方がないだろ…男の1人暮らしの部屋なんだから」

 何の確認も取らず、河合はカバンの中にあったポーチから取り出した香水を僕の部屋中に振りかけた。部屋中が河合の好みの匂いで満たされた…

「これで…マシになりましたね。マシに!!」

 語尾を強調して言いながら、河合は眉間にしわを寄せていた。

「そんなことはどうでもいいだろ。明日も上映会の準備で朝早いんだし、その謎解きとやらをさっさと済まして河合も家に帰れよ」

「はーい、わかりました」

 河合は生返事を返した。そして、ポテトチップスの袋を豪快に開け、続いて僕の用意した紙コップにコーラを注いだ。

「まあ、気を取り直して、推理を始めますか」

 ポテトチップスの袋の開いた口は自分の方に向けているし、紙コップを2つ用意したにもかかわらず、自分の分だけしか注いでない…つまり、コーラとポテトチップスはおのれのためだけに買ったのかコイツは…

「まずは、容疑者リストを書き出しますね」

 そう言うと、河合はカバンからルーズリーフ1枚とボールペン1本を取り出し、何やら書き始めた。


【容疑者リスト】

伊丹五月いたみ さつき

 20歳。五条大学文学部所属。2回生。五条大学自主映画制作サークルに所属。

 ・山本さんとの関係:同じ学部。サークルの同期。友達(?)。惚れてる(?)。

 ・私の中のイメージ:映画オタク、ひ弱、女子が苦手そう(私除く)。

東条勝とうじょう まさる

 19歳。五条大学法学部所属。2回生。五条大学自主映画制作サークル副会長。

 ・山本さんとの関係:サークルの同期。そこまで仲良くなかった(?)

 ・私の中のイメージ:皮肉屋、巨乳が好きそう。(私の事あんまり好きじゃないっぽいので)

沢村一夫さわむら かずお

 21歳。五条大学経済学部所属。3回生。五条大学自主映画制作サークル会長。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。元カレ。山本さんのことが今でも好きで彼女が死んだことを未だ引きずっている(?)。

 ・私の中のイメージ:筋肉マッチョ、ゴリラ、風俗狂い。

④いちじょう れい

 3回生。五条大学自主映画制作サークルに一応所属の幽霊部員。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。



「まあ、こんな感じですかね。一部は上映会の後、山本さんの写真を見た後の皆さんの反応から考えました」

「何か、河合目線からの悪口書かれてないか、みんな…ってか一条先輩のところガバガバ過ぎるだろ!僕が書くよ…」



④■■■■■■ ■■ 一条 戻いちじょう れい

 3回生。五条大学自主映画制作サークルに一応所属の幽霊部員。21歳。五条大学文学部所属。

 ・山本さんとの関係:サークルの先輩。そんなに仲良くなかった覚えが。

 ・僕の中のイメージ:口数が少ない。素朴な感じ。真面目。後輩に優しい。



「やっぱり、伊丹先輩の字は達筆だ!」

「うるさいな!」


「ふーむ、一番怪しいのはやっぱり④の一条さんですね…」

「まあ、そうなるな…」

「そういや、山本さんの死因は結局何だったんですか?自殺としか聞いて無かったので…」

「うーん、言いづらいんだけど…これ僕が言ったって誰にも言うなよ…」

「私、口は堅いんで大丈夫ですよ!」

「信用できないんだよな…いまいち河合は。まあ、言うけども。死因は投身自殺だよ…自宅マンションの屋上から落ちて…遺書も見つかっている」

「遺書…どんな?」

「それが遺書の内容は遺族にしか知らされてなくてさ…当時の彼氏だった沢村会長さえ教えてもらえなかったんだ。だから皆、山本さんの死に関して心の底ではまだ煮え切らない思いがあって、サークルで山本さんの話題は禁句なんだ…」

「沢村会長は今、彼女いらっしゃらないですよね…山本さんが亡くなられてからずっとなんですか?」

「まあ、そうなるな…ってかこの沢村会長の欄にある風俗狂いってなんだ?」

 僕は沢村会長が風俗が好きだということなんて知らなかった。

「半年前くらいに新入生歓迎会ってあったじゃないですか?あの時、居酒屋で私、沢村会長の前に座ってたんですよ。私はソフトドリンクを飲んでいたんですが、沢村会長はもう酔いに酔いまくってて、もうセクハラまがいの発言ばかりだったんです」

「よく、そんな人がサークルの会長している所に入ったな…」

「まあ、私は映画が好きで映画を撮りたかったので、この大学で唯一の自主映画制作サークルであるここに入らざるを得なかったんですよね。今は女優ばかりやってますが、来年こそは先輩達のノウハウを盗んで撮りますよ」

 そう言いながら、河合はまた、両手でガッツポーズをしていた。そのポーズが好きなのだろうか。

「なるほど…」

「それはまあいいんです。その席で沢村会長は月2回は自宅にデリヘル嬢を呼んでいることをわざわざ言ってきたんですよ。私に!!まだ大学入りたての未成年のうら若き乙女に!!」

「まじか…月2回も呼んでいるのか…!!?」

 僕は驚いた。そんな話は今の今まで知らなかった。もしかしたら、山本さんが亡くなってからの寂しさを埋めるためなのかもしれない…

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