【附録】

山本凛子の残した遺書

【1枚目】

 お母様、お父様へ

 私みたいな心の弱い不完全な人間が生まれてしまい、申し訳ございませんでした。 

 私が死ぬことによって、家の名を汚すことになるかもしれません。

 本当に申し訳ございません。

 高校まで様々なお金を費やさせた挙句、大学の生活費や1人暮らしのお金もいただき、ありがとうございました。

 祖父の厳しい目の中、娘婿・社長として頑張って私を立派な大人になれるよう育ててくださったお父様、愛を持って接していただいたお母さま、どちらも感謝してもしきれません。

 他に言いたいことはたくさんありますが、たくさんのことを書いても、お母様、お父様の悲しみを増幅させるだけですので、短くなりましたが、あなた方への手紙はここで終わりとさせていただきます。


 山本 凛子


【2枚目】

 お兄様へ

 私のような愚かな妹を寵愛してくれてありがとう。

 高校時代、私を財産目当てで狙ってきた同級生から守ってくれたこと今でも感謝してるよ。大学に入ってからも、私の下宿に来てブランドの服とか高いお菓子とかを買って持ってきてくれて嬉しかったな…これから私はいなくなるから、私のことは忘れて素敵な彼女さんを作ってね。


 山本 凛子


【3枚目】

 遺書

 私は大学に入ってから、様々な出会いがありました。そこには良い出会いもあれば、悪い出会いもありました。

 良い出会いについてまず話します。兄にもよく話していたのですが、私と同じ学部で、また、同じサークルにも入った伊丹五月(いたみ さつきと読みます。)君には本当に感謝しています。私は昔から人が苦手で引っ込み思案で、大学に入ってから大学デビューをしようと思っていたのですが、うまくいかず、友達もできず途方に暮れていた頃、パソコン室で自分がもらった学生用の個別アカウントのパスワードを声を上げながら打ち込む伊丹君に会いました。私は彼のその様子を笑うと、恥ずかしそうに照れて、可愛かったです。伊丹五月君は私を大学の入学式の日大教室で文学部の新入生が集まったとき、私のことを見かけていたらしく、私が同じ学部ということを知っていました。伊丹君はオドオドしながらですが、私に積極的に話しかけてくれました。私も映画好きということもあり、話が合い、2人で大学の自主映画制作サークルに入りました。伊丹君と映画を一緒に作ったり、彼がずっと脚本を書いている映画について一緒に案を練ったり、私は初めて人との共同作業を行うことができた気がします。高校時代までは、私の家のことを知っている地元の同級生たちは、工場勤務の親を持つ子も多く私の機嫌を常に窺っている感じがしました。けど、大学で初めてできた友達である伊丹君は、私を1人の普通に人間として扱ってくれました。そりゃあたまに喧嘩とかもしましたが、それはそれで私は自分が特別扱いされてないことを実感できて良かったです。本当に、伊丹君には感謝しています。


 山本 凛子


【4枚目】

 次は悪い出会いについて話します。伊丹君と一緒に入ったサークルにいた沢村一夫(さわむら かずおと読みます。)です。遺書であまり恨みつらみを語るのはダメだと私は思うのですが、何も書かずに死ぬのは本当に、私は後悔するだろうな…そう思いもしたので、語りますね。沢村さんは、私の顔がタイプで惚れたらしく、サークルに入ってすぐにデートに誘われました。私はまだサークルに入ったばかりで、上級生のことが怖く、断ることもできませんでした。その日、私は沢村さんにホテルで襲われました。私はこんな形で純潔を失うなんて思っておらず、泣きました。沢村さんと私はその日から付き合うことになりました。あまり人間として好きではありませんが、逆らうと怖かったから関係を続けたのです。私は、本当は最初は伊丹君みたいな人と最初は付き合いたかったです。伊丹君のように優しくて真面目な人と。沢村さんは何もかも強引で気に入らないことがあると暴力を振るいました。私はそのことをお兄様にも相談できていませんでした。そもそも彼氏がいることさえ隠していましたね。沢村さんとの出会いは、本当に悪い出会いでした。


 最後になりますが、私が自死した後、その原因を調べないでください。

 私は恥ずべき行為をしたのです。その恥ずべき部分を知ることになります。


 山本 凛子

 

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