第3話 証言

 上映会後、誰も居なくなった大教室で、僕はアンケート回答者と1対1となり、くだんのアンケート内容に関する詳しい話を聞くことにした。

「は…初めまして。僕は伊丹五月いたみ さつきと言います。この上映会を開いている五条大学映画研究部に所属しています。2回生で学部は文学部です」

 僕は初めて会う人と話す緊張からオドオドしながらそう言った。

「そうなんですか。僕は滋賀県にある近江学院大学の3回生の浜大津命はまおおつ みことって言います。学部は教育学部です。教師を目指しています」

 名前の記入欄(任意)には確か”浜大津命”と書かれていた。変わった名前だ。

 浜大津さんも緊張しているらしく、表情が固い。僕の方をちらりと一瞥し、こう続けた。

「…それで僕は何で引き留められたんでしょうか?」

 そういえば、なんで浜大津さんを引き留めたか言ってなかった。緊張でどもりながらも返事を返す。

「あ…あなた『殺し屋と死を望む少女』って映画を今日ここで観ましたよね?」

 少し不安な表情を浮かべながら浜大津さんは首肯しゅこうした。

「じ…実は僕、あの映画の監督で…あ…あの後アンケートがあったじゃないですか…」

「ああ!なるほど!!あのアンケートのことで引き留めたんですね!!」

 浜大津さんの口角はいつのまにやら上がっており、納得がいった様子だった。

「そ…そうです。僕の映画で謎の少女が出てきたってアンケートにあなたは書いたじゃないですか?それに関して詳しくお話を聞きたかったんです」

「話します。話します。実は僕あれに気付いてから、ずっと頭の中がモヤモヤしてて誰かに話したかったんです。あの映画の最後あたりで真相が明らかになる直前で、少女が殺し屋と別れるところがあるじゃないですか。僕が謎の少女を見たのはあのシーンです。あのシーンの最後のカットで少女は駅に向かって泣きながら歩いていきますよね。あそこで長い黒髪で目が大きく真珠のように輝いていて、鼻筋の通ったセーラー服の少女が映ったんです」

「なるほど…」

 僕はその証言を聞きながら、メモをした。浜大津さんにはその後すぐに帰ってもらった。

 僕の映画に黒髪ロングの少女など出演していない。ヒロインを演じている河合萌かわい もえは茶髪のショートヘアであるし、他の女性キャラも茶髪の子が多く黒髪の子がいてもボブカットである。

 僕は蟀谷こめかみを抑えながら、頭をフル回転させて謎の少女のことを考えた。すると…ある女性のことが脳裏に浮かんだ…

 まさか…そんな…こと…

 動悸で胸が張り詰めてきた。

 彼女だというのか???

 

 僕は、すぐさま、上映会で流したDVD-Rをケースから取り出し、教卓裏の再生機に入れ、教室の電気を全て消した。その際、教室前方入り口の覗き窓から北野きたのや河合、沢村会長、東条副会長などといったサークル員一同がいぶかしげな目で僕の方を見ていることに気付いた。ので、僕は入口のドアに駆け寄り、ドアを開け大声で彼らに呼びかけた。

「すいません!!少し確かめたいことがあって、少しの間だけ待っててください!!」

 僕のただならぬ様子に気圧けおされてか、皆は僕に何も返事を返さなかった。少し引いているようにさえ感じた。

 僕は、即時に席に戻り、早送りボタンを使って、浜大津さんが言っていた例のシーンまで映画を飛ばした。編集の際、チャプター分割していないからそうするしかなかったのだ。

 いよいよか…

 喉に生唾が落ちる感覚がする。額に汗もたれてきた。

 少女が駅に戻るところで、一時停止をし、コマ送りを始める。

 1フレーム…2フレーム進めていき、次に3フレームまで進めると…

 そこには、謎の少女…いや、謎の少女だった少女の1枚の写真が映っていた。

 それは、見覚えのある写真だった。それもそのはず、それは僕が撮った写真で…

 山本凛子やまもと りんこ…僕の同期であり…去年、自宅前で亡くなったのが発見された…彼女のものだったのだ。

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