努力の方向性
鈴木 正秋
プロローグ
【第零章】
校庭の木々に桜が咲き、地面が桜色の絨毯が引かれているように見える頃。俺は今日、この小学校を卒業する。
おそらくどこの学校も似たようなことをしているのではないだろうか。卒業証書を受け取る前に壇上で自分の将来の夢、もしくは小学生の時の思い出を発表する。理由はわからないが、きっと夢や思い出を人前で恥ずかしがらずに言えることが、大人への階段を昇るということなのだろう。
俺の番が近くなっていく。俺は今日、初めて人前でこの夢を語る。こんなことを人前で言うのは恥ずかしくて仕方がない。隣に座る同級生が担任の先生に呼ばれた時には、背中にびっしょりと冷や汗をかいているのを感じた。春の気温と冷や汗の二つにより、少しずつ体温が奪われていく。
だが、言わなければ。ここで将来の夢を語れないくらいならば、叶えることはできない。
「若林透真」
「は、はい!!」
俺の名前が呼ばれ、立ち上がった。自覚はないが声が裏返っていたことだろう。何故なら、背後でくすりと笑う声が聞こえた。
しかし、俺はそんなことは気にも止めずに歩きだした。今からもっと笑わせてやるから安心しろ。
ぎこちない動きのまま、壇上で両脚を揃え、両手を体側にした、
学校の先生、同級生、下級生、保護者。多くの人たちの視線が俺に集まる。俺の前の同級生は、おそらく思い出を語っていた。だからこそ、「お前は将来の夢を語るよな?」と思っていることだろう。
正解だよ。よくわかったな。
俺は顔を少しだけ後ろに傾け、口で大きく息を吸った。そして、体側していた手をぎゅっと握り絞めた。
「プロサッカー選手になって、世界で活躍したいです!!」
高らかに宣言してやった。
先日、あるテレビ番組で有名なプロサッカー選手が過去を語っていた。「小学生の卒業文集でサッカー選手になるという将来の夢を書いたんですよ。当時は友達に笑われたりしましてね。けど、それが原動力になったんでしょうね。あ、もちろんサッカー大好きですよ。それでも悔しい、恥ずかしいという気持ちは人を動かすんですよ。だから、僕はこうやってプロサッカー選手になれました」と。
きっとプロサッカー選手としては、マイナスな考え方だろう。だからこそ、そのテレビ番組は遅い時間にやっていた。
でも、俺はその言葉に感動した。だから、その人の真似をしようと考えたのだ。
流石に一生残る卒業文集に書くのは嫌だったから、この場を借りることにした。背中に冷たさを感じつつも、達成感からか胸が熱くなっていた。
そして、俺は校長先生から卒業証書を受け取り、壇上を降りて行った。
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