【第一章】 第七話

俺と凌太、渡辺は途中まで帰り道が同じであり、サッカー部での紅白戦を終えた後、三人で帰路に着いていた。

まだ四月ということもあり、夜になるにつれて冷え込んでくるが、俺の体はその気温の変化に気が付かないほどに温まっていた。悔しくて、悔しくて、ずっと握りこぶしを作っていたからだと思う。


しかし、この悔しさをこの凌太と渡辺に覚られるわけにはいかない。自分が惨めで情けなくなるからだ。


「渡辺くん、ナイスゴールだったね!!」


「そうだろう、そうだろう。何故なら、俺は天才だからな」


凌太と渡辺は俺の一歩前を歩いている。

それに先ほどからあまり話を振ってこない。実は気が付いているのだろう。俺がかなり悔しがっているということを。けど、俺はそれが少しありがたかった。きっと醜い言い訳を並べ、「まだ仮入部期間だし、これから結果を出す」などということを苦笑いで言っていたことだろう。


試合勝って、結果で負けて、内容で負けた。

あのあと、俺たち赤ビブスのボランチをやっていた同級生に声をかけた。名前は間中瑞希、公式戦に出た経験はなく、中学入学前にサッカークラブで三カ月間だけサッカーをしていただけだった。


そんなサッカー経験が少ない人物だというのに、あの発想が思いついたことに驚かされた。あの後も惜しいシュートが何度かあり、そのほとんどに彼が関わっていた。その上、パス以外の技術も経験者と遜色がないほどだった。


同級生だから今後も間中とはポジション争いをしていくことになるだろう。けど、負ける気は毛頭ない。

仮に間中が天才だったとしても、俺は天才を超える努力家になるしかない。だから、まずは目の前のできる努力から行っていく。


「凌太、渡辺!!」


俺がそう呼ぶと、一歩前を歩く二人が足を止めた。そして、渡辺が「どうした?」と問いかけてきた。だが、俺はそれをしっかりと聞いたうえでこう続けた。


「俺は絶対、このサッカー部のボランチとして活躍したいと思っている。遅くとも二年までには。だから、今後これから練習が終わった後、自主練習に付き合ってくれないか?」


恥ずかしいことを言っているのに、いつものような冷や汗はどこにもかかなかった。

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