【番外編】 第七話

渡辺くんがボールを後ろに蹴り、紅白戦が再開した。

ボールを受け取ったボランチの間中くんが、先輩たちの寄せを回避するように俺にパスを出してきた。いつもとは違う左サイドハーフというポジションだったが、左足で冷静にトラップをした。


左足のインサイドにじんわりと柔らかな痛みが走る。

だが、その痛みが頭をクリアにさせる。


目の前に先輩が迫って来ていたが、俺は落ち着いて間中にボールを戻した。それを受け取った間中くんが、ダイレクトで右サイドの波多野くんにパスを出した。そのボールを間中くんの位置にいたフォワードの先輩が眉を顰めながら追いかけていく。

そして、波多野くんは少しドリブルした後、間中くんにボールを戻した。


先輩たちの視線が一気に動いたのがわかった。

左から右へ。

そして、右から左へ。

間中くんはコートの左端に向けて、低空飛行のボールを蹴り出した。


「オーライ、オーライ!!!」


ボールが飛んでいく場所に渡辺くんが走り込んでいる。

先輩たちの間を突き刺すようなパスが、渡辺くんに渡った。


「ナイスパス!!」


渡辺くんはくるりと反転し、そのままドリブルをしようとしていたが、渡辺くんはぴたりと足を止めた。

センターバックの先輩が渡辺くんの前に立ちはだかり、さらに後ろにもう一人のセンターバックの先輩が待ち構えている。だけど、渡辺くんが負ける想像がつかなかった。


渡辺くんがドリブルを始めた。

左右に重心を動かして、先輩が先に動き出すのを待っていた。だが、先輩はほとんど釣られない。


「まずい」


俺は思わず呟いてしまった。

渡辺くんの後ろからボランチの先輩が足を伸ばしてきたのだ。渡辺くんは寸でのところで回避したが、逃がさないように二人の先輩が渡辺くんを追った。

このままでは渡辺くんがボールを奪われてしまう。


だが、俺の視界の端に透真が映った。間中くんの作戦通りだ。

挟みに来ていた二人の先輩をぎりぎりで振り切った渡辺くんは視界を上げるが、カバーに入って来ていたセンターバックの先輩が最後の砦として立ち塞がっていた。しかし、渡辺くんの左横に走り込んできていた透真にパスを出した。


そして、ボールを受けた透真が放ったシュートは、ゴールネットに突き刺さっていた。

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