【番外編】 第八話
まだ季節は春のはずなのに、アスファルトの地面はじりじりと暑い。その上を俺たちは薄く茶色に汚れた白の運動靴で駆け抜けて行く。
肺が焼けるような感覚に襲われながらも足を前に運ぶ。その度に脇腹に激痛が走る。
だが、それを無視するために歯を食いしばって、さらにスピードを上げるためにどうしたら良いかを考える。足の幅を広げる?足の回転数を上げる?
だが、きっと今からそれらを実践したところで透真の背中には追いつけない。むしろそんな付け焼刃では透真の背中はどんどん離れていく気がする。やはり透真と肩を並べることはできない。
中学校の外周を十周。走り終えた後、俺は校門の近くで脇腹の激痛に耐えるために、足を止めて膝に手を付いて息を整えていると、透真に声をかけられた。
「凌太、歩けよ。足に乳酸溜まるぞ」
透真も少し息が整っていないようで、言葉が途切れ途切れだった。俺は体を起こし、透真の顔を見ると、少し顔が歪んでいるように見えた。
「うん。でも、ちょっと全力で走りすぎて脇腹が」
「わかった。けど、多少息整えたら、歩けよ」
透真は俺にそう言うと、また足を動かし始めた。俺は大きく息を吸うと、どこか脇腹の痛みが軽減して、思考がクリアになる。
改めて透真の凄さを感じた。
「うん、けど、すごいね。透真。二軍の中で外周一番だなんて」
「まぁな」
「絶対すぐに一軍いけるよ!!」
俺が透真の方へと振り向くと、透真が足を止めていた。
まだまだ太陽が俺たちを照らしているはずなのに、透真の顔には深い影が落ちているように見える。俺は思わず一歩踏み出して、透真の傍に駆け寄った。
「透真?」
俺が問いかけると、透真の顔から影が消えた。
「え……。あ、ああ。どうした?」
「いや、ぼーっとしていたから大丈夫かなって」
「ああ、大丈夫」
この時の俺は、透真に見えた深い影の理由を一軍から落とされてしまったことだと、勝手に思っていた。しかし、真実はそうではないことを俺はまだ知らなかった。
そして、少し息が整った後、透真と俺は校庭の方へと向かった。二軍は外周を走り終えたあと、ボールを使って、基礎技術の向上の練習に努める。
一方、一軍は中学校の外周を走ることなく、セットプレーの練習をしている。
そして、一日の練習の最後に、一軍対二軍で二十分だけ紅白戦を行う。
「おお、ようやくお前と戦えそうだな、若林」
渡辺くんが両腕を組んで、透真の前に立ち塞がった。
昨日の紅白戦で渡辺くんは一軍に上がったため、外周を走ることないため、まだまだ元気だ。
俺は渡辺くんを横目で見た後、校庭でフリーキックの練習をしている間中くんに視線をやった。
「おい!!聞いているだろ!!若林!!」
透真は渡辺くんに対して返事をするのが面倒くさくなっているのだろう。だが、それよりも渡辺くんの後ろからすらりと高い身長の人物が立っていることに気が付いた。
この人は朽木和男先輩。ポジションはセンターバックだったはずだ。
「渡辺、お前何故集合しない?」
とても、とても低い声だった。
すらりと高い身長と低い声で、かなりの威圧感がある。
「げ、朽木くん」
渡辺くんは目を丸くして、一歩だけ後ずさりをした。
まるで猛獣に鉢合わせしまったかのような形相だった。
だが、そんな異様なリアクションに朽木先輩は動じることなく、渡辺くんに向けて指をさした。
「監督がお前を紅白戦でAチームとして出すか検討していた」
「ええ!!俺、紅白戦に出られないんですか!!」
「お前が自由過ぎるからだ。自由は大切だが、時と場合を考えろ」
「はーい」
気の抜けた返事を渡辺くんの襟を朽木先輩は掴み、一軍が集合している場所に連れて行った。そして、その先には間中くんがフリーキックの練習を辞めて、ストレッチをしていた。
横にいる透真に視線を移すと、透真の目つきが変わったように見えた。
しかし、二軍は一軍にボロ負けした。結果は五対〇。二十分の紅白戦だったが、そのうちの十八分ほどは一軍にボールを保持されていた気がする。
一軍と二軍との差は明確だ。
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