【番外編】 第十八話

神田先輩に単独突破され、先制点を決められた俺たちチームDはゴール前で円陣を組んでいた。

そして、その中で渡辺くんはニカリと笑った。


「やっぱりすごいな、神田先輩は」


そう。本当にすごいのだ。

俺を含め、全員が首を縦に振った。だが、それと同時に全員が理解している。

あんなすごい神田先輩と今後一緒にプレイしていくためには、このミニゲームでチームAに勝利すること。またはこのミニゲームで自分の実力を存分に発揮し、アピールをする必要がある。


「まずは神田先輩対策だな。神田先輩を二人でマークするか?」


波多野くんは少しだけ眉を顰めながら言ったが、きっと不本意ではない作戦なんだと思う。


神田先輩一人に二人がマークするということは、神田先輩以外と警戒する味方が一人減るということ。それに少ない人数でその作戦を実行すればするほど、相手は攻めやすくなってしまう。


「仮に神田先輩を二人でマークするとしたら、その二人は誰にする?」


渡辺くんの問いかけに俺はいち早く反応した。


「俺は確定だよね。神田先輩と同じサイドだし」


「そうだな」と渡辺くんは頷くと、ふぅと息を吐いた。「あと一人は俺と言いたいところだが、俺はフォワードとして点を取りたい。権田に頼んでもいいか?」と権田くんの顔をちらりと見た。


「別に構わないぞ。俺は点を取ることがアピールになるわけではないからな」


「悪いな。代わりに絶対点を取る」


渡辺くんはそう言うと、同時に俺たちは円陣を解いた。

そして、渡辺くんがセンターサークルの中心で、右足の裏をボールの上に置き、後ろにパスを出した。

それと同時に松本先輩が間中くんに向かってくる。しかし、間中くんは波多野くんとワンツーをして、回避した。


「ワンツーかよ」


と松本先輩が呟いていた気がする。

波多野くんが角田先輩にマークをされてしまったため、俺がパスをもらおうと思ったが、神田先輩にパスコースは遮られ、間中くんの姿が見えなくなる。


そして、次に間中くんの姿を捉えた時には、透真にボールを奪われていた。

まずい。見逃した。

と思っている暇などない。神田先輩よりも切り替えるタイミングが遅く、再び神田先輩の背中しか見えなくなってしまう。


「俺に出せ」


という神田先輩の声と共に透真が、神田先輩の約五メートル先を目掛けてパスを出した。しかし、そのパスはいくら何でも速すぎる。確かに神田先輩の速度なら届くかもしれないが、俺から見ると無茶なパスだと思ってしまう。

その時、神田先輩も同じことを思ったのだろう。一瞬だけ足が止まったように見えた。


これはチャンスだ。

俺は右足を前にしてスライディングをした、だが、勢いよく転がるボールは俺の足を掠めるだけで、コート内に留めることはできなかった。


くそう。

敵のボールとはいえ、完璧にボールを奪ってカウンターを仕掛けたかったのに。

あと一歩だ。何かがあれば、きっと俺も天才と同等とまではいかずとも、劣らないはずだ。

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