【番外編】 第十三話

「明日、一軍と二軍を再び振り分けるための選考を行いたいと思う」


武井監督は眉を顰めながら、手に持っているバインダーに視線を落とした。横二列に並んでいた俺たちサッカー部はぴたりと止まっているはずなのに、ピリリと緊張が走った。


誰もが来た、と思ったのだろう。俺だって思った。


「今回の選考では紅白戦は行わない。お前たちでチームを振り分け、一チーム五人で五対五のミニゲームを行ってもらう。ゴールはミニゴールを使うため、ゴールキーパーはなしだ」


ミニゲーム。

小学生の時に所属していたサッカークラブで練習の際によくやっていたことを思い出した。一人一人の運動量が多いから、かなりきつい。


「では、明日の午後の練習までに各々で決めておくように」


武井監督はそれだけ言うと、手に持っていたバインダ―を閉じて、俺たちの前から去って行った。

そして、長い沈黙の時間が訪れた。誰もが突然の出来事に驚いていたのだろう。


しかし、その沈黙はキーパーグローブで手を叩く音と共に解消された。


「武井監督の言う通り、明日までに五人一組をそれぞれで組もう。じゃあ、解散!!」


三年生で主将をしていた丸山先輩から受け継いだ富澤先輩だった。

その言葉を聞いた全員は、まるで金縛りが解かれたように動き出し、ぞろぞろと荷物置き場まで戻って行った。


五人のチームか。

俺と透真、渡辺くん、間中くん、波多野くん、権田くん。一週間前から始めた部活のあとの自主練習をしている人数は六人。

一人余りが出てしまう。


だけど、透真と組むのはマストだな、と思ったため、目の前を歩いていた透真に俺は声をかけた。


「透真、俺と組まない?」


透真はすぐには答えなかった。

まさか、もう別の人と組んだのか、と思っていると、渡辺くんと波多野くん、そしてその二人に肩を組まれている間中くんが俺たちの目の前に現れた。


「まぁ、俺たちで組むよな。これで先輩たちに一泡吹かせてやろうぜ」


渡辺くんは太い腕を前にぐっと出した。


「そうそう。それにこのメンバーなら前にやった一年生たち二年生のリベンジもできそうだしな」


波多野くんは満面の笑みを浮かべた。

口をへの字にしていた間中くんは「あつい」と言って、二人の腕を振り払った。


「まぁ、僕は良いと思うよ。けど、どうするの?」


「何がだ?」


間中くんの質問を、波多野くんが質問で返した。

きっと間中くんもわかっているのだろう。俺が少し思っていた問題点を。


「ゴールきーぱーがミニゲームに参加するとしたら、六人になってしまうけど」


「ああ!!」


渡辺くんと波多野くんは声を揃えて驚いた。しかし、俺は今の掛け合いの間にこの問題点を解決する方法を導きだしていた。俺もなるべくならこの六人で組みたい。自分の実力を最大限発揮できるメンバーはこの六人しか考えられない。


「でも、三年生が引退したから、サッカー部員の総数は三十三人。その中からゴールキーパーの二人を抜くと、三十一人だからどちらにしても、どこかが六人組にあると思うよ」


「確かに」


また渡辺くんと波多野くんが声を揃えた。そんな話し合いの中で、のそりと俺たちの前に権田くんが近寄ってきた。


「どちらにしても俺はお前らと組むぜ。それは譲れねえことだ」


「流石は漢の中の漢、権田だぜ!!」


権田くんと波多野くんはそう言い合うと、拳をコツンと合わせた。

しかし、それを切り裂くように透真は口を開いた。


「悪いけど、俺はお前らとは組まない」


透真の抑揚が無い声が一瞬だけ時を止めたような気がした。だが、最初に動いた波多野くんは目を見開いて驚いていた。


「え、なんでだ?」


正直、至極真っ当な意見だと思った。

別に俺たちで組まない理由はない。

この中で一番透真との付き合いが長い俺でさえ、透真の思考がわからなかった。どんどんと場の雰囲気が黒く染まっていく。


だが、そんな中で渡辺くんは大きく高笑いをすると、透真を指さした。


「ライバルである俺と勝負するために決まっているよな!!流石は今世紀最大のライバルだ!!」


「ちげーよ!!」


黒くなりかけていた雰囲気が一気に晴れた。

絶対に透真は渡辺くんが思っているようなことを考えてはいないが、悪い雰囲気の中でそういう冗談を言ってくれる渡辺くんには感謝しかない。


その後、透真は俺たちに背を向けて、歩き始めた。

きっと透真はまた何か思惑があることだろう。俺も負けてはいられない。

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