【第一章】 第三話

教室内で入学オリエンテーションを終えた後、午前中の内に解散となった。そして、俺と凌太、渡辺はサッカー部の練習風景を見に行くことにした。


元々俺は行くつもりはなく、家の近くの公園でボールを蹴りたかった。しかし、渡辺が「もちろんサッカー部の練習見に行くよな?練習に参加はできないだろうけど、アピールになるだろ」と言い、それに凌太が乗っかったため、仕方なくついて行った。人の練習を見て、何の意味があるのだろうか。


サッカー部の練習場所は中学校の校庭を利用しており、土のグラウンドだ。そして、野球部が校庭の片面を、サッカー部は校庭のもう片面を練習に利用している。

そして、校庭を覆っているネットの外側から俺たちはサッカー部の練習を眺めていた。


「おー!!すごい、流石中学生って感じだね」


凌太が感激の声をあげた。

丁度その時、コーナーキックの練習をしていたサッカー部の二年生や三年生が空中での競り合いをしており、オフェンスの選手が大きな体を使って、ヘディングでゴールを決めていた。そして、俺もサッカー部の先輩を見て、凌太と同じように思わず感嘆してしまった。


「確かにデカいな。今の体格のままじゃ、勝てないな」


現在の俺の身長が百六十センチメートル。中学一年生にしては平均より少し大きめではあるが、中学サッカーで活躍するためには決して大きいとは言えない身長だ。

おそらくこの中学校のサッカー部の先輩を見ても、平均身長が170センチメートルくらいはありそうだ。

しかし、渡辺だけため息を吐き、やや不機嫌そうな顔で俺の顔を見てきた。


「二人ともわかっていないな」


「は?」


馬鹿にされたような気がして、反射的に渡辺を睨みつけた。いや、「ような気がした」わけじゃない。きっと渡辺は本当に俺たちに呆れていたのだろう。


「しっかりと見てみろよ。確かに先輩たちは体格をうまく利用しているのかもしれない」とここまで言い切った後、渡辺は「だが」と付け加えて、「ボールが来るまでの位置取りが上手い。跳ぶタイミングが上手い。ヘディングする時のコース分けが上手い。基本的な技術が高いレベルで行われているんだぜ」と言った。


俺はそれを聞いて、心臓に釘を刺されるように、鋭利なもので的確に急所を突かれた思いだった。

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