【番外編】 第十話
他校との練習試合を終え、互いに感謝の言葉を叫んだ。そして、俺たち一年生は自分の荷物の他に共有して利用しているサッカーボールやドリンクの容器、皿コーンなどをバスの中に積み込んでいた。
透真は自分のリュックサックとサッカー部共有の皿コーンを持ちながら、どこか遠くを眺めていた。俺は視線の先を追ったが、ちょうど草木が視線を遮り、何も見えなかった。
「どうしたの?透真」
俺がそう問いかけると、透真は俺の方へと視線を戻した。
「凌太。悪いんだけど、俺の荷物を持って先にバスに乗り込んでもらってもいいか?三分で戻る」
それだけ言い残すと、俺にリュックサックと皿コーンを渡して、数秒前まで向いていた視線の先に駆け抜けて行った。俺は思わず「トイレ?」と問いかけてしまったが、そんなはずはない。
俺は数歩だけ足を動かして、障害物だった草木を躱し、まるで敵城を探る忍者のように物陰に隠れながら透真の背中を視線だけで追った。
透真が向かっている先には、黒いベンチに腰を掛けた今井梨乃さんがいた。しかし、今井さんの姿が見えたのは僅か二秒ほどで、そのあとは透真の背中で隠れてしまった。
「あの!!」
透真の声が校舎にぶつかり、響く。
俺以外にも聞こえている人は何人かいると思う。だが、聞こえたのはそこまでだった。
透真の両肩が揺れていることから、話をしているのはわかる。本当ならもう一歩、もう一歩と近づいて会話の内容を聞きたかった。だけど、詮索はそれくらいにしておこう。
昼間に「戦術理解…………か」と呟いていた。きっと透真は何か考えがあるんだと思う。無暗に俺が足を突っ込んで、透真の顔に影が映る様子は見たくない。
俺は踵を返して、バスの方へと戻った。
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