第15話 何かに怯える子供たち

まえがき

13,14話に続き、フィスカ達とは別の視点です。

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 鶴橋陽ツルハシハルは混乱していた。


 敵の襲来という情報は陽の元へもすぐに伝わった。

 そして、動揺するハルをさらに混乱させたのは、この部隊の責任者でもあるサギのチームが、陽のいる端の列までわざわざやって来たことだった。


「こっ、これは鷺さん! お、お疲れ様です! 」

「ええ。 ところでどうです? 子供達は」

「はい! 全員揃って指示通り待機しています。 ただ、道路の方を見てなんだか怖がっていて……」

「子供達は、何か言っていましたか? 」

「はい! 黒いのが青いのにどうとか、看板しか無い場所を指さして……おそらく遊びか何かだと思いますが」


 鷺はなにやら満足気に

「黒に青…… 看板? なるほど、そうですか」


 そして続けて

「では、子供達を杭の向こう側へ 」

 と、引き連れてきた周りの人間に命令を出す。


 それを聞いた子供達は、顔を青白くした。

「いやだ! いいこにします、しごとも、かんりも、えさやりもします! だからおねがいです……。 やめて、ください 」

 幼い子供に似つかわしくない丁寧な物言い。

 涙こそ流していないが、涼やかな目で、鷺に必死で訴える。


 鷺の部下は子供の手を掴み、強引に杭の向こうへ引っ張る。


 陽は、杭の向こうには何かがあって、それは恐ろしいものなんだと、理解した。

 そう思えるほどの必死さを、子供から感じたからだ。


「あの、失礼ながら鷺さん、子供達が怯えています。 無理強いというのは………それに――」

「それに? なんですか?」

 ([かわいそうだ])と思ったが、陽には格上の立場である鷺を説得できるような言葉がすぐには出てこなかった。


「えっと、不要な危険は回避すべきというか……」

「危険? 貴女は、この先が危険だと思うのですか? 」

「はい、確信はないのですが、私にも先へは行くなとの命令がありますし……」


 流石はふぅと溜め息を吐くと

「なら大丈夫ですよ。 安心してください。 子供達は想像力豊かですからね、向こうにはんでしょう? 」


 とても穏やかな笑顔でそう言い、杭の隙間から1人の少年を向こう側に蹴り飛ばした。

「だめっ!! 」

 最後に一瞬、少年は陽に手を伸ばしたが

「ああああ! いたい! いたい! あぁ……」届かなかった。

 少年の悲痛な叫びが広がる。

 たった1,2メートル。 杭をひとつ挟んでいるだけなのに、こっち側とあっち側とではまるで違う空間なのだと、ハルは理解した。


「いやだ、いたい……おねがい、です たすけて 」

 さっきまで止めようという明確な意志があったのに……

 今も、自ら向こうへ行って助けようとは思ってはいるが、陽は一切動くことが出来なかった。




『ドゴンッ!! ドゴンッ!!』

「随分と! やってくれたじゃねぇか! 」

 紫色をした着ぐるみが、黄色い杭の向こうから吹き飛んできて、警察車両のトレーラーを激しく転がしたのは、その直後のことである。


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