第5話 ◆ヴァーサ◆紫の後輩
「あれ、やっぱりフィスカとその人、知り合いなんじゃないか? 」
「知り合いではないぞ勇旗。ヴァーサは私の後輩だ」
「世間ではそれを知り合いって言うんだよなぁ 」
「知り合いなんて、他人行儀な表現は好きじゃない。 まったく現代っ子はすぐに世間世間と…… 」
いつも以上にフィスカが饒舌じょうぜつなのは、偶然か?
はたまた後輩の前だからなのか。
フィスカと出会ってから少し経つが、フィスカのことも、それに着ぐるみが後輩の世界のことも、勇旗は知らない。
フィスカによってもたらされた非日常は、まだまだ彼女にとっては日常の
「しかしヴァーサ、衣替えをしたならそう言ってくれ」
「あぁ、そういえばまだだった」
(うん詳しいことは、追々聞いていこう )
「で? 行くってどこに? あてがあるのか? 」
勇旗はそっと窓を覗く。
閑散かんさんとしている住宅街には、人間の気配がまるで感じられない。
遠くに響く複数のサイレン音。 皆がそっと息を殺し、不自然を演じる、この世の終わりともとれる不気味な様相を呈していた。
ここへポリスメンが大挙してくるのも、時間の問題だろう。
「で? どこかいくあてはあるのか? ヴァーサ? 」
俺の言葉をしっかり流用して、着ぐるみを放したフィスカが訊ねる。
「お前も知らないのかよ」
(さっき『いこうか』って言ってたのに…… )
「新しい家が完成した。 ここから少しあるが、歩いて行けないこともないだろう 」
と答えるヴァーサさん。
「行くのはいいんですけど、歩いてって。 監視カメラとかまずいんじゃないですか? 」
即刻ポリスメンに囲まれるのは御免だ。
するとヴァーサは
「え、お前もついて来るのか? 」
「ひぇっ?! 」
(当然のように会話に参加したけど、そうか、ヴァーサさんとは初対面。そうなるのか)
急に寄る辺のない心地というか、恥ずかしいような悲しいような。
うわ、なんだこのひやひやする感じは………
「当然だ!! 勇旗はお前の同僚! 既に仲間へ取り込んであるんだからな! 」
フィスカの明るい声が、勇旗の不安を払った。
年下の少女に庇われ、安堵している。
若干情けないけど、ただただ嬉しい言葉だと、勇旗は思った。
ヴァーサさんが少し俯うつむく。
くくっと小さく体を揺すり、またもや沈黙ちんもく。
フィスカは決して怒っているわけではなかった。
ただ明るく、意気揚々と、そしてなぜか得意気に。
両手を腰にあて、しっかりポーズを決めながら。
ぱっちり開かれた、その青く輝く瞳は、希望のようなものに溢れていると俺は思った。
すると
「ぷっはっは、冗談だ。 お前もフィスカと同じくらい、からかい甲斐があるな。 なかなか良い絶望っぷりだったぞ 」
と首をこちらに回し、笑うヴァーサ。
急に力が抜けた
「なんだぁ、やめてくださいよ 」
「ふむ、まぁ私は、冗談だと最初から見抜いた上で、のったのだがな? 勇旗はやはりまだまだ――――」
「いや絶対嘘だろ 」
スカートの
「移動の話だったな? なら安心しろ、既すでに
そのタイミングを待っていたかのように、つけっぱなしだったテレビ画面が急に消え、時計が秒針を刻む音だけが残った。
ヴァーサはベランダの反対側、玄関の方へゆっくりと歩き出す。
勇旗は ダリタキガルって何? とか、どこが安心なの? とか
「土足で部屋にあがらないで欲しいなぁ」 と思った。
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