第6話 部屋 しゅっぱつ
駅から徒歩20分、13階建てで灰色の建物。
そこの10階に
見晴らしはマシな方だが、見えるのは汚れた街と大きな線路くらいで、楽しいものとは言えない。
『
トラッパーが公害なのか何なのかは、訊いても答えなかったが、退屈で味気のないこの部屋にも良いところはあったんだなぁ。
スニーカーを履いてはたと振り返れば、よどんだ景色の見える、色のない部屋。
玄関のドアを半分開けて振り返ると、なおのこと部屋に影が落ちて見えた。
俺はそこの真っ暗な玄関から、2人のカラフルなやつらと共に外へ出る。
時間はちょうど午後4時、雲も煙も少ない。珍しく良い天気だった。
「ところで、その家ってのはどの辺にあるんだ? 」
俺がいつもの調子でエレベーターの呼び出しボタンを押し、2人に訊く。
「なにをやっとるんだ! ばかもの! 」
フィスカから勇旗の腹部に強烈な右ストレートが炸裂した。
「ぶフぉ! 」
見た目に反するパワーに後ろへ数歩よろめく。
「何でいきなり殴った?! 」
「自分で考えないと力がつかんぞ勇旗! 」
腕を組み、どっかで聞いたようなフレーズを口にするフィスカ。
(やっぱりフィスカのテンションが高い。 いきなり俺をパンチすることなんて今まで――――いやあったわ)
おやつのこととなると、あいつは割りとアグレッシブ。
揉めるたびに勇旗は「パッつん前髪の少女には、美味しいおやつがよく似合う」と自分に言いきかせて自分の機嫌をとってきた。
勇旗が1人で考え込んだり、頷いたりする様子を見たヴァーサが
「カメラだ。 ここのエレベーターのカメラは非常用システムに繋がっているからな。 あれはダリタキガルで壊すとコスパが悪いんだ。 街頭カメラの方は別に良いのだが…… 」
とフィスカの代わりに答える。
「はぁ、そうですか」
ダリタキガルが何か知らない勇旗としては、答えになっていない気がしないでもないが……………。
「まぁ、カメラは確かにそうだ。迂闊だった。 じゃあ、階段か?面倒だけどちゃっちゃと降りちゃおうぜ」
俺が、通路の奥にある階段を指して言うと
「そんなことをしなくても、もっと楽しい方法があるぞ! さあ頼んだヴァーサ! 」
「へ?」
そのまま中庭の真上の手すりに立つと
フィスカがニヤニヤと可愛らしい笑みを浮かべた。
やはり良い前髪をしている。
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