第4話 ◆紫のプレイリードッグ◆
なんということでしょう、殺風景で色の少ない部屋に、鮮やかな二つの紫。
フィスカの満足そうな表情も相まって、なかなか悪くない構図に。
「てか、なんでこいつは満足げなんだよ 」
しかし、こうしてみるとなんだか親子みたいだと勇旗は思った。
着ぐるみの紫と、フィスカの淡藤色の髪はどことなく近いものを感じるし、両者のサイズ感もそんなところだ。
「怪物に変えられた親と、再会した娘か…… は! もしや中の人もパッつんなのでは?! 」
パッつんの似合う大人なんて学術的探求心が留まるところを知りませんね!
俺が感動的な前髪ストーリーで現実から逃避していると
『シャラララ』
と着ぐるみの腰から快活な電子音が鳴った。
勇旗は一瞬びくっと驚き我に返る。
「狐から着信音…… 」勇旗が呟くと
「プレイリードッグだ 」低めだが、クリアでよく通る声だ。
「プレイリードッグ? 」
着ぐるみの声は、男のものだった。 あぁ、パッつんの夢は散りにけり。
「悪いが少年。 右ポケットから通信機をとって、でてくれないか? 今は手が離せんのだ」
「えっ?! 俺ですか? 」
「…………」
(二度は言わないってか? )
着ぐるみは正面を向き、フィスカをホールドしたまま動かない。
(怒らせても怖いし、ここは素直に従っておくべきか )
視線で様子を伺いながらポケットに手を突っ込むと、なんだか嫌な温もりがある。
小声で むふんむふん と、くすぐったそうな声をこぼさないで欲しい。
おじさんのそういうのは求めてないから、マジで。
着ぐるみのポケットは浅く、すぐにそれは見つかった。
通信機と言っていたが、一般的なスマホと同じ型だ。
勇旗は縦長のスクリーンを指で上にスワイプし、通話に応じる。
『こちらリエットぉ!! おい! フィスカはもう捕まえたか! 』
ノイズ混じりの大音量が部屋に木霊する。
特徴のある高い声、電話口の向こうは若い女性のようだった。
勇旗は、スマホを着ぐるみの口に向けながら
「と、言ってますけど……?」
「あぁ。捕まえたから予定通り戻る」
『なんだぁ?! よく聞こえねぇ! もっとでっかくしゃべれ! 』
「えっと、捕まえたから戻るそうで―――― 」
『んん! 誰だお前はぁ! む、戻るって予定通りでいいのか?! おい! 』
その強い口調に思わず勇旗はへりくだって
「ハイ! 予定通りだそうです! ハイ! 本人は手が離せないらしくて、僕が代わりに――― 」
『んなこた分かってんだよ!! いいから早くしろよな! 』
ブチっ と通話が切れた。
ええ!? めっちゃ怒られたんですけど!
親切に内容を伝えてやったのに!
なんか、すごく嫌な感じだ!
勇旗はモヤモヤした感情を顔に出して眉をひそめ、理不尽に打ちひしがれながら、着ぐるみのポケットに携帯を戻す。
着ぐるみは一切動じていない。
きっと普段からこんなやり取りをしているのだろう。
いや、顔が見えないだけで、ほんとは呆れているかもしれないけれども。 そんな雰囲気だった。
そういえばさっき、捕まえたとかなんとか………
「はっ! まさか警察の!? 」
誰もリアクションしてくれない。
フィスカが着ぐるみのお腹に顔を埋めて、モコモコを握って楽しんでいるのみ。
そんな静寂の中
「じゃあ、いこうか」
と切り出したのはフィスカだ。
どうやら着ぐるみとは友好関係を結んだ模様。
「ハグか? これがハグの力なのか? 」
……… まぁ、違うよな。
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