第18話 広場に向けて走れ!

『裏道からまわりヴァーサと合流! フィスカもトラッパー回収に加わってくれ! 』

 リエットの指示により、勇旗ユウキとフィスカは大通りの一本隣にある細道から、ヴァーサの向かった広場の方へと移動することとなった。


  2体だと思っていた青い影は、そこかしこに居て、人形のようなものや、まるで色の濃い霧のように形の無いもの、伸ばしたホットケーキ生地のように地面を這いずり回ってるものと様々だ。


それらは勇旗ユウキとフィスカが横を走り抜けるとき、通り過ぎ様にうつろなうめき声をあげる。


「こんなのが居るなんて、もう別世界だ。 夢でもみてるのか」

勇旗ユウキが家でぐうたらしてる間に生態系が変わったんだね」

「そんな地球の生態系が変わっちゃう程、引きこもっていた覚えは無い! 」

 

 フィスカは道をつくるのに必要な最小限の対象、進路上にいる影にだけ赤い玉を投げつけ、砕いていく。


 いつもならあっという間に駅前まで到着するはずの道が、とても長く思える。

 左手には高い建物群と、それに続く冷たい灰色の石の階段。 右には小さな店がごたごたと並び、そのどれもが今は薄汚れたのシャッターを下ろしている。


 俺の前を元気に走る淡藤色あわふじいろの髪は、殺風景な小路こみちに良く目立ち、砕けた敵の青い欠片かけらが舞い散る度に、その鮮やかさを際立たせる。


「にしても凄い音だな…… ねぇ今銃声も聞こえなかった?! そんな所に突撃するの?! 死んじゃわない?! 」

「大丈夫だ、私もヴァーサも、その程度で死んだりはしない! 」

「俺は?! 一般市民の流石勇旗サスガユウキにも注目して!? 」


「見えた! でっかい車の上に登っている! 」

 いよいよ駅前広場が近くになると、ひっくり返ったトレーラーの上で、無数の青い影と格闘中のヴァーサが見えた。

 影はさっきより大きいものが居る。


「これは…… 」

 勇旗は広場の状況を一目見て息を飲んだ。


 トレーラーだけではない、何台もの車が横倒しになり、電灯や信号機の一部は壊れて、千切れた電線から火花を散らしている。

 最近舗装されたばかりのアスファルトはめくれ上がり、あちこちにひび割れが出来ていた。


 何人もの大人が地面に倒れ、あるいは座り込むように首を垂れ、動く者はいない。

 そいつらの手元にある銃は、もう機能していないらしかった。

 微かに意識のある者も皆、じっとトレーラーの上を見上げている。


 フィスカがすかさず、ヴァーサに向かって赤い玉をばらまく。

 一直線に飛んだ玉は、何体かの青い影に命中して、その形を崩してゆく。


「ヴァーサ! 撤収だ! 」

 フィスカが声をかけると、包囲網にできた隙間から、ヴァーサが飛び降りてきた。


「フッは 助かった、そろそろ限界だな」

 ヴァーサもさすがにボロボロだ。

 あちこちに傷を作り、赤い血を流して――

「って! 血?! 着ぐるみなのに?! 」

「こっちも殆ど弾が残っていない。 ん? ヴァーサ、そいつらは…… 」

 驚く勇旗をよそに、フィスカが問いかける。


 見ればヴァーサの両脇には、小さな女の子と、もう1人。

 歳は勇旗と同じくらいだろうか? うつ伏せの女性が荷物をかかえるように収まっていた。

 どうやら、この子達がいたから、身動きを取れずにいたらしい。


「例のこどもの生き残りと、その横にいた奴だ」

「む! トラッパーはともかく、その服は敵のものではないか! 」

「いや、良いんだ。 こいつはもう我々と――!! 」

 【タンッ】と轟く銃声。

 ヴァーサが喋り終わる前に、鋭い音をたて、着ぐるみに銃弾が命中した。


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