第19話 窮地に国宝ぱっつん前髪

 カッと橙の火花が光り、『キィン』 という衝撃音が荒れ果てた広場に木霊する。


 それは弾丸だった。

 とても着ぐるみに当たって跳弾した時の音とは思えないが、その音の大きさは、その衝撃が凄まじいものだったと語っている。


「撤収? やめてください」


 声の方を見ると、茶色のコートを羽織った糸目の男が、此方を向いてニヤニヤと微笑ほほえんでいた。 その手の銃口は次の発砲の為に、勇旗ユウキたちの方へと向けられている。

「チッ 」と舌打ちをする紫色のプレイリードッグヴァーサ

 ヴァーサはそのまま、男の方へ勢い良く跳ねる。


 ゴンっとヴァーサの繰り出した右足の蹴りが、細目の男の胴体に直撃する。

 しかし、男は余裕綽々よゆうしゃくしゃくといった様子で、びくともしない。


「蹴り! すごっ…… でも全然きいてねぇ! 」

 勇旗が思ったままの感想を言っていると、隣のフィスカが

「はやすぎるな…… 」

「速いってなんだ? ヴァーサの動きがか? 」


 フィスカは両手を腰に当てたポーズをとりながら

「あの痩せ男め、ヴァーサの攻撃を受けたのに、処理がはやすぎる。 あれは相当なダリタキガルを保有しているな……。 この場の惨状、おそらくヴァーサによるものだけではない。 犠牲はいとわないか…… 」

 とその腰の手で、服のすそをぎゅっと握りしめた。


 次々と打ち込まれるヴァーサの腕の攻撃も、さも当然のようにはじかれた。

 フィスカも打つ手が無いのだろうか、戦闘をその大きく蒼い瞳でにらみながら、うーうー歯がゆそうにうなっている。


 ん? 後ろからも唸り声が?

「げっ! 青い奴がこんなに! 」


 のろい動きだったから油断していた。

 もう追いついてきたのか。


「なんかわかんないけど、とにかくどうにか逃げよう? フィスカ、さっきの赤い球は? 」

「ぐぬぬ、実は……もう無い 」

「じゃあ他に仲間とか?! リエットみたいな 」

「おそらくはリエットもこちらの危機を察知しているはず、援軍にもあてはあるのだが…… 」

「なら時間さえ稼げれば? 青い奴、球を使わずに追い払えないのか? 」

「いや、あれを追い払うことは出来ない。 それに、援護を呼んでいるのは敵も同じだろう。 そしておそらく、先に到着するのは敵方だ」


(打つ手なしか)

 青に囲まれたこの場所には状況も何も理解してない勇旗ユウキと、パッつん前髪のフィスカが1人あるのみ……。

「ああ、足元に転がっている2人も合わせたら4人か…… 」

 勇旗ふとその足元を見る。


 ……。 なんてこった!

 俺はとんでもないことに気付いてしまった。

 手が震える。

 背後の青い影も気にせず、一歩後ずさり。


 さっきまでうつ伏していたから分からなかったけど、この倒れた少女!


「ポニーテール&パッつん前髪にパッつん巨乳の二段構えっ、だとっ!? 」

 これは、なんということか。


 天は二物を与えないなんてことはなかった!

 あるところには、あるんだよなぁぁぁ!!

 神様はあんまり信じないんだけど、今この時ばかりは信じざるを得ない!


 子供のような愛嬌を残しつつも、大人の華やかさを宿しつつある二重まぶた。

 まだ新しい軍服は、その前髪の直線と、胸部の曲線とのコントラストに、新緑の香りを吹き付けたような爽やかさを加えている。

 軍人には思えぬ細い手首と柔らかそうな手のひらは、丁寧に磨き上げられた雪像のような輝きと、陽光のような温かみを感じさせ、そしてその全てが、彼女の前髪を引き立ている!!


「これはまさに国宝級の……!! 」


「それだっ!!」

 急にフィスカが叫ぶ。

 フィスカは、笑みを浮かべた。

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