第9話 到着? 高架下の異変

 なんだよ、お前もチョコ苦いんじゃねぇかよ。

「見極めるって何を? 」

「むぅ、そんなものは、見ていればわかる! これ以上は言わない 」


 そう言って、ほっぺたを膨らませるフィスカ。

 パッつんの直線に、頬の描く曲線がなんとも数学的な可愛いらしさ。

 これを黄金比と呼ぶのか?

 あの丸いほっぺには、パッつんへの夢と希望が詰まっているのだろうと勇旗は考えた。


 フィスカは一度言わないと決めたら言わない。そんな奴だ。

 勇旗はあっさりと質問を変えて

「どうして俺達はこんなに堂々と道を歩いて平気なんだ? 」

 先ほどから検問所や警察車列は遠くに見かけるが、全く感知されていない。


「それは、リエットとダリタキガルによる! 」

 今度も質問に答えたのはフィスカだ。

「その……ダリタキガルって何だ? 食べ物―― じゃないんだろ? 」

 チョコの包み紙を折り畳みながら尋ねた。

「きおくじょうほうたい」

「記憶情報体? 」

 フィスカは何やら思案顔で

 歩道と車道の境に建っているポールの頭を、てのひらでぺしぺしと叩きながら歩く。


 ふいに低い男の声で

「興味があるなら、そういうのは、リエットに訊いた方が良い 」

 とヴァーサが口を挟むと、フィスカも「そうだな 」と納得した様子で、うんうん相槌を打つ。

 パッつんの両サイドに流れる淡藤色あわふじいろの髪がサラサラと揺れた。


「リエット? あぁ、さっきの電話の人か」

 なんだか気が荒らそうだし、正直しょうじき気乗りがしない………… けど、その人が1番よく知ってるなら、訊くか。 「なんだかすぐに会えそうな気もする」

 希望的ではない。 あくまでも(いやだなぁ)というニュアンスを込めて勇旗は呟いた。


「じゃあ盗―――」

と、俺が再び口を開いたところで

「なんだ、また質問か?! 今日はしつもんばっかりで疲れた~ 」

フィスカが声を上げる。


「いや、だって……」

「知らぬことがそんなに嫌か? 私もヴァーサも、勇旗の無知を馬鹿になどしないというのに。 洞察力を鍛えろ! 少しは目をつぶって飛び込んでみろ! 」

 怒られてしまった。


 少女に次々質問をぶつけるのは、良くなかったかもしれない。

 説明ばかりさせてしまったか。

 でもこっちだって、散々振り回されたんだ。

 知る権利というものがあるだろう。


 気付くと、さっきまで隣にいたフィスカは、ヴァーサよりも先を歩いている。

 背中からだけでは、まだ怒っているのか、それとも気にしていないのか読み取れない。


「やっぱり、それもリエット って人に聞いてみるか 」

 俺は少しスピードを上げ、2人の背中を追う。




 しばらくして、高校近くの住宅街に入った。

「なぁ、こんなに開けた場所に近づくのは危険なんじゃないのか? 」

 まだ込み入ったエリアにいるが、これ以上進めば大通り出て、さすがに目立ってしまう。 勇旗が着ぐるみに声をかけると

「ここだ」

「ここ? え、到着? 」

 広い通りの手前、高架下まで着たところで、歩みが止まった。

 ヴァーサは辺りの様子を、まるで何かの痕跡を捜すように、入念に観察し始める。

「これは……しかし…… こんなタイミングでか」とフィスカ。

 何かあったのだろうか。勇旗も地面に目を凝らすが、コンクリートについた染み汚れがあるばかり、見慣れた光景だった。


 耳を澄ますと、ガタガタと音が聞こえた。 電車ではない。

 駅の方からだ。おそらく警察なんかが騒いでいるのだろう。




 ヴァーサは腰のポケットに手を入れる。

「緊急だ。 ここからは私だけで行く。 フィスカは少年を頼むぞ 」

 引き上げられたヴァーサの右手にはスマホを、そして左手には黒くてキラキラ輝く得体のしれない物質、フィスカが盗んできてしまった黒い石が握られていた。


 ヴァーサは振り返らないままで

「ダリタキガルを集めてトラッパーを回収する」

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