第11話 地面から這出るもの。踵を突き立てろ!

「フィスカ」

「わかった。 気を付けろ、ヴァーサ」


 短く言葉を交わしたフィスカは黒い石を胸の前で握ったまま、十数歩下がってヴァーサとの距離をとる。

勇旗ユウキ、こっちに 」と手でおいでおいでをする少女の右隣に

「なんだ? 」と勇旗は移動する。


「良く目を凝らしておくように 」

「? 」

 フィスカは真っ直ぐ、ヴァーサの方を向いている。

 シャキッと伸びた背筋に、パッつんの前髪と、風が吹く度たびに見えかくれする耳元が、可憐かれんな愛らしさ満載だ。


 勇旗も視線をヴァーサのいる前方へ移す。

 着ぐるみは両手を挙げて背伸びしてから、右足を大きく振り上げる。

 そして勢いよく、地面にかかとを突き立てた。


【カーン】という金属音が高架下こうかした木霊こだまする。


 次の瞬間には、場の異変が勇旗にもわかった。

「地面から……… なにか出てきた? 」


 コンクリートに突如として出来た真っ黒な染みからフツフツと、染みと同じ色の物体がわき出て来る。

「はっ!? 気持ち悪っ! 」


 大きさは子供の手のひらと同じぐらい、10センチ程だろうか。

 完全に地面からい出た黒い物体には、2本の腕があり、後ろ足が無いカエルのような見た目で、その体をズルズルと引きずりながらヴァーサの方へ近づいていく。


 黒い染みはそこかしこで生じている。

 黒い物体が通った跡にも、染みが出来て、そこからまた同じ生物がわき出て来る。

 これは、絶対に触ったらヤバイやつだ! と直感した勇旗ユウキ

「おい! ヴァーサが危ないぞ! 」

「落ちつけ。 あれは大丈夫だ。 下手すれば死ぬけど 」

「ほんとに?! 死ぬと大丈夫って真逆だよ?! 」

『おい! どうなった! 私にも教えろ! 』

(そういえば、リエットとの通信を切っていなかった)


 ヴァーサに真っ黒な物体が押し寄せ、足元からおおわれていく。

 もう体の紫色はほとんど見えなくなった。 身動みうごきはとれるのだろうか。


「まったく、そんなに騒ぐものじゃない。 だめだぞ勇旗」

「そんな言ったってフィスカ! 」

「黒い奴の狙いが勇旗に移るから 」

「(そっれを先に言え!! ) 」

 全力の小声、ほとんど音が無いような声で勇旗は訴える。

『おい!! 黒だったのか!! なぁ!! 』

「(頼っむから静かにしろ!) 」勇旗は咄嗟とっさにスマホのスピーカー部分を手で抑えた。

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