第14話 ◆鷺◆サギ

まえがき

14話も13話に続き、フィスカ達とは別の視点です。

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 ハルはふと、子供達の目が同じ1箇所を見つめていることに気付く。

 学校の制服のような衣装の子供達は皆が一様に、悲しげとも諦めともとれる曇った表情をしていて、まばたきをする以外は一切動かない。


 年齢不相応に大人しい彼、彼女かれ、かのじょらを見るうちに、ハルもなんだか無言の空間にもどかしくなった。

「ねぇ、君たちは何を見ているのかな? あの看板? 」

 【話しかけろ】なんて命令は出ていなかったが、陽はくいの向こうにある、赤く派手な広告を指差して声をかけてみる。


 すると、陽の一番近くに居た少年の一人がゆっくりと首をこちらに向け

「…………いつも、報告しているものと、同じです」

 その表情を崩すことなく、ぼそぼそと返事をする。

ハルも言われた場所を見てみるが、なんら変わりないアスファルト道路である。


「え、えぇっと、じゃあ、道路のこと、かな? まぁ、この状況じゃあボーッと地面を見るくらいしかすることないもんね。 あはは…… 」

 必死なハルの明るい調子の言葉に対し、少年はより一層その表情を曇らせ、震えながら

「……黒いのが、青い……に、引き、ちぎられて………」

「いやいや、何を言ってるの? そんなの―― 」

 ハルはそういいながら目を細めて、道の先をみるが、看板とゴミ箱しか見つけられない。

 再び子供達に振り替えると、さっきまで会話してくれた少年も含め、みんな道路を向き、食い入るようにまた何かを見つめていた。


 それ以降は、誰も陽に返事をしてくれなかった。



 一方、陽の配置から遠い、偉ぶった髭の男の座るテントでは

「して、指名手配中のについては? こちらから移動して追うべきでしょうか? 」

 隊列の前とは態度を一変させた偉そうな髭の男が、さらに立場が上とみられる男にへりくだっていた。


「手配中の男? ……あぁ、あれは追いかけなくて大丈夫です。 なにより今は、より多く回収するのが優先ですから」

「それでサギさん、回収っていうのは? 何をともどうやってとも指令文書にはないのですが…… 」

「それも気にしないでください。 貴方あなた方にはその後の【妨害者の排除】についてお願いしたいのです 」


サギと呼ばれる男は、背の高く痩せた美丈夫で、クシャッとしたパーマのかかった髪に、細い目元が特徴的である。


 サギは焦げ茶のコートのポケットに両手を入れ、ふらふらとモニターに近付くと、細い目をさらに細めて画面に顔を寄せる。

 そして突然

「配置に着け 」


 先程までのゆったりした感じとは違う、短く冷たい言葉だった。

 髭男はびくっと驚くと、慌ててテントを飛び出し、外の人間に指示をする。


「さて、私も準備ですね 」

 鷺は再び落ち着いた様子でそう呟くと、ゆっくりテントの外へ歩いていった。

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