第二十九話 拝謁
「恐れながら、挨拶が済むまでは、どうかそのままで」
「しょうがないのぅ」
そうして
「さて、
ゲンタもカヤも、ちらりと
頭を下げたままではよく分からないが、恐らく
「大久保殿、もうよい。
「は、しかし……」
「俺も構わないぞ」
もう一つ聞こえた重々しい声は、
三人の顔は未だゲンタとカヤには見えないが、少なくとも
何かしらの布が畳と擦れる音、そのすぐあとに軽い物の当たる音がして、また布が畳に擦れる音が遠ざかってゆく。
「
この少し低い声は
ゲンタとカヤは無言で顔を上げ、上体を起こして様子を探る。けれど、視線は合わせない。
二人の視線の先、上段の間左には真白な
上段の間右へと視線を移せば、そこにいたのは、どことなく先ほどの若い男と似ている中年の男だった。しかし、顔も体格もがっしりとしていて、纏っている
最後に上段の間の手前、ゲンタとカヤから見て向かって右手にいるのが、
「
「おう」
「では、ゲンタとカヤ、そう固くならずともよい。これから重要な話をするのに、それでは頭に入らぬであろう」
「恐れ多いことにございますれば」
「では、お主に
「は、はは。畏まりましてございます」
ゲンタとって帝とは、話すことはおろか、顔を見ることすら許されぬ、正しく雲上の人なのだ。いくら命令とはいえ、そのように返事をすることだけで精一杯だった。
「そちら、カヤは息災であったか?」
「はい。薬屋の若旦那も無事そうで良かった」
「ふふふ、そうであろう、そうであろう。それにしてもゲンタもカヤのように話せればいいんだがのぅ。朝廷のしきたりに染まりおって」
「ところで若旦那は都には帰らないの?」
そういうことだから、このような口をきくカヤの心がさっぱり理解できず、ゲンタは胃を握り潰されているような気分なのである。
「それがなあ、
「うん、分かった」
「
「うん? ああ、もちろん」
「ゲンタにカヤだったか。いい
「はは」
それから、
「では、私から状況を説明し申す。
聞けば、大火の背後に逆臣ありと、こちらに保護を求めてきての。こちらも断る理由がないゆえ、こうして最大限の配慮をしておるのだ。
そのような折、手の者から面を被った
大久保の口から
そのほんの少しの静寂は、場違いに陽気な声によって一変する。
「うむ。
自身がどれだけ突拍子もないことを言っているのかも知らぬ風に。
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