最終話 噤呪
「予想以上に
それぞれの役割を背負い、七名は再び死地に突入した。
「運べ、
まずは
「導け、死出の蝶」
声とともに無数の蝶が現れ、空間を
だが、この蝶もそこに漂うだけで、すぐに
では、なんのために出したというのか。
蝶の半分は彼らの前を舞うように飛んでいて、道案内をしているようにも見えたのだが、すぐに別の目的があることが分かった。
「
そのとき、蝶が舞った。
黒々とした蝶が黒々と燃える竜に立ち塞がり、ぶつかったかと思うと、吸収していく。竜に、ではなく、次々と放たれる黒炎の竜が、無数の蝶に吸収されて消えていく。
蝶も数を減らしていくが、全体の数からすれば微々たるもの。しかし、意志を奪われているとはいえ、それでもなお同じ術を放ち続けるほど、
彼は二枚の呪符を宙に放ち、静かに唱える。
「
あろうことか、洞窟内に雷鳴が轟きわたり、全ての光を吸い込むような昏い紫電が二度
だというのに、その様子を眺めている
なぜか。
じきに、
しかし、彼らの前を行く蝶の数が減っていた。
けれど、それだけだ。
「父上!」
傲慢にも紫電で対処できると思っていた
そこへ狙いすました鬼の手が二つ飛ぶ。
これもストンと着地して躱された。実に人間離れした動きである。
だが、まだ仕掛けは続く。遊兵を作る余裕などあろうはずもない。
大上段に構えた
その渾身と思える一振りを避けたところへ、今度は
即座にそれを見抜くも、躱すこと
その瞬間、カヤが短く声を発した。
「アタシはそれを否定する」
消えた。仄かに光る五芒の星が、跡形もなく。まるで初めから現れていなかったかのように。
慌てて横に動く
いかに神に
そして、
しかし、彼の中では
――今ならば。
式神の
「掛けまくも
ちはやぶる
「ノウモボタヤ、ノウモタラマヤ、ノウモソウキャ、タニヤタ」
この広い空間を満たすのは、神へ捧げる声の波と、
やがて、
しかしカヤは一瞬、呆けたように虚空を見つめただけで、動じなかった。
次に、死出の蝶が鳴いた。
そして、
その手に持つは二枚の呪符。
「
すぐに男のものとも女のものとも知れぬ
直後に立ち昇るは黒い
間を置かず、
「させるか!」
言うが早いか、
「アタシはそれを否定する」
カヤの声がしたが、今更結界を解除したところで手遅れで、はらはらと落ちてゆく
だが、その直後に
力なく落ちてゆく
それでもなお、
天井近くを飛ぶ
成ったのだ。
彼の
「ノウモラカタン、ゴラダラ、バラシヤトニバ、サンマンテイノウ、ナシヤソニシヤソ、ノウマクハタナン、ソワカ。オン、マユラギランデイ、ソワカ。オン、マユラギランデイ、ソワカ。オン、マユラギランデイ、ソワカ!」
両の手をピタリと合わせたゲンタとカヤと、片手で刀印を作る
このまま順調にいくと、誰もがそう思っていた。
「
黒い靄が、
「
黒い靄が再び
「
三度
「くそったれ!」
黒い靄は立ち上がり、夢の中のようにゆっくり歩き始める。
その先には、気を失ったカヤが倒れていた。
「カヤ! 起きろ!」
「くそ! ゲンタ! カヤを起こせ!」
ゲンタが目を開いた。起き上がれぬままに、のそりのそりと動く黒い靄を見た。
次にゲンタは
鬼の手はどうか。鬼の手は、問題なく出せる。試しに、黒い靄を殴ってみたが、虚しく通り過ぎるだけだった。
あれは、在り方が違うのだとゲンタは悟る。
「カヤ! 起きろ!」
今度はゲンタが叫んだ。
叫び、器用に鬼の手でカヤの体を揺する。
黒い靄がのそりのそりと近づいて、もうあと数歩もない。
そこで、カヤが目を覚ました。バタバタと手足だけを動かしている。
「カヤ! なんでもいいから否定しろ!」
そんなゲンタの言い草に、しかし、カヤは彼が想像していなかった言葉で実行に移した。
「
一瞬、ゲンタはどうしてカヤがそんなことを言ったのか分からなかった。
だが、今まで押さえつけていた力は完全にではないが消え失せ、どうにか立てるようになっていた。
他の面々もよろよろと立ち上がる。
しかし、もう時間がないのだ。
よろよろと立ち上がる
「うおぉぉぉ!」
ゲンタが雄叫びを上げ、気力を奮い起こす。
そして、鬼の手に剣を持たせた。青白く輝く
剣を持った黒く大きな手は、黒い靄の頭上を舞う。
「カヤ、避けろ!」
カヤは反射的に後ずさり、目の前を鬼の手がかすめる。
青白く輝く
黒い靄が
そうして最後に頭だけとなったとき、その靄は、カヤを見ては何かを話そうとして口を開け、けれど何も言葉を紡げないまま、地中に消えた。
ついに、終わったのだ。
「
「ええ、約束通りに」
庵原と左兵衛が
そのときカヤが不意に
「父ちゃんと母ちゃんの
カヤが涙をこぼしながら叫び、唇を噛みしめて震える。
ゲンタはカヤから反射的に短刀を取り上げようとして、
後ろでゴトリと音がした。
ゲンタが振り返ると、
傍には
ゲンタは突然のことに、何をすべきか分からなくなり、一瞬立ち尽くした。
天井から水滴が落ちてきて、彼の
水滴はあっという間に滝となり、川となり、大きな音とともに天井が割れた。
「カヤ、掴まれ!」
「ゲンタ!」
大量の水が流れ込み、七人も、弓削の頭も、かつて
* * *
それから三年が経った。
実際の政治は
なお、大久保
天球は相変わらず
争乱に巻き込まれた都も村々も、この三年の間で復興が進み、それは
「ゲンタ、アタシと勝負しろ!」
「あたしとしょーぶしろ」
「お前も母親になったんだから、少しは大人になれ」
けれど、その手は別の小さな手を握っていて、勝負の後は三人で決まって
『噤呪の巫女』 ―完―
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