第二章 比良
第九話 老沼
昔、この島に名前はなかったが、千五百年ほど前に
と、正伝にあるが、この島は葦が多く茂ることから、元々
そして、この島のちょうど中心に
小高い山から見たその形は、人によればダイダラボッチの右足の跡だと言い、また別の者によれば、巨大な勾玉だとも言う。つまり、南は幅が狭く、北にいくにつれて幅が広くなり、その中ほどで西側が大きくくびれているのだ。
その干上がらぬ水があれば、飲むにも食糧にも事欠かず、
けれど、長く続いた帝――代々、白帝と名乗っている――の温和な統一支配も、つい百年ほど前に突如崩れ去った。
島の東端、とある貧しい集落を丸ごと移転させるという仕置きにその端を発した反乱は、やがて手が付けられないほど大きくなる。朝廷が手をこまねいている間に、反乱の首謀者は遂に王を名乗り、
以来、百年もの長きに亘り、
けれど、
だからと言って、
この百年間、ただそれだけのことだった。
* * *
「参れ、
坊主頭の
彼ら
進んでいたというと何やら勇ましいものだが、朝廷の追手から逃亡している、という言い方が適切だろう。
月明かりも白けるほどに夜霧が残る
だから
その甲斐あってか、舟を操っている剣士の
「庵原殿、
そのように発言したのは、
それ故に、神や祭祀に関わる彼の知識の量は人並みではなく、尋常ではなく、修めるべき型も既にない。
だからこそ、己の学の範疇であると思った事物に対しては、並々ならぬ好奇心を抱くのだ。
信仰に篤い者など、それだけで尊敬してやまないであろうし、事実、庵原も左兵衛も、大変に図書の知識を頼りにしているのだが、どんなものにも程度というものがある。
彼の普段の行状をよく知る庵原などから言わせれば、頼りにしてはいるが、図書はやはりどこまでも奇人なのだ。
それだけに、知識を求められたときの返答には気を遣わなければならない。矢継ぎ早に質問を繰り出されれば、いかに長いこと寝食をともにしている仲と言えど、どちらかが癇癪を起して関係がおしまいになってしまうこともないとはいえない。
庵原としては、図書も含めて今の天球をとても気に入っているからして、誰かがいなくなることはご免こうむりたい。
「……
「それで、ゲンタを蒲原
「その通りだ。なぜゲンタに伝えられたのかは分からぬが、だが、効果のほどは見たそのままだ。鬼の力を借りて外に宿す。見た目は分かり辛いが、それだけに実戦に向いている」
「外に宿す……とすると内に宿すことも?」
「あるにはあるが、そいつは
「ふむ。
「あ、……ああ、そうだな」
「もしや、庵原殿、忘れていたので?」
「そ、そ、そんなことはないぞ?」
庵原とて忘れていたわけではないが、原因が分からないこともあって、頭の片隅に追いやっていたことは否めなかった。だから胸を張って忘れていないと言うこともできず、狼狽してしまうのだ。対して図書は、未知のものが目の前に現れたときからずっと気にかけていたのだろう。それが善意ではなく、純然たる好奇心からくるものであったとしても、大したものだと庵原は感慨深く思った。
けれど、それも中断された。
何かを感じ取ったのか、庵原の顔はすぐに険しいものへと変わる。
左兵衛が「どうした?」と無造作に問えば、空へ放った
こちらは火も焚かずに
「追手か?」
自然、天球の面々は小声になろうというもの。
「それは分からん。だが、この時期に集団で漁を行なうことなどは聞いたことがない。ならば、見つからないに越したことはないだろう」
「
庵原の
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