浅い記憶と監禁
『玲、人に優しいことはすごく良いことだけれど、それはいずれ自分の身を滅ぼすことに
なりかねないのよ』
幼い頃、王妃である母に何度も言われた言葉。
母は百合のように優しく、
『、、、貴方は生まれた時から王の子として生きているけれど、今あった生活が突然変わってしまうかもしれない。そんなとき、貴方は強く
勇ましく、胸を張って生きなさい。
、、、とは言っても貴方は環境適応能力があるから大丈夫だろうけどね』
と曖昧に微笑んだ。
もともとは一般人だった母の、実体験からのアドバイスだろう。このアドバイスは、今
このときのためにあるのだろうと思う。
少女はこんな母が大好きだった。
父もまた、少女を心から愛していた。普段は少し表情が乏しいこともあるが、言葉の端々から滲み出る愛は、しっかり少女に届いていた。堅実で、国民の信頼も厚い父がこう言った時は驚いた。
『私はお前を甘やかしすぎた。お前は自分の短所に気づけないからな』
自分の、短所。そんなの分かっている。
危機感が薄く、楽観的。
親しい友にさえ注意されたことだ。
父が思っているほど、私は馬鹿ではない。(かもしれないが)
母も父も、私の身を案じている。
それは愛故、少女は嬉しく思っていた。
それなのになぜ、この星に飛ばしたのか?
今、私自身はこの状況を一種の社会見学だと
思っている。
実際いい勉強になるし、戻ったときにこの経験が活かせそうだ。
あのときの父は、なぜか言葉を遮った。
そして私を気づかぬ間に地球へ送り飛ばした。ただ機嫌が悪いだけでは、こんなことを
する人ではない。
でも、今思えば私が日本語を話せるのも
父の英才教育のお陰かもしれない。
昔からさまざまな言語の勉強はさせられていたが、とくにこの地球の言葉は重点的に教わっていた。10歳までには細かい言語の癖まで、話せるようになった。
ややもすると、この星に飛ばしたのも全て
私の幼い頃からの計画――?
そこまで考えたところで、少女の思考回路は
ショートした。それこそぷつん、と。
少女は考えることが苦手なのだ。
****
「、、、みや」
「へひゃっ?!、、、」
「星宮!!!」
どうやら寝ていたらしい。
目の前にはすっかり憤慨した小瀧が立っていた。目が吊り上がり、仁王立ちするさまは、まさにこの国の妖怪、鬼のようだな、なんてぼんやり考えていたらまたギロリと睨まれた。玲は先日のテストから小瀧にマークされ、目をつけられている。
「お前、この前のやらかしもう忘れたのか?まったく、、、何度言えばわかる?話を聞け」
「、、、なんでしたっけ?」
「お前、、、少しは学習しろ!!この前理科室
爆破しただろう」
「ばっ爆破なんて人聞きが悪いですよ!
ちょっとだけどっかーんってしただけです」
なんて否定しているが、実はそうなのだ。
この前実験で、液体を混ぜてはいけない液体に混ぜ、大爆発した。とはいってもぼぉぉんと爆発音がした程度で怪我人もいなかったが、部屋が真っ黒になり後片付けが大変だったのだ。
そしてこっぴどく叱られた。
ほんとうに、恐ろしい教師だ。
だが、どうやら二年担当の
「、、、星宮は今日放課後補習だ。」
と吐き捨て、授業を再開した。
あああああぁぁ〜っっまた、、、また
ちらりと隣にいる瑠花に救いを求め視線を送ると、肩をすくめて苦笑いした。
助けてくれない!!、、、
隣の少女に絶望し、がっくり肩を落とした。
****
「お疲れ。楽しかった?」
玲が疲れ切って寮に戻ると、すぐに透海に声をかけられた。
「ぜーんぜん!!もう嫌だよぉ小瀧先生怖いよぉ」
「それは玲ちゃんが悪いよ。寝るからだよ」
と、瑠花は言う。
「ええぇ瑠花ひどい〜!瑠花隣なんだから起こしてよぉ」
「はいはい。宿題やるよ」
瑠花は軽く受け流し問題集を開く。
あいにく、理科の問題集だった。
「また理科?!もう嫌だよ〜〜っっ!!!」
「どうしたの玲?」
柊雨が帰ってくるなり声をかける。
「しゅうせんぱい助けて!!」
と問題集を柊雨に突き出し、助けを乞う。
「どれどれ、先輩が教えてあげよう」
玲の隣にすとんと座り、寄った。
横顔は綺麗で、さらさらの髪が触れる。
「近いですよ柊雨先輩!そういうことしてるから変なあだなつけられるんですよ!」
「え?なんのこと?」
頬杖をつき、にこりと全く悪びれず笑う。
さすがは恋愛の魔術師、ガチ恋製造機。
優香里が、柊雨のことを「柊雨くん、ガチ恋製造機があだななんだってー!」と教えてくれた。
聞いた話によると、ファンクラブがあるだとかないだとか。今頃同じ寮生の私は、ファンに恨まれているのだろうか。
「ほらなにぼーっとしてるの?やるよ!
僕も忙しいんだよねー夢に対するレポート書かなきゃ」
なんてぼやく。忙しい中でも勉強を教えてくれる柊雨が優しいな、と思った。
これは自然な優しさで、こういうところもモテるんだろうな、なんて考えていたら
頭にチョップが落ちる。
「だからー!!玲〜?!」
柊雨が腕を組み目を細める。
かちん、と背筋が凍る。切れ長の目の奥に潜んだ氷のような視線が背筋を固めた。
「はっはい!!やります!!」
「よろしい。さぁやりますよ」
落陽しかけた空は、深く、優しく照らす。
かつての星を思わせるほどに、優しく――
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