夢中に咲く一等星







はじめは、純粋な憧れ。






みんなに人気で愛されて、富も名声も美貌も兼ね備えた王女に憧れていた。




私は母が病気でお金もない。仕方なく王宮で働く。そんな毎日が苦しかった。





そんな毎日のなにが幸せなのか?

生きているだけでお金がかかると言うのに。







彼女は言った





「いつか報われる」






いつかじゃだめなの






「いざとなったらあたしが助ける」





無知なあなたで?




そんな素直になれない自分の性格に嫌気がさして、飛び出した。

行き場のない不安と怒りを雇用主にぶつけてはいけないから、逃げ出すしか方法はなかった。



彼女は、そんな私を見捨てなかった




「心配したよ〜。ほら、戻ろ?」




同い年とは思えない微笑みで、うずくまる私に手を差し伸べた。星の重圧と期待にも潰されない王女の手を、私は取った。





そのまま提携関係は崩れ、なんてことのないおしゃべり相手になった。

こちらも仕事。ただ仕事を感じさせない空気が暖かかった。ここに居たいと思った。






「ローラ!!みてみて王冠!」




「え?!持ってきたんですか?!それ王様のやつ……!!!」



平然と嬉しそうに王冠を持ってくる彼女に

本気で驚いた。




「やたー!勝った!」



「わざと負けただけです」



「…えっ?!んん〜…じゃあ今度こそ本気でもう一回!!」



なんでも信じる素直な性格に、誰もが惹かれる。私とは正反対。




「うぇぇ…国語できないよぉ」



「将来の国を担うなら、国語くらいできないとダメですよ。他の星との外交もあるんですから」



「…ローラは同い年とは思えないくらいしっかりしてるね〜」




私に言わせればあなたのほうが羨ましい





でもそのうち気がついた。





彼女が人気な理由は、王女という肩書きでもなく、正真正銘彼女の性格や温かさだということ。





私が今まで羨んでいたのは肩書きじゃなく、

彼女の性格なんだと。






そのとき、無意識に言葉は溢れ出た

口からこぼれ落ちた音はすぐに彼女の耳に拾い上げられた。







「…恵まれて生まれてきたくせに…八方美人も大概にしてなよ……」





口にしてからはっとした。



それは言ってはいけない。そんなこと思ってない──




そんなの全て言い訳でしかない。





心の奥底で感じていたことだった。

いつのまにか生まれた、本音。


嫉妬、妬み。その感情が入り混ざった言葉は、ナイフのように鋭く自分自身の胸まで突き刺した。




心の声がはっきりと漏れ出た。





唐突に、殺される、と思った。


王にバレたら処刑されると。




……

こんな時まで自分の死を心配していることに

惨めになった。

自分が傷つけたくせに、勝手に涙が溢れそうになる。





彼女は小さく驚いた顔をした。


直後にら眉尻を下げて、悲しげに微笑んでいった。









「ごめんね」






と。




ただその一言だけ呟いて。




そのとき全身が焼け死んでしまうかと思った。




どこまでも優しい人




八方美人なんかじゃない




なんて綺麗で澄んだ心なんだろう




心の奥底から他人の幸せを願える人なんだ、と。



言葉が出なかった。謝れなかった。






今でもそれを延々と後悔している。






──あれから四年。

私は彼女を夢見て憧れて、胸を焦がしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る