「いっぱい作るから食べてくださいね〜っ」


玲は大きな声でそう口にする。

ここはパーティールームと言う寮の一角。

大人数でパーティー、おまけにお泊まりまでできる優れた部屋だ。寮生ではなくても

宿泊可能で今までも数回お泊まり会をした。

メンバーはパンタソス寮、モルペウス寮、

ポートベール寮、それに寮生ではないナナとうみ娘が参加している。


たくさん食べてくださいね、と言っても玲は

全く作らないのだが。


少女は大人数のパーティーには慣れているが、渫奈とナナ、うみ娘は不慣れらしく

隅で三人手を取り合い固まっている。


「ほら、渫奈たち怯えてないでこっち

おいでよ」

柊雨がアイドルスマイルで手を差し伸べる。


「やっ、、、?!えっ、、、あわっ、、、?!?!」

渫奈は緊張のせいか、柊雨の手を取るばかりか慌てふためきドアにぶつかる。


「えっ渫奈大丈夫?」

うみ娘が他人事とでも言うように渫奈を

覗き込む。なんとも淡白な心配の仕方だ。


「仕方ないですよ。人見知りなんでしょう」

柊雨の隣にいたくじらが慌ててフォローする。

「ねぇねぇ渫奈っ!!ヘッドフォンで

何聴いてるのーっ?」

またその横で、優香里が空気を全く読まず

渫奈たちににこにこと話しかける。

渫奈にとって普段は同じ寮の先輩だが、こうしていろいろな人と一緒にいるともはや別人に見え、静かに固まる。

二人はやれやれ、とでも言いたげな表情で

優香里を別の場所に連れて行く。


「えっえっあああ、、、渫奈とお話ししてたのに〜〜〜」

優香里の断末魔がこだました。





「カレーとポテトできましたよー」

瑠花とむぅにゃ、つきみがテーブルに大鍋

カレーを運んでくる。お料理上手な三人は、今日、とても張り切っていた。十四人分の

カレーは大量で、なんとも言えないおいしそうな香りが漂ってくる。

カレーを作ったのはむぅにゃだそうだ。


「むぅにゃちゃんはお料理得意なんですよ」

くじらがふふん、と得意げに胸を張る。


「くじらが作ってないでしょ」

と、柊雨は半分苦笑い、半分引き攣った笑みを浮かべている。くじらが飯マズだと言うことは既に知っている。家庭科で散々と言っていいほどの思いをした。


「お腹すいた、、、!!」

まくが大鍋を覗き込み、目を輝かせる。

それと同時に玲のお腹もぐぅぅ、と鳴る。

瑠花はくすりと笑い、「食べよっか」と

お皿にカレーをよそう。


とろっとしていて、まろやかだけどスパ

イシー。学生が作ったとは思えない出来栄えで、みんな美味しそうにぱくぱくと食べる。

「おいしぃ〜っ」

かもめがぱくっと一口食べるなり、そう叫ぶ。皆が次々にスプーンを運び、おいしい、と音をあげる。


「ほいひいへっほうははん」


「なんて?」

玲はごくん、とカレーをのみこみ、美味しいね、透海ちゃんと言い直す。



「あっあの、くじら先輩」


控えめな声に、くじらが反応する。ヒカリがクッキーを持ってくじらに詰め寄る。

「これ、私頑張って作ったんです、、、!

ぜひ食べてください」

不適な笑みを浮かべながら、ぐいぐいとクッキーを押し付ける。

また実験台にしようとしている。

クッキーは形は良いものの色が赤色と、

食べ物がしていい色ではない。

それでもくじらが冷や汗をかきながら黙っていると、呆れたように


「もうっせっかく作ったのに〜。」

と拗ねた。少し可哀想だと思ってしまう。

しかし、この手の騙しはすでに何度か実践済みなので手の内はバレている。


するとヒカリはにやり、とさらに不気味な笑みを浮かべ、


「じゃ、じゃあ玲ちゃんか柊雨先輩かつきみちゃん、、、!!食べてくれる?!」


上目遣いでキラキラと、瞳を輝かせる。

しかしその瞳には実験、と言う文字しか浮かんでいなかった。


「「まっ、、、


マッドサイエンティスト〜っ!!!」」


つきみと柊雨は絶叫する。玲は意味がわからずぽかんと口をあけるばかり。

そのまま柊雨はつきみと玲の腕を引き、

くじらと共に逃げる。


「ああ〜〜〜っ!!待ってくださいよ〜っ」


ヒカリが手を伸ばすが、全く届かず爆速で逃げて行くのを見守るばかりであった。



***



「トランプ大会〜っ!!」

まくがトランプを掲げ司会を始める。


大人数パーティーの定番であろうババ抜きは、少女にとって大の苦手だった。

なんでも、嘘が下手なのである。

嘘が本当かすぐに顔に出て、ババを押し付けられ負ける。次こそは、と意気込むが結果は惨敗に終わることがほとんどだった。


まくは手際よくカードを混ぜ、手元に配る。

相当やり慣れているらしい。圧倒的不利だ。


「みんな届いたね?じゃあ始めるよー私から

時計回りで!」

まく、むぅにゃ、つきみ、くじら、ヒカリ、うみ娘、柊雨、玲、優香里、透海、渫奈、かもめ、ナナ、瑠花。

十四人ともなれば、回ってくるのは非常に

遅い。玲は柊雨のカードを引かなければいけない。この先輩は嘘が得意そうな、そんな予感がしてまたビリの恐怖が襲ってくる。



順番に、カードを引いていく。


すっと紙が擦れる音が聞こえる。

順番が回ってくる。柊雨は至って普通な、なんとでもない顔をしている。


「はい、玲引いて」

にっこりと微笑み、どれがはずれかもわからない。

なぜか1枚、手元の束から突き出たカードを引く。柊雨の口元が微かに動く。


引いたカードは――




ババ、だった。




下手すぎる。

柊雨は一瞬で悟る。

単純に周りと違ったようなカードを引く。

その動作は彼女自身を表しているようだが、

この子はカードゲームが下手だ。


!、、、どうしようハズレ引いちゃった!


引いてからは絶望なのである。

嘘が下手すぎ、誰一人としてババをひかない。


王女の威厳を持って、この勝負たたかい

に負けるわけにはいかない。



優香里が如何にも真剣な面持ちでカードを

引く。

結果は――



***


「いやぁ楽しかったねー」

ババ抜きで一位だった透海が、ほくほくとした表情でトランプを片付ける。

ちなみに二位は柊雨だ。


結果は、惨敗だった。ボロ負けである。

少女はすっかり肩を落とし、拗ねている。


「やっぱりあたし弱い!!」


「まあまあ、気にしない気にしない」

透海はにこにこと笑顔で玲の肩に手を置く。


「透海ちゃんが言ってもなぁ」

と、瑠花が苦笑いする。


すると優香里が、

「そんなことよりちょっと甘いもの食べたい気分〜」

なんて、ぼやける。


「もうお腹空いたんですか?」

とつきみが笑う。

さっきお昼を食べたばかりなのに。


するとそこで、くじらが言った。

「あの、手作りでケーキ作ったんですけど、

よろしければみんなで食べませんか?」


辺りの空気がぱきん、と凍る。

かもめ、まく、むうにゃ――

数知れない人が、一斉に固まる。

まさに時が止まったように。


それぞれ視線を動かすだけで、答えない。

くじらはおろおろと、周りを見渡すばかり。


「あ!あたし食べたいです!!」


少女が、手を挙げる。

少女はまだ被害を一度も受けたことがない。

周りが空気を察し、手を合わせた。



さようなら、玲――


お墓は作ってあげるから、、、!!



玲はぱくり、と大きな口でケーキを頬張る。

みな緊張した面持ちでそれを見守る。



玲が突然かたまる。

そして、言った。



「おいしい!!」



「「!?!?」」...

皆が仰天し、目を見開く。

まさかまさか、あのくじらだぞ、と言いたげに

口をぱくぱくと動かす。


「みんな食べないの?」

きょとんとした顔で、問いかける。

少女は、自分がまるで怪異を見るような目で見られていることに気がついていない。


するとむぅにゃが、

「、、、か、かもめ食べてみてよ!もしかして、

もしかしたら美味しいのかも、、、!」


ドギマギと、むぅにゃがかもめの背中を押す。

どうやらむぅにゃは少しも食べる気がなさそうだ。かもめは拒絶しようと考えたが、くじらの前でそれは失礼だと思い、恐る恐るかもめは一口ケーキを食べる。


そして、かもめは卒倒した――



***



「これにて、かいさーん」


かもめはものの数分で目を覚ましたが、今日のところは解散にしようと言う話になった。


かもめが倒れたあと、皆が気づいた。


玲の舌が異常だ、、、!!  と。


あの大勢の被害者を出すくじらの料理をものともせず食べ、なんなら美味しいとまで言ってのけた。只者ではない。



このあと少女がくじらの料理を食べまくり、

それに気を良くしたくじらが大勢に料理を振る舞い多大な犠牲者を出すことになるが、

それはまた、別のおはなし。

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