変化

「???」


少女は、立ちすくむ。

地球と言うものは、こんなにも広大なのか。


「結局よくわかんないけど、入学式に来ちゃった、、、」


先日謎のお店で手に入れたカードに、

日付と場所が書いてあり、暇だったので行ってみたのだ。

行ってみたが、その学園は広すぎた。

広くて、新しくて、おしゃれ。

まさに憧れの学校。


「地球ってすごい、、、!!」

少女は期待と興奮で満ち溢れている。

もうすっかり父のことなど忘れていた。

少女は今、目の前に広がる光景に胸躍る

ばかりだ。


「あらーあなたが星宮玲さん?」

大きな建物から女性が出てくる。

その女性は上品にゆったりと笑った。

不思議と安心感を覚える品格で、少女の

僅かな警戒心は和らいだ。


「あっはい!!なんですか?」


「、、、地球外生命体にはとても見えないけどね。人間とそっくり。」

と、その女性は言う。

少女は自分が地球外生命体、と言われていることは分かったが、意味は分からなかった。


「あ、私あなたの担任じゃないんだけど、、、。よろしくね。あなたの担任今日お休みなのよねー、、、大事なときに。

聞いたところによるとあなた、絶望的な

方向音痴らしいからお迎えにきたの。

ってもう始まっちゃうわ!行きましょう」

そう言って少女を無理やり引っ張って行った。


私、入学するなんて言ってない。


引きずられながら、真顔でそう思った。

体育館にはしっかり少女の分の椅子まで用意

してあり、他にも大勢の女の子たちが座っていた。

半ば強制的に座らせられ、長い校長の話を聞かされた。

正直、眠かった。

半分くらい寝ていてほとんど記憶はないが、

生徒会長が可愛かったことだけは覚えている。少女と似たタイプで、声が大きかった。


教室に着いたが、私の担任は、いなかった。

仕方ない。そういえば、さっきの人が

休みとか言ってたっけ。

すぐ会えるし、と担任のことは深く考えなかった。


「自己紹介、しようか。」

と黒髪ツインテールの子が言った。

このような場で、仕切ってくれるのはありがたい。


「はい!あたし、星宮玲です!!

えっとえっと、、、一年生です!」

少女は明るく無邪気に自己紹介をする。


「月雪瑠花です。よろしくね、玲ちゃん。」

先程の黒髪の子は瑠花、と名乗った。

他にもいろいろ自己紹介があったが、

残念ながら少女は記憶力がよくなく、ほとんど覚えていない。だが、机には親切なことに

一人一人名前が書いてあったので、名前は

なんとか呼べそうだ。


後ろで、自己紹介が突然止まった。

漢字が読めないが、せつな、と読むのだろう子は、かもめと言う女の子を見つめるばかりで話そうとしない。

これでは進まない。


なにか喋りかけたら話してくれるかな、、、?


「あたしたち自己紹介終わったよ〜

渫奈ちゃん、なんか喋ろうよ〜」

そう、声をかけてみた。

だが渫奈は一向に喋ろうとしない。


人見知りなのかな、、、


結局渫奈は一言も喋らなかった。


*****


このあと、寮について説明があるらしい。

寮については知らなかったが、突然地球に飛ばされた少女にとって寮はありがたかったし、楽しそうだとも思った。


私の寮は、モルペウス、と言うらしい。

突如並んだ横文字に、頭が追いつかない。

寮の名前を覚えられる気がしない、と少女は思った。

寮は、なぜか故郷の星を思わせる温かみが

あって、この星に一人飛ばされた少女に、

少し安心感を与えた。


「こっこんにちは〜」

いくら明るく怖いもの知らずな少女でも、

ここばかりは緊張し、恐る恐る戸を開けた。

中に、先程の話した瑠花と名乗る女の子がいて、少しほっとした。

他には、先輩らしき人がくつろいでいたり、

同じ一年生(さっき自己紹介で見た)の

女の子(?)が荷解きをしていた。

少女が、いちばん寮に着くのが遅かったらしい。先輩はこちらに気がつき、

「あ、新入生全員揃ったねー。

僕、柊雨。よろしく。」

と、端的に自己紹介を終えた。


「あ、玲ちゃん!おんなじ寮だったんだ!

玲ちゃんと透海ちゃんはもう知ってるだろうけど、月雪瑠花です。よろしくお願いします」

と、柔和な口調で瑠花が話す。


「あたし、星宮玲です!!一年十組です!!

今後ともよろしくお願いしますっ!」

透海と呼ばれる少女が話す気配がしなかったので、ひとまず少女は自己紹介をする。


「、、、夢月透海。よろしくお願いします」

短く、ぽそりと話す声は人見知りなのか、

はたまた人付き合いが苦手なのかは分からないが暗く、感情が見えない声だった。

ただ、少女は昔から人付き合いが得意なのだ。こう言う子は、時が経つにつれて仲良くなれる、今焦るべきじゃないと知っていた。

少女は、理科と国語、数学と技術家庭科が

できないだけで、生きていく上での知識においては賢かった。

もちろん、これでも王女だからだ。


「透海ちゃん〜!!透海ちゃんも

あのカード、、、学生証貰ってここにきたの?」

、、、だが、今すぐ仲良くなりたかった。

さっきまでの考えは忘れたことにする。


「え、あっああ、、、そうなの。れい、、星宮

さんは?」

透海は玲、と一度言ったが、躊躇いがちに

星宮さん、と言い直した。


「もう、玲でいいのにーっ!!

わざわざ言い直さなくてもさ。気軽に

呼んでね!」

少女がそう言うと透海は驚いたように少し黙り込み、

「分かった。ありがとう玲」

と優しく微笑んだ。どうやら初対面で緊張していただけらしい。すぐに打ち解けてしまった。


もう空は茜色に染まっている。そろそろ――


「ほら一年生たち。お風呂、いくぞっ」

柊雨がぱちんとウインクし、透海たちを案内する。


「ひろいっ!!」

大浴場は想像より遥かに大きく、

真っ白な湯気が立ち込める温泉だった。


プールと同じくらいの感覚でダイブする。

「こらっ」

瑠花に短く怒られる。が、瑠花も温泉にダイブする。

「こらっ!」

瑠花の声を真似て、同じように言ってみる。

「えへへ」

瑠花は、とろけた顔ではにかむように笑った。温泉が好きらしい。


温泉、きもちぃ〜、、、


少女は普段このようなお風呂に入っることがないので、とても新鮮で新しい発見だった。


「えええ!?くじら先輩、人魚だったんですね!!」

誰かの大声が聞こえてくる。


にん、ぎょ?


聞き慣れない言葉に耳を疑う。

人魚。古くから伝わる謎の生物。

玲にとって、人魚は儚げで、懸命に生きている

憧れの存在だった。

そんな人魚が、今目の前にいるなんて、、、!!

少女は溢れる好奇心で、胸がいっぱいだった。


少女は気づいていない。自分がまた、

地球人からしたら珍しい存在だと言うことを。


そこからはあまり覚えていないが、その人魚のくじら先輩がげっそりした顔で寮に帰ってきたことだけは、はっきりと覚えている。 

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