代理学園

詩瀬

波乱の日常


 少女は、王家の子だった。


 産まれたときから王の元でくらし、

何不自由なく暮らしてきた。


 だが、少女には“夢”があった。

 決して自分の為ではない、誰かの幸せを

願う夢。

 そんな少女が見つけたのは ――

1枚の学生証、だった。


 ****


 少女、星宮怜はとある星の王の一人娘。小さい頃から何不自由なく育てられ、幸せに暮らしてきた。

 そしてのちにできた夢は、「誰も一人にしない」本当のことを言うと、みんなを笑顔にしたい、とは思うがそれはいくら頑張っても無理だ、と言うことをあまり勉強ができない少女でも分かっている。理解、している。



 ある日、お父さん(王様)にお使いを頼まれ向かっていたところ、壁に寄りかかる母と息子であろう家族を見つけた。

 服はかろうじて着ているが、あまりのボロボロさで、もはや着ていないも同然な姿に胸がきゅっと音を立てて痛む。すると、

「食べ物をくれ」母と息子が言った。

「・・わかった。待ってて」

 そう少女が言うと、せがむようにしてお願いしていた母子も、少女が悪い人ではないと安心したのかホッと息を吐いた。

 少女は慌てて近くのパン屋でありったけの

 パンを買い、母子に手渡した。

 母子は一瞬驚いた顔をしつつも、すぐに奪いとるようにして貪り食ってしまった。

少女はあまりの衝撃で、言葉を失ってしまった。



「・・お父さん。あのね」

 少女は俯きつつ言った。

「おう、どうした怜」

 尊大な口調で娘である少女に応える。

「やっぱりこの星は、もっと変えるべきなんじゃないのかな、、、みんなが幸せに

なるような、そんな星に」

 少女がそう言うと、少女の父はさっと顔色を変えた。

「・・もう十分お前の願いを叶えていると思うぞ。まだ、何か望むことがあるのか?」

 少女の父は、引き攣った頬で問い返す。

少女は、自分の父が機嫌を損ねたことに気がつき慌てて付け加える。

「だってね・・」

「もういい」

 少女の父は娘の言葉を遮り、何があったのか、今日の父は言葉を続けさせてはくれなかった。

深く息を吐き、眉を顰め、「怜、来なさい」と少女をどこかへ連れて行った。


 ****


 少女が気がつくと、そこはかつての故郷ではなく、見知らぬ土地だった。

「ここ、どこだろ」

 それが、少女が最初に思った疑問だった。

 目を凝らし辺りを見渡すが、全く見覚えのない土地。


「でさーそのときねー、、、」

「えっそうなの?!ほんとに?!」

遠くの方から途切れ途切れに何者かの声が聞こえてくる。


、、、ここ、地球なんだ。


少女はすぐに理解した。少女は特定の教科の

勉強はできないが、小さい頃から英才教育を受けてきたのだ。どんな星の言葉だって分かる。もちろん地球と言う星の言葉も、音楽だって少女の父から教わってきた。

そして、改めて冷静に考えてみる。

しかし、どれだけ考えても先程までの会話で

自分に非があるようには思えなかった。

そこで少女は考えるのをやめ、この星を探検することにした。考えることが面倒くさくなってしまった。いや、どうにかなるだろ、と思ったからだ。

少女は楽観的だった。


少し歩いていたが、少女は絶望的な方向音痴だった為、もといた場所が全く分からなくなってしまった。

「あーあ、、、」

これでは帰れないのではないか。

微かな不安に駆られたそのとき、ふと上を見上げると、見知らぬ建物の前に立っていた。

その建物は一見とても古びているように

見えるが、よくみると真新しい窓ガラスや、

小瓶などが散乱していた。

シックな色合いで、おしゃれだ。

色とりどりのステンドガラス越しに、その店のものであろう商品が見える。


さっきまで、あっただろうか。


少女はそう思うが、深く考えるより、

その謎めいた店は少女の好奇心を誘った。

その店の前で立ちすくむ少女に、風が

揶揄するかのように静かに吹いた。

まるで糸に引かれるかのように少女はその店に入っていく。

店の中は小さな豆電球がひっそりと隠れるかのようについているだけで、暗かった。

だが不思議とそれは店の雰囲気にぴったりだな、と少女は思った。

しばらく店の中をみて回った。

店の奥の棚角にうっすらと埃を被った1枚の

カードらしきものがあった。

それを手に取り、埃を払う。

カードは宝石のように、眩い光を放った。

まるで、周りの光を全て吸収してしまった

かのように輝き、少女は一瞬にして、

目を奪われた。

表面は、トパーズのような色をしているが、

よくみると、鈍色にびいろが奥深くで輝いている。

言葉にはあらわせないほど美しい。


「綺麗、、、」


少女からは感嘆の声が漏れた。

思わず見入ってしまった。

だが、これは私のためのものではないのかと

錯覚するほどに、私にみつけてほしかったのではないかと思ってしまうほどに、ひっそりと佇んでいた。


「何かお探しで?」

突然背後から声がした。

弾かれるようにふりかえると、店員であろう

女性が立っていた。


「あの、これが欲しくて、、、」

少女がそういうと店員はにこやかに微笑み、

言った。

「それに目をつけるとはお目が高い。

流石でございますね。かしこまりました。」

少女には何が流石なのかわからなかったが、

褒められているようなので、静観することにした。


「あの、いくらですか?」

大丈夫。お金はある。いくら払ってでも

欲しい、とまで思っていた。


「いくら、、、?ああ、値段のことですね。

そうですねぇ、、、お代は頂きません。

店員は少し考える仕草をしてそう言った。


「えっ要らないの?お金ならありますよ?」


「出世払いみたいなものです。お受け取りください。」

店員はそれ以上なにも言わせない、とでもいうような物言いで言った。

怪しかったが店員が言うのであれば、と

貰うことにする。

少し後ろをふりかえり、

「では」と一言置いてから店をあとにした。


後ろで密かに店員が微笑していたことに、

少女は気が付かなかった。


少女はなんとも言えない満足感を得て、

カードらしきものを改めて見る。

すると、突然カードは先程と比べ物にならないほどに眩く輝きだす。

そこには、こう書いてあった。



『あなたの夢は?』



私の、夢。

「みんなを笑顔にしたい」

心からはそう、願っている。





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