辿々しく、巡る

朝日が、昇る。窓から、涼やかな光が差し込んでくる。

「おっはよーございます先輩っ!!!」

少女の爆音の挨拶で、柊雨は飛び起きる。


「うわっ?!うるさ、、、」

気怠げに、柊雨はベットから降りる。

それと同時に、瑠花と透海もうっすらと目を覚ました。

「おはよー、、、」

少女以外、ここの寮の人間は朝に弱いらしい。(透海は夜ふかしなだけ)

少女は体内時計でぴったり6時に目を覚ます。

そして、寝起きとは思えない声量でみんなを

起こすのだ。お陰でまだ誰も寝坊や遅刻をしたことがない。

一同、水回りに移動する。寝癖を治したり、

みなすることは様々だが、これが毎日のルーティーンと化した。

柊雨は、朝からポップでお洒落な曲を流す。

鼻歌を歌いながら乱れた髪を整える。


これが、モルペウス寮の1日の始まり。


****


「おはよーみんなーっっ!!」

教室に着くなり、大きな声で挨拶する。

「おはよー玲ちゃん」

ヒカリが目を輝かせながら返事をする。

今日も、くじら先輩を実験する気だろう。

ここのところずっとこんな感じだ。


「玲ちゃん〜今日、一緒に実験やる?」

ヒカリが怪しげな笑顔で詰め寄ってくる。


「!!」

くじら先輩には申し訳ないが、前々から実験が少し楽しそうだな、とは思っていた。


「、、、え」

背後から、声がする。入り口の方だろうか。

徐に、振り返る。


、、、くじら先輩、、、!!


くじらは反対方向に向きを変え、走りだす。


「くじら先輩待ってぇぇぇーーー」

ヒカリの呼び止める大声が、響く。


「あっあたし捕獲してくる!!」

前回も言ったが、もう一度言う。少女は国語ができない。


少女は、くじらを追いかけるようにして

走り出した。


****


「はあ、、、はあ、、、っはあ、、、」

すぐに、くじらは捕まった。玲の足の速さ

には敵わなかった。それもそのはず。もとは

人魚だ。

階段の踊り場に追い詰める。


「くじら先輩〜っ!」


「ひっ」

しゃがみ込んでいるくじらは短い悲鳴をあげる。


「あの、あの、人魚なんですか!?」

少女は何故追いかけていたかも忘れていた。

先日、お風呂で聞いた人魚だと言う話を思い出す。


「えっはい、、、」

くじらはぎこちなく、敬語で応える。

これでは、どちらが先輩かもわからないようなさまだ。


「あわになっちゃったりしますか!!」

少女は初めて見る人魚に興奮していた。

好奇心のあまり、立て続けに質問する。


「えっ、、、と」

戸惑い、目を泳がせる。

少女の唐突な質問に、頭の整理が追いついていない。くじらは冷静になって聞きかえす。


「あなたは、地球に住んでるよね?陸には便利なものがいっぱい!わたしの実験より、

楽しいことがいっぱいあると思うよ!!」


くじらは賢かった。

こう言えば、好奇心旺盛な少女はきっと、

自分以外のものに興味をもつだろう、と。

だが、かえってきたのは意外な反応だった。


「えっ?地球じゃないです」

少女はくじらを見つめるばかりだ。


この先輩、なんだか自分と似てる、、、気がする


少女は妙な安心感と、親近感を抱いた。

この先輩になら話せる――

少女は自分の今の境遇を、この先輩に話し始めた。


****


「、、、じゃあ、玲ちゃん地球外生命なんだね」

くじらはなるほど、と頷きあの先生と同じく

地球外生命、と言う言葉を使った。


「地球外生命ってなんですか?」

少女は賢い先輩に問う。


「地球の外――つまり地球じゃないところから来た生物のことかな」

難しく分厚い辞書を引くより、くじらの説明はいくらか分かりやすかった。


くじらは、少女が同じく特別(?)だと分かるとすっかり心を開き、いろいろなことを教えてくれた。

少女はこの先輩のことを知り尽くしたんじゃないか、と言うほどに教えてくれたのだ。

くじらの身辺の話も熱弁してくれたが、

途中で少しあくびをしていたことは内緒にしておこうと思った。



少女が、自分は地球外生命体だと打ち明けたのを陰でこっそり聞いていたヒカリに第二の実験台されたのは、また別のお話。

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