甘い歌声の先に
好きだな、と思った。
この校風が、自分にあっていると思った。
自由で、生徒個々の意見を尊重する。
ルールも比較的易しい。枠にはまらない形。
それが、この学校になれた少女の感想だった
そして、ここにいる皆の共通点は
必ず夢があること
夢を失うことは、決して許されない――
****
耳をくすぐるような甘い歌声。
少しポップで、明るい曲調。
少女は今、二年生たちの突如始まった
音楽会(?)に付き合っていた。
何やら一.二年の仲を深める親睦会だそうだ。
生徒会長主催らしい。だが、そうは言ってもこの広い体育館に生徒を集めるだけでは、
親睦になるはずがない。
そこで優香里はミニライブをするか、と
考えた。これまた彼女らしい発想だ。
メインは柊雨の夢の後押しとしてステージ上で踊る、はずだったのだがどうしても尺が
足りず急遽くじらとむぅにゃが歌うことになった。
むぅにゃはノリノリだったのだが、くじらはもともと目立ちたくはないので、反対したが
仲の良い優香里にそう言われては仕方ない。
結局彼女の良心が勝り、歌うことになった。
「はーい優香里でーす!!今から一、二年生
交流会始めまーーーすっ!!!」
鼓膜が破れるほどの声量に、一年生は耳を塞ぐ。二年生は既に慣れており、やれやれ、とでも言いたげな顔をしている。
柊雨は優香里からマイクを取り上げた。
「二年十組の柊雨でーす!今からライブ始まるよ〜!!」
優香里をステージの端に追いやり、盛り上げる。
「優香里ちゃん、あなたはマイク禁止だよ」
くじらが優香里の肩に手を置き、言う。
それは皆の鼓膜を守るためだ。仕方がない。
派手な演出と共に、音楽が流れ出す。
柊雨がキラキラの衣装を身に纏う。そのさまは、まさにアイドル。
なれた様子でウインクし、観客を沸かせる。
本当のアイドルかのような人気で、既にファンもいる。
「柊雨先輩、かっこいい!!」
まくは柊雨にすっかり見入っている。
音猫も珍しく、しっかり起きている。
そしていくつもの歓声を浴びながら、ステージを後にする。大盛況で、柊雨のアイドルになる、と言う夢はまた一歩近づいた気がした。
「続いて、くじらとまくによる歌ですー!」
今度はマイクを持たずに優香里が言う。
わあああ、と先ほどのライブの余韻が残り、
盛り上がりは最高潮だった。
だが、盛り上がれば盛り上がるほど、くじらの緊張は増していく。むぅにゃはノリノリで、今にもステージに飛び出していくような勢いだ。
ああ、やっぱり断るべきだったかも
どうしよう、、、どうしよう、、、
ぐるぐると、くじらの脳内では嫌な考えが回っていく。
だが、可愛い後輩もいる。下手に不安を見せられない。
「、、、くじら先輩?早く行きましょう?」
むぅにゃは心配そうにくじらの顔を覗き込む
「緊張、してますか?」
静かに、むぅにゃは問いかける。
「!、、、ちょっと、ね」
くじらは曖昧に微笑む。
その笑顔は、どこかで見た、哀しい笑顔。
むぅにゃは驚き少し考える。
「っ、、、わっ!?」
むぅにゃはくじらの腕を強く引く。そのままステージまで引っ張り出した。
「周りを見てください。みんな、くじら先輩を待ってます。失敗くらい、誰も気に留めません。だから、歌いましょう!!」
くじらは、心が温かくなった。
ステージの方を眺めるみんなの顔をみて、
必要とされている自分に。
自然と声が出た。
甘い、とろけるような歌声。
優しく包み込む。体育館だけが、柔らかな
熱気に包まれる――
****
「これにて一、二年交流会を終了します!」
温かな拍手と共に、静かに幕を閉じた。
皆が笑顔で、終わった。
「えー、、、今から急遽、柊雨のファンサ始まるそうでーす。お急ぎくださーい!!」
そう、声がかけられるまでは。
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