甘い誘惑
なんてことない休日の朝。
少女は六時にぱっちり目を開けた。
ひんやりと、澄んだ空気が入ってくる。
隣のベットでは、瑠花が寝ている。
いつもなら、優しく声をかけて起こしているころ。今日は休日ということもあるせいか、起こす気にならなかった。
神妙な顔つきで、皆の寝顔を眺める。
それからしばらく『地球人』を観察していた。地球には不思議なことがいっぱいだ。
近頃そう思う。
地球人は優柔不断で、臆病。
周りと同じにしたがる習性がある。
みんな何かに怯えている。何かを求めている
地球人と同じになるものか、と少女は思って
いた。特に優柔不断というのはこれからの星を担う王女にとって致命的で、物事を何も決められなくなるのは国の将来にかかっているほどだ。
そんなことをぼんやり考えていると、全く関係のないことをふと思い出した。
、、、今日朝ごはんに映えるパンケーキを食べに行くんじゃなかったっけ?
瑠花と柊雨の強い希望で、おしゃれなパンケーキ屋さんに外食する、と言う話を少し前からしていたはず。もちろん、玲の奢りだが。
もう七時。急いで支度をしないと間に合わない。とくに柊雨は時間をかける。
仕方ない。急がなければいけない。
「起きてーーーっっ!!!ばんけぇぇっき」
腹式呼吸で精一杯叫ぶ。
すると、普段は声をかけてもそうすぐには
起きない瑠花と柊雨が飛び起きた。
「「パンケーキッッ!!!」」
バタバタと駆けて慌てて支度を始める。
透海は甘いものが苦手なのだが、そのパンケーキ屋さんにはモーニングセットもあると聞き、行くことにした。玲の奢りだし、どうせみんな行くならと。
*****
「「わあああっ」」
パンケーキが自分の席に運ばれてきた途端、
瑠花と柊雨はスマホを構えひたすら電子音を鳴らす。もうかれこれ三十分撮っている。
少女が頼んだのは、ストロベリーレアチーズバニラクリームメープルパンケーキ。
横文字が苦手な少女だが、なぜだかはわからないが、こればかりは言えてしまう。
そのパンケーキはとにかく派手で、トッピングに埋め尽くされていた。だが甘党の少女にとっては至高のパンケーキ。ふわふわで、じゅわっとバターがとろけだす。レアチーズは濃厚で、クリーミー。
その横で、透海は美味しそうにモーニングを食べる。なんともおかしな光景だ。
「ええっむぅにゃちゃん本当にそれ食べるんですか?!」
「当たり前じゃないですか!!こんなに美味しそうなパンケーキ他にないですよ!!」
近くのテーブルから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。この声ってまさか――
「えええっむぅにゃちゃんたち?!」
「えええっ玲ちゃんたち?!」
二つの声が重なる。
それと同時にそれぞれの寮のメンバーが振り返る。
「ええっパンタソス寮の人たちもパンケーキ屋にきてたんだ!」
ようやくパンケーキに手をつけ始めた柊雨がパンケーキを頬張りながら言う。
あの横文字寮の名前を噛まずによくさらりと言えるな、とどうでもいいことに感心しつつ、この偶然にも驚いている。
「、、、透海、パンケーキ食べないんだ」
かもめが苦笑いしながら少女と負けないくらいの甘々デコデコチョコパンケーキを食べる。
(ああ、あっちも美味しそう〜、、、)
なんてことを考えたいた。パンケーキ選びにもそれぞれ個性がでている。
こういう一面をしれるのはいいな、と少女は
嬉しく思う。
てんやわんやで隣合うテーブルをくっつけ、みんなでパンケーキを食べることにした。
「、、、そのストロベリーなんとかパンケーキ、美味しそう、、、玲、一口ちょーだい」
かもめが物欲しげに上目遣いで見つめる。
「でしょでしょぉ〜!!なかなか良いところに目をつけるねぇかもめっ!かもめのも一口ちょーだい!」
お互い気になっていたパンケーキなのだ。
ぱくっとかもめのパンケーキに食いつく。
チョコパンケーキは生地がしっとりしていて
甘くて、これまたふわふわ。ソースはとろりとしていて、少しフルーティーな香りがする。
「ん〜っ美味しいっ!!」
「玲のも美味し〜っ!」
次食べるならこのパンケーキ食べようかな、
と思った。新たな発見だ。
「、、、もうお昼になっちゃいますよ?」
パンケーキをすっかり食べ終わったくじらが
澄ました顔で尋ねる。
もう、こんなに時間が経ってしまった。
楽しいことは一瞬で過ぎるように感じるとはまさにこのことだろう。
「そろそろ帰ろうか」
瑠花がそう言う。
少女は慌ててパンケーキを口の中に詰め込む。その姿はまさにハムスターだ。
急いでのみこみ、財布を握る。
そして、皆で店をあとにした。
少女が全員分のパンケーキを奢ったのは、
言うまでもない。
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