第45話「さあ、更に、論より証拠だ!」

『ま、待てえ!! ナタン様にSOSをう!! つ、伝えてくれないかああ!! だ、大至急助けがいるうう!! この町へ来て欲しいんにゃあああ!!』


絞り出すように、声を張り上げ、ユーグは自身と猫達の窮状を訴えた。


その訴えを聞き、ロジェは歩きかけた足を止め、ゆっくりと振り返った。


『よし、伝えてやろう』


『あ、ありがたい! た、頼むっ!』


『但し、条件がある。何が起こっているのか? それとも起ころうとしているのか? 詳しい事を俺へ教えるんだ』


『む、ううう……』


『もし、正直に言えないのなら、ユーグ、お前が窮地に陥っている事をナタンへは一切伝えん』


『……………………………………………………』


ロジェからきっぱり言われユーグは黙り込んだ。


そんなユーグへロジェは話をするよう促す。


『悪い事は言わない。まず、俺へ話してみろ。内容によっては力になれるかもしれんぞ』


『………わ、分かったよ! 背に腹は代えられない。話す……だが、あんたがいくら強くても、たったひとりでどうにかするのは絶対に無理だ』


『いや、だから、とりあえず話してみろって』


『む~、そこまで言うのならいいよ、話してやる。実は俺、以前町の外でパトロールに出ていた時、オークキングをボスとする大群に遭遇し、気配を消して隠れたんだ』


やっぱりさっき俺が倒したオークの大群が絡んでいたか。

とロジェは思ったが、話を続けるようユーグへ促す。


『成る程、それで?』


『ああ、その際、奴らがぎゃあぎゃあ相談しながら発する波動から知ってしまったんだ』


『波動から知った? 何を?』


『ああ……奴らが放っていたのはとんでもなく醜い殺気だった。この町へ攻め込み、自分達より弱い人間を襲って徹底的にいたぶり、しまいには腹いっぱいになるまで、むさぼり喰おうというろくでもない殺気さ』


『ふ~む』


『つまり襲撃だ。街道で馬車などを襲っていたオークの大群が、近いうちにこの町を襲うとさ』


ユーグは更に話を続ける。


『さっきも言ったが、この町を襲って来るのはオークキングをボスとした3,000体を超える大群だ。そうなったら人間だけじゃねえ! この町に住む一般猫も巻き添えで喰われてしまう!』


『まあ……そうなるだろうな』


『ぐずぐずしてはいられない! オークどもは明日にも襲って来るかもしれねえ! 対してこの町の衛兵隊は300名。たった1/10だ。仮に俺が加勢しても、全然勝負にならねえ!』


『成る程』


ここでロジェは、ユーグの『器』を試してみる事にした。


『ユーグ、でもよ、お前だけなら、この町から逃げられるんじゃないのか?』


悪魔のささやきと言えるかもしれない。


身軽で素早いケット・シーのユーグだけならば、

オークの襲撃がある前にこの町を脱出。

王都へ逃げ帰れるのでは?と、ロジェは問うたのだ。


しかし、ユーグは激高する。


『はあ!? 俺だけが逃げる? 馬鹿を言え! 配下になったこの町の一般猫達を見捨てられるわけないだろ!!』


ロジェが期待した通りの答えをユーグは言い切ってくれた。


真っすぐな視線で「ぎっ!」とロジェを思い切りにらみつけるユーグ。

彼の心から放たれる噓偽りのない波動を感じる。


そんな質問をしたロジェを見て、更にユーグの怒りが倍増する。


『何だよ、そんな事を言うのは自分だけすぐ王都に戻るからか? すっげえ落ち着きやがって! 帰り道ではお前だってオークどもに襲われるかもしれねえんだぜ!』


『俺が襲われるって? 多分そうはならない』


『はあ!? 何を根拠に!! 証拠を見せろおおお!!』


心の声で絶叫するユーグ。


ロジェと表向き黒猫のにらみ合い。

周囲に他者は居ない。


その瞬間!


転移魔法が発動され、ロジェとユーグの姿は煙のようにかき消えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


生まれて初めて経験する転移魔法の感覚。


身体がふっと浮き上がり、落下するような不可思議な感覚。


思わず怖くなり目をつぶってしまい、てユーグは絶叫する。


心の声と肉声で。


『うおおおっっっ!!!!!』


ふぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ~~~っっっ!!!!!


『ははは、びっくりしたか? まあ落ち着けって』


そう言われても落ち着かない。

言葉も全く出ない。


『……………………………………………………』


『ユーグ、お前に鎮静の魔法をかけてやろう。心が落ち着き平穏になるぞ』


ロジェの言葉が終わった後、ユーグの身体は温かい波動で包まれた。


鎮静魔法の効果は抜群、ユーグの興奮がさめ、心が穏やかになって行く……


『……………………………………………………』


『俺には索敵で分かる。周辺に魔物は居ない。危険はないから、目を開けてみろよ』


ロジェにそう言われ、ユーグが目を開けるとそこは街中ではなく、

人間など皆無、一面の原野。


『こ、ここは!? な、な、何が起こった!?』


ユーグはかすれた声でようやく言葉を発した。


『ああ、俺が転移魔法を使った。ここはさっきの町から5㎞ほど離れた原野だ』


『て、て、転移魔法!!?? あ、あ、あんた魔法使いだったのかって!? そ、そんな魔法、とんでもなくねえか!! ナタン様だって使えねえよお!!』


『ああ、そうだな、だが論より証拠。俺には使える』


『……………………………………………………』


『もう一度言おう。周辺に魔物は居ない』


『そ、そうなのか! なら安心だ。ここはオークどもを見た場所からえらく近いんだよ』


『鎮静で落ち着き、冷静に考えられるようになったら、状況が見えて来たらしいな、ユーグ』


ロジェの言う通り、ユーグは判断力が戻って来たらしい。


『お、お前! な、何故!? こんなところへ俺を……連れて来たんだ??』


『ああ、ひと目を避けるのと、証拠を見せられるからだ』


『ひと目を避ける? 証拠を見せる?』


ロジェの言う事が意味不明。

ユーグには理解不可能……である。


『さあ、更に、論より証拠だ!』


ロジェがそう言い、収納の魔道具から、どさっと出したのは……


先ほど倒したばかり、かつてオーク3,000体を率いていたボス、

オークキングの死骸だったのである。

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